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HIP HOP DNAはどのような想いで立ち上げられた?生みの親であるユニバーサル・ミュージックの担当者にインタビューをしてみた。

 

Interview & Text: Kaz Skellington (Playatuner)

 

 

WEBメディアやプラットフォームを立ち上げ、毎日運営するのは簡単なことではない。もちろんそのメディアのファンを楽しませるために毎日コンテンツを作るのも重要なことであるが、メディアを立ち上げたときの理念と大義を忘れずに、ブレずにコンテンツを作り続けるのも、メディアを運営する上で非常に重要である。私はPlayatunerというヒップホップWEBマガジンを一人で立ち上げ、運営しているのもあり、このHIP HOP DNAが2018年の春頃にスタートしたときのことを鮮明に覚えている。

 

特に印象深かったのが、ユニバーサル・ミュージックという大手メジャーレーベルが「ヒップホップ」に特化したメディアを立ち上げたという点であった。大手レーベルが「ヒップホップ」のマーケットを広げるために、プラットフォームを自ら立ち上げるリスクを負ったという点にも、期待を胸に膨らませた。いちメディア運営者として、質問がつきないなか、この度HIP HOP DNAの立役者となったユニバーサル・ミュージックの洋楽マネージング・ディレクターである井口昌弥さんと、洋楽アーティスト担当/カルチャー&ライフスタイルマーケティング担当である飯島沙来さんにインタビューをする機会を頂いた。

お二人のバックグラウンドやメディアの方針を聞いた結果、HIP HOP DNAは熱い想いが込められたメディアであることがわかった。

 

 

「ヒップホップよりも、ポップに注力したほうがいい」という雰囲気が社内にあった

 

 

➖本日はよろしくおねがいします!まずは自己紹介と、普段社内でどのようなお仕事をされているかを教えてください。

 

井口:ユニバーサル・ミュージックの井口昌弥です。インターナショナルという洋楽部門を預かっておりまして、洋楽部門全体の統括をやっております。よろしくおねがいします!

 

飯島:ユニバーサル・ミュージックの飯島沙来です。アーティストの担当や、アーティストとカルチャー/ライフスタイルを繋ぐようなマーケティングをやっております。よろしくおねがいします。

 

 

➖井口さんはファースト・キャリアでユニバーサルに入社された感じですか?

 

井口:そうですね。新卒として就職活動を経て入社した感じですね。

 

 

➖それ以前は何かしら音楽関連の活動ってされていたのですか?

 

井口:元々音楽は凄く好きで、バンドをやっていたりとかしました。好きな音楽のジャンルが昔のハードロック/ヘヴィメタルとかだったので、自分が学生だった当時の時代感とは全く違う感じでした。

 

 

➖飯島さんはいかがでしょうか?

 

飯島:私は井口さんとは全く違って、延々と大学生をやってるような生活をしてました(笑)「海外のこの場所に住みたいから、そこにある学校にいく」みたいな感じで、海外を転々としてました。東京に戻ってきてからは、インターナショナルのケーブルネットワークの会社でインターンとして経験を積んで、その後ライブハウスでイベント等をやる仕事につきました。その仕事を辞めた後もイベント等をやっていたのですが、そのときに井口さんと出会って、ユニバーサル・ミュージックにお誘い頂きました。

 

 

➖音楽に関する原体験を多く持っていると思うのですが、ずばりHIP HOP DNAというメディアを始めようと思った理由はなんだったのでしょうか?

 

飯島:私は昔から洋楽のヒップホップが好きでした。でも入社してから数年は、やっぱりヒップホップがそこまで注目されておらず、あまり見向きされないという状況があったんですよね。海外のリリースもたくさんあったのですが、社内でも「ヒップホップよりも、ポップに注力したほうがいい」という雰囲気がありました。でもUSでは、ヒップホップが年々強くなっているし、日本とのギャップが広まるばかりだと感じ、「なにか自分にできることはないだろうか?」と思ったことがきっかけですね。

その想いを行動に移し、社内でプレゼンさせて頂いたところ、「やるなら大きな規模で、ちゃんとやろう」というフィードバックをもらい、立ち上げることになりました!

 

 

➖ その行動力、凄いですね!元々社内では、このように新規事業を提案することができる制度などはあったのですか?

 

井口:制度としてはないのですが、基本的にはどのプロジェクトも挙手制であったり、自分から提案できる環境ではあります。もちろん会社なので、会社からの要請で動くことも多いですが、今回に関しては飯島が「こういうことをやりたい!」と提案したからこそ、発足したプロジェクトですね。

 

 

➖ 世の中には、絶対そういうのが通らない会社も多いと思うんですよね。でもそのような提案を真摯に受け入れる環境があるというのは、企業が今の時代を生き抜く上で重要なことなんだろうなと思います。

 

飯島:他社さんとかにも「よく通ったね〜」と言われます(笑)

 

 

 

他社とか自社は関係なく、現在活躍しているアーティストをその時々取り上げる

 

 

 

➖ そのなかでもメディアという形でやろうと思った理由はなんでしょうか?

 

飯島:当初からHIP HOP DNAはメディアだけでなく、ライブイベントやグッズも企画して、ヒップホップのマーケットをより広げたいという想いがあります。その想いを実現するためには、まずはWEBメディアが必要だと思いました。ヒップホップ・アーティストの情報を発信することができるメディアが日本では少なく、まずはそこが必要なのかなというのがありました。

 

 

メディアをやられる方は「情報格差を縮めたい」という想いを持っている方も多いと思うのですか、今までの活動でそう感じることはありましたか?

 

飯島:そうですね。ヒップホップを取り上げるメディアって国内では限られていると思うので、HIP HOP DNAでは、日本では取り上げられないような国外の情報も発信していければと思っています。もちろん他社さんのアーティストも同じように取り扱っていますし、「新たに契約された、大きな可能性を持ったアーティスト」たちのニュースも幅広くやっていきたいと思っています。そういうアーティストはなかなか日本のメディアでは報道されなかったりするので。

 

井口:いま飯島が言った通りですけど、リスナーさんから考えた時に、音楽の製作元がユニバーサル・ミュージックかどうかっていうのは関係ないんですよね。大きなゴールで行くと、マーケットを活性化することなので、自分たちだけで出来るとは思いません。

だからHIP HOP DNAを始めたときから意識していることは、他社とか自社は関係なく、現在活躍しているアーティストをその時々取り上げるということですね。メディアとしての価値を出そうと思うと、そこの壁は排除していかないといけないと思いました。

 

 

➖このような活動によって、業界全体のリレーションが良くなるんじゃないかなと思います。自分たちが媒体を持つと、他社レーベルさんのアーティストを呼んで、関係値を深めたりすることができるというメリットもありますよね。

 

飯島:この間インタビューさせてもらったPhony PPL(フォニー・ピープル)さんとかも、他社さんのアーティストですけども、親しくインタビューさせて頂いたり、ライブに行かせて頂いたりしました。

他社レーベルさんから、「最新のニュースがあるので掲載してほしい」というご連絡を頂くこともあります。HIP HOP DNAがあるおかげで情報共有もできるし、同じ目標に向かって進んでいる感覚を共有することもできますね

 

 

 

ゴールを理解してもらう難しさ

 

 

 

➖メディアを始める上で社内で壁とかはありましたか?こういう反対意見があったとか。

 

井口:ゴールがわからないという声はありましたね。音楽業界だと、「CDをこれくらい売ろう」とか「ストリーミングを何回」とかの指標がわかりやすいと思うのですが、プラットフォームとしての「日本におけるヒップホップのマーケットを広げたい」という長期的なゴールを理解してもらう難しさはありました。

僕らが普段追いかけている数字的なゴールと比べた時に、WEBサイトっていうのは何を指標としたらいいのか?という疑問も浮かびました。

 

 

➖ユニバーサル・ミュージックという大きな組織でメディアを運営するメリットはたくさんあると思いますが、逆にデメリットを感じることってありますか?

 

飯島:当初はユニバーサル・ミュージックという名前が大々的に出ることで、先入観が先行して見てもらえないのではないだろうか、という心配もありました。

 

 

➖世の中、何を作っているかではなく誰が作っているかで物事を判断する人は多いですからね。

 

飯島:そうですね。でもやっていることが面白ければ大丈夫かなと思いました!まだ答えは出てないですけども(笑)

 

 

➖僕の個人的な意見なんですけども、やっていることが面白くて、その想いが熱ければオッケーだと思います!どんなことをやっていても、何かしらネガティブなことを言ってくる人は少なからずいるので!

 

 

 

マーケットを広げ、アーティストにとっても日本でのチャンスを増やしたい

 

 

 

➖読んでいる人や、動画を観ている人にどのようなことを感じてほしいですか?

 

井口:僕は特別ヒップホップのみが好きな訳ではないですが、ファッション/音楽のトレンド/流行が最も発信されているのがこのジャンルだな、と感じているので、このカルチャーを面白いと感じる人が増えたらいいなと思っています。

 

飯島:井口さんと同じく、「このジャンルの音楽をやっている人たちは面白い」みたいに、何かしら感情が動いてヒップホップに興味を持ってもらえたらいいなと思います。

 

井口:音楽って一昔前までは、プッシュ戦略みたいな、とにかく推して推してという時代だったんですよね。でも消費者という観点が欠けていた部分もあると思うんですよ。

そのなかで、今はストリーミングやSNSが普及して、お客様が聴きたいものを選ぶ時代になっています。最終的にはお客様が聞く音楽の選択肢として、結果的にヒップホップに返ってくるといいな、と思います。

 

飯島:「買ってください」と推すのは、一つのアクションで終わってしまって、次に繋がらなかったりするんですよね。これが巡り巡ってカルチャーとして一つ確立されれば、自然にヒップホップに興味を持って「音楽を聴いてみよう」とか「誰かのグッズが出たからチェックしてみよう」という人が増えるのかな、と思います。

 

➖目先の数字だけではなく、カルチャーとして長期的に定着させたいという熱い想い、素晴らしいです。長続きするものってそういうものなんだろうなと思います!

 

 

➖HIP HOP DNAに限らず、ヒップホップ/音楽業界として、将来的にどのようなビジョンが見えているとか、直近ではこうしていきたいという想いはありますか?

 

飯島:日本でも、もう少しマーケットが広がって、アーティストにとっても日本でのチャンスが増えるといいな、思います。日本のリスナーがヒップホップに触れる機会が増えると本望です。

例えば昨年、Juice WRLDに来日してもらって、無料のイベントを開きました。普段ヒップホップを聴かない人や、学生で来日アーティストのチケットを購入するのが難しいような人たちにも、実際に見てもらえることができました。こういうことが、「このジャンルは面白い!」と思う大きなきっかけになると思うんです。今年もライブイベントは最低でも2回はやりたいと思っています。音楽もリリースしたいです。

 

井口:今年は、「ええ、そういうことやるんだ!」ってことをやりたいと思います。Juice WRLD来日でも、あれだけクラブの前に人が並んでるのは久々に見ました。なので、今年も第二弾、第三弾とやってききたいですね。あとは日本のアーティストと海外のアーティストを繋げられたらいいな、と思います。

 

飯島:まだデビューされていない方でも平等にチャンスがあるような形で企画できないかな、と考えています。「海外のラッパーと楽曲を作れる!」みたいな企画もやる予定です。

あとは日本のクリエイターとコラボレーションした、自社アーティストのマーチャンダイズも作りたいです。

 

井口:やっぱりワクワクとかドキドキとかって重要な要素じゃないですか。個人的に思うのは、日本で一番ヒップホップの影響を受けて広まっているものって、ファッションだと思うんですよね。音楽を聴いたことがなくてもヒップホップに影響を受けた格好をしている子たちもいますし。

 

飯島:ヒップホップがファッション・シーンの中でそういう立ち位置になっているのはありがたくて、そういうところも入り口として、多くの人がヒップホップの世界に入るお手伝いができればな、と思います。そういうところからも、マーケットを広げたいというのが今年のゴールです

 

 

アーティストにとってのマーケットを広げたい

 

このキーワードが飛び交う会話からは、お二人の音楽とカルチャーに対する想いが伝わってきた。メディアの運営方法として、いわゆる「バズる」ネタを多く投稿し、目先の数字を獲得する方法もあるなか、HIP HOP DNAは上記のような理念があるからこそ、多くのヒップホップファンから支持を得ているのだろう。自社の利益にとどまらず、業界全体を巻き込み、「全員でヒップホップを盛り上げていこう」という意気込みが、今後の日本のヒップホップ人口を増やしていくにおいて、非常に重要なマインドセットになることを気付かされたインタビューでもあった。その「みんなで社会を良くしていこう」という理念も、非常にヒップホップ的であり、そんな想いによって立ち上げられたHIP HOP DNAはまさにヒップホップのDNAを受け継いでいるメディアであった。

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