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デンゼル・カリー × ケニー・ビーツの新作EP「UNLOCKED」レビュー。実験的でエキセントリックな世界を紹介!

 

 

text by: Shiho Watanabe

 

2020年2月、鬼才2名がコラボレーションを果たしたスペシャルなプロジェクトが突如リリースされた。フロリダ州はマイアミ出身の気鋭MCであるデンゼル・カリーと、これまでジャンルを横断しつつ数多くのラッパーたちを手掛けてきたプロデューサー、ケニー・ビーツのデュオによるEP『UNLOCKED』だ。

 

フロリダのヒップホップ・シーンの歴史を書き換えたヒップホップ・グループ、レイダークランのメンバーとしてラッパーとしてのキャリアをスタートさせたデンゼル・カリー。2013年にソロ・デビュー作『Nostalgic 64』をリリースし、以降『Imperial』、『TABOO』と骨太な、そしてコンセプチュアルな良作アルバムを発表してきた。昨年、2019年も同郷のレジェンドリック・ロスらを迎え、地元マイアミに捧げた『ZUU』をリリースし、多方面から高評価を得たばかり。また、同じく昨年には初の来日公演も実現させた。ちなみに彼はかねてから日本のアニメやカルチャーにも精通しており、本作に収録されている「DIET_」でも「俺は“イチバン”、日本から飛び出してきた」というリリックを見つけることができるほど。

 

一方、バークリー音楽院でジャズギターと音楽ビジネスを学び、その後EDM DJユニット、LOUDPVCKを結成するという異例のキャリアを経てきたのが、プロデューサーのケニー・ビーツだ。これまでにフレディ・ギブズやヴィンス・ステイプルズらのビートを手掛けて来、昨年はリコ・ナスティー、そして03グリードといったラッパーと組んだコラボ・アルバムも発表してきた。ケニー・ビーツといえば、その多彩な音楽的バックグラウンドを感じさせる、変幻自在でときに奇抜なビートが特徴的だ。彼が様々なラッパーらとフリースタイル音源をレコーディングしていくYouTubeシリーズ「The Cave」を見ると、ケニーはまず、ラッパーたちに「どんなビートが欲しい?」と要望を聞いていく。例えばドージャ・キャットは「ハードだけどキュートなビート」、キー!は「ニューオーリンズっぽいヤツ」とその場でケニーに希望を伝える。すると、ケニーの機材からは瞬時にそのヴァイブに合わせたビートが飛び出してくるのだ。いわば、ラッパーたちにとっては自分好みの完全オーダーメイドのビートを用意してくれる、それがケニー・ビーツだ。

 

そんな二人がタッグを組んだ『UNLOCKED』は、全8曲から構成される。少し奇妙なのは、各楽曲のタイトルだ。「Lay_Up.m4a」や「So.Incredible.pkg」など、拡張子もそのままに、まるでラップトップに保存されているファイル名をそのままブチ込んだような楽曲名が並ぶ。それもそのはず、この『UNLOCKED』はケニー・ビーツのパソコンに二人が侵入し、リークしてしまったアルバムの音源ファイルを見つけ出す…という壮大なストーリーのもと進行していくのだ。YouTubeにはストーリーのイントロ的な部分、そして全曲分のMVが連なった同名の動画がアップされているのだが、8曲それぞれ異なるアニメーターと組んで制作された、かなりの力作ムーヴィーに仕上がっている。そういったこだわりからも、彼らの思い入れの強さが十分に伝わってくる。そして、カートゥーンの表紙を思わせるようなアルバムのジャケットが物語る通り、今回、デンゼルはいつも以上にパワフル…というか、まるでスーパーヒーローが活躍するアニメの主人公のように、ある意味大げさで大仰な表現をちりばめているのも、こうしたスピンオフ的なコラボ作品ならではの特徴かもしれない。冒頭の「Track01」における硬質なドラムのビートから、次の「Take_it_Back_v2」で飛び出すデンゼルのアツいスピット具合に繋がる箇所は特にドラマティックで、壮大なストーリーを始めるにふさわしいイントロダクションである。

 

『UNLOCKED』ではスクリューされたヴォーカルや、時に早回しされたヴォーカルが突発的に配置され、楽曲の途中でビートはいとも簡単に変容する。まるでジェットコースターのようであり、いく先の仕掛けが想像できないお化け屋敷のようなEPだ。ケニー・ビーツは、本作に関して「自分たちの成長を感じさせるような、そしてこれまでみんなが見たことのない自分たちを見せることができるような作品にしたかった」とRap Geniusのインタヴューで語っていた。『UNLOCKED』を構成する、予測不可能な多様なヒップホップ・サウンドは、二人がそれぞれ受けてきたインスピレーションがベースになっている。先述のインタビューで、デンゼル・カリーは「みんな、他の作品からインスピレーションを引き出している」とも語っており、例えば「DIET_」でのデンゼルのラップはまるでDMXみたい、とケニー・ビーツも評しており、同時に、マッドリブやアルケミスト、ウータン・クランと言った先人たちの名前を本作のインスピレーション源として挙げている。

 

鬼才二人がともに作り上げた、非常に実験的なエキセントリック・ワールド。再生すると同時に、あなたも異次元の世界に吸い込まれてしまうかも。

 

 

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