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ケンドリック・ラマーの地上波・初インタビューがNHK「おはよう日本」で放送。彼が音楽を通して伝える「自己表現」への想いを紹介。

 

 

フジロックで来日し、大勢のファンを熱狂させただけでなく、来日以前も「黒塗りの交通広告」で大きな話題となっていたケンドリック・ラマー。「現代における最も重要な声」とも称される彼であるが、そんな彼が音楽に込めている想いを語ったインタビューがNHKの「おはよう日本」から公開された。

 

日本の地上波としては初の出来事であり、非常に特別なものとなっているので、本日放送されたインタビューと番組の内容を紹介したい。

 

番組内では、ケンドリックは「差別や偏見がなくならない世界」に対して歌うヒップホップアーティストと紹介されている。さらに彼のアルバムが世界中で2100万枚もの売上を達成したということだけではなく、ヒップホップ・ミュージシャンとして初のピューリッツァー賞も受賞したという功績も紹介された。

 

ピュリツァー賞は、米国内の優秀なジャーナリズムに対して与えられる、アメリカで最も権威のある賞のうちの一つであり、ピュリツァー賞事務局は、彼の音楽を「複雑なアメリカ社会に生きる難しさが見事に表現されている」と称している。

 





インタビュー内で、彼は自分にとっての「ヒップホップ」をこのように語った。

 

ケンドリック「僕にとってヒップホップは、表現の自由そのもの。他人に対してなかなか言い出せないことが音楽の力を借りて言葉となり、口から出てくるんです。」

 

ピュリツァー賞の受賞後、海外メディアとしては初のインタビューに応じたケンドリック・ラマー。ヒップホップを「表現の自由」と語る彼の音楽は、暴力や差別が耐えないアメリカの社会だけではなく、世界中の人々の人生を変えている。

 

さらに彼は自身のステージについてこのように語る。

 

ケンドリック「ライブで曲を歌うと、肌の色や民族の異なる多くの人が来る。これが究極の目標です。2時間のステージに存在するのは争いではなく、愛と幸福感だけなんです。」

 

ケンドリックが生まれ育ったのは、犯罪率が全米で最も高い都市の1つとして知られるコンプトン地区。彼がラップを始めたのは、友人が銃撃されるなどの過酷な現状を訴えたいとの想いからだと語られている。その現状から湧いた感情を吐き出すための「居場所」が、多くの人にとってのヒップホップなのだ。

 

ケンドリック「僕たちは、自分たちでは手に負えない環境で育った。ヒップホップは、僕にそうした感情を表現するチャンスをくれた。他人がどう思うかは関係なく、吐き出さなければいけない感情だったんです。」

 





番組内では、代表曲の一つである「Alright/オールライト」も紹介されており、自殺願望/鬱についてや、アメリカの現代社会に対する問題を指摘しながらも「大丈夫さ」と歌った楽曲がいかに若者を救ってきたかも組み込まれていた。

 

その一つの事例が、2015年に起こった出来事だ。全米に広がった「差別撤廃運動」の最中に人々が、「Alright」をデモで歌ったのだ。この光景はヒップホップ・ファンだけでなく、アメリカを超えて世界中で話題になった。彼は自分の音楽が多くの若者を影響していることについて、このように語る。

 

ケンドリック「僕の作品や音楽で学んできたことは僕自身のためでなく、逃げ場のない街に育った子どものためだったんです。今はコミュニティーにとどまらず、世界中に伝えることができていると思います。」

 

自分自身のためでなく、逃げる場所を失った子どもたちに対して存在する楽曲たちが、今ではさまざまなプラットフォームを通じて世界中に伝わっていると感じていると語ったケンドリックであった。

 

番組では、慶應義塾大学の大和田俊之教授のコメントも紹介されていた。彼は、ケンドリックの存在をあるミュージシャンと重ねて解説した。

 

「年配の方々にとってのボブ・ディランが、今の若い人たちにとってはケンドリック・ラマーである、という風に言っていいんじゃないかなと思いますね。」

 

当時のボブ・ディランの存在が、現代の若者にとってのケンドリック・ラマーの存在と重なっていると大和田俊之教授は語った。公民権運動や、ベトナム戦争に揺れた1960年代に、ボブ・ディランに影響を受けた若者が世界中で自由を訴えたように、ケンドリック・ラマーが現代の若者のシンボルとなっていると彼は番組内で分析した。

 

大和田俊之教授が「ケンドリック・ラマーの言葉を通して、音楽だけでなく、世界とつながる感覚を持つ若者が増えている」と語ったように、ケンドリックの音楽は日本でも多くの若者の心を掴んでいる。今年のフジロックの映像も紹介され、大雨にも関わらず多くのファンが訪れた様子が地上波に映った。

 

彼に影響を受けて、新たな報道を起こす人も現れている。ケンドリックのアルバム「DAMN.」をモチーフとした黒塗りの交通広告を提案した、広告会社の田中陽樹氏も番組内で紹介された。実際の広告を横に、彼はインタビューに答えた。

 

「彼が発するラップのメッセージの中には、彼自身が味わってきた生活の中の不安であったりとか、彼自身が闘っていることに対しての問題提起がたくさん入っていて、僕らなりに問題提起をしたくて、それでこういった広告になりました。」

 

ケンドリックに影響され、彼らなりに問題提議をすることを決心したと彼は語った。

 

最後に、番組はケンドリック・ラマーのインタビューに戻り、彼の印象的な一言でインタビューは終わる。

 

ケンドリック「伝えたいメッセージは、自己表現なんです。感情を表に出すことを恐れてはいけない。僕のストーリーが小さな男の子のストーリーになり、日本の少年少女のストーリーになる。ヒップホップは世界中に広がっていくはず、いつかは火星にだって。それは誰にも止められない音楽の力です。」

 

自身の音楽だけにとどまらず、ヒップホップ全体としての力を語ったケンドリック。彼が語るように、ヒップホップは世界中に広がり、多く人の人生を変えてきた。そして今後も広がり続け、変化を起こし続けるだろう。

 

地上波にてケンドリックのインタビューが放映されたこの貴重な機会をバネに、日本でもさらに「ヒップホップ」が多くの人の人生に入り込むことを願う。

 

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