text: Shintaro Kurokawa
90年代、2000年代前半のヒップホップ・ファンなら一度は目にしたことがあるであろう<Karl Kani>の文字。ブラック・ミュージックがエンターテイメントとして大躍進した80年代後期から90年代にかけて大躍進を遂げたアーバン・ストリート・ウェアの雄である。ノトーリアス・B.I.G、2パック、ナズ、そしてアリーヤなど、当時のトップ・アーティストらをこぞってモデルとして起用し、ショウビズとアパレル・シーンにおける新たなロールモデル・ブランドとして君臨してきた。
やがて、Phat Farm、Ecko Unltd、Rocawear、Sean Johnなど、Kaniの軌跡を参考に、いわゆるアーバン・ストリート・ブランドと言われるブラック・ミュージック・シーンに特化したファッション・カテゴリーが形成された。日本国内でもディストリビューション・カンパニーがどんどんアメリカと契約を締結し、シーンに進出してきた。『WOOFIN’』などのストリート・ファッション専門誌でも大きく広告展開されたり、国内のセレクト・ショップでも大きなシェアを確立させたりと、その成功のスピードには目を見張るものがあった。
様々な音楽ジャンルの中でも、ファッション・スタイルに敏感かつ商魂たくましいカテゴリーはヒップホップを置いて他にないと思う。そのハングリーな精神がヒッップホップのシーンを形成する様々なトピックと繋がり合い、新たなビジネスを生んできた。
そんなアーバン・ブランドも、2005年あたりを軸に下降線をたどることになる。筆者が個人的にはっきりと覚えているのは、カニエ・ウエストの登場だ。2004年のデビュー・アルバム『The College Dropout』を皮切りに、シーンへ新たなスタイルを提示した。当時、もうすでにファッション・ブランドの乱立とともに、ユーザーたちはアーバン・ファッションに対して過食気味になっていたことも確かなのだが、シーンはカニエの登場から一気にネクスト・ステージへ移行した。とにかく最新のものが大好きなヒップホップ・ユーザーは、タイトなスキニー・スタイル、LAを出自とするプレミアム・デニムパンツを好んで着るようになっていき、これまでのアーバン・ファッション・ブランドによるブームも衰退への道を歩んでいったのだった。
そして、昨今、また新たな一大ムーヴメントが起こっている。
流行の周期というものは必ず訪れる。現在は1990〜2000年代にフォーカスした、インダストリアルで、スポーティかつユーティリティなテイストを抽出した、新たなスタイルがここ近年で流行している。そこで、Karl Kaniも自身の立ち位置を見直し確認することで、現代のアーバン・スタイルの再定義を実行したのだ。
さすがヒップホップの歴史のど真ん中を生きたファッション・ブランドだ。鼻が効くというか、絶妙のタイミングとセンスで再生を行なっており、誰もがこの展開を予想できなかったのではないだろうか。ここから、新たな注目を集めるに違いないと感じさせるリブランディングだ。フェイクなモノマネではない、歴史やバックボーンがある。過去のレガシーと現代のニーズをしっかり掴んだプロダクトは、現代のヒップホップ・ユーザーにしっかり響きそうなコレクションだ。
主だったものとしては、ティーンエイジャー向けの人気オンライン・ショップ<PrettyLittleThing>とともに、G.O.O.D Musicに所属するテヤナ・テイラーをモデルに起用したキャンペーンやイベントを開催。
そして、ここ日本でも、原宿に店舗を構える<monkey time>とタッグを組んだカプセル・コレクションを2018年2月にリリースした。
他にも、現代のトップ・アーティストに衣装を着せ込んだプロモーションを積極に敢行しており、ミーゴスやエイサップ・ロッキー、アリアナ・グランデ、PnB・ロックらが、Karl Kaniのアイテムを各所で着用している姿も確認出来る。
やはり、Karl Kaniはミュージシャンが着るとそのアイテムが非常に映えると感じる。ミュージシャンが着用することで、このジャンルにふさわしいヴィジュアルが完成するといったところか。他にも、古参のブランドが新たな展開にチャレンジする様子は、GUESSやKappaといった他のブランドでも多数見られ、シーン全体の中でも活気ある事例として、非常にワクワクさせられる。
Fashion
また、ヒップホップ・ファッションの隆盛に関しては、ナズ率いるプロダクション、Mass Appealが制作したドキュメンタリー・ムーヴィー、『フレッシュに着こなせ(原題:Fresh Dressed)」があるので、興味がある方はぜひ参照してほしい。