FEATURED

Music Industry – Behind the Scenes Vol. 2
Mitsuhiro Kubo – トレンドを先取る、自らの美学と審美眼

text: Shiho Watanabe

 

文化や流行の発信地として、国内のみならず常に世界中から注目を集める街、原宿。その中心にそびえ立つランドマークが、ご存知ラフォーレ原宿だ。そのラフォーレの中に入居するストアの中でも、ひときわ目立つセレクト・ショップがGR8である。いくつものスクリーンがはめ込まれた近未来的な内装に、純和風の庭園を思わせる中庭を設けたユニークな内装。懇意のクライアントにはあのVirgil AblohやMarcelo Burlonも名を連ね、最近ではFenty Puma by Rihannaのポップ・アップ企画を行ったり、気鋭のクロージング・ブランドであるPHIRE WIREとDesiiignerとのコラボ・コレクションを仕掛けたりと、常に変化と驚き溢れるアプローチで知られる場所だ。そのGR8の根幹とも言えるのが、オーナーである㈱GR8888代表取締役の久保光博氏。2017年には大手メディア、HYPEBEASTが選ぶファッション業界注目の100名、題して<HB100>にも選出され、ワールドワイドに活躍する名バイヤーである。今回は、その久保氏に、ファッション業界における目利きの重要性から音楽との関わり、そして彼の美学までを聞いた。

 

 

ーファッション業界に身を置くようになった経緯を教えて頂けますか?
久保光博(以下K):僕が洋服に出会ったのは18歳の頃で、今から24年前です。着ているもので人の第一印象が変わってしまう、自分自身を洋服で表現できる、言葉なくして自己主張ができるーーファッションとは、まさに魔法なようなものだと感じ、洋服に引き込まれて行きました。

 

ーラフォーレ原宿のGR8には立ち上げ当時から携わっていらっしゃいますが、最初、お店のオープンに際して最も苦労した点は?
K:全くの無名ショップでしたし、何よりヤング・ファッションの聖地であるラフォーレです。原宿という街や、そしてチープなイメージを嫌うメゾン・ブランドからのブランド取りに大変苦労しました。それに、扱えたとしても高額な商品を売る環境では全くありませんでしたね。

 

ーGR8はつい最近もドラスティックな店舗改装をされており、ディスプレイも含めて<常に進化するストア>というイメージです。カスタマーを常に飽きさせない工夫において、コンセプトやスタッフ共通の理念のようなものはありますか?
K:弊社が掲げる社訓は、<8>。末広がりを意味する数字を社名にも起用し、常に色々な方との縁を広げて、よりビジネスを大成させるという意志をスタッフ全員で持っています。常に進化することはその理念に合致した考えですし、ファッションのみならず、進化はどの業種においても最速であり続けなければならないと考えています。

 

ーファッション・シーンに置いても、リアルな店舗とECの差がどんどん開いているようにも感じるのですが、久保さんとしては店舗とECの違いはどこにあるとお考えでしょうか?また、それぞれの長所はどういった点にあるとお考えですか?
K:店舗では、実際にアイテムを着用し、見て、触れて、感じた上でショッピングを楽しむことができます。そこには聴覚、視覚、嗅覚、そして第六感を賑わせる<体験>がある。その逆で、ECは実際の店舗に行かなくても欲しい物を全世界のサイトと比べて買うことができますし、ネット環境があればどこからでもアクセスができる。移動やスタッフとの会話が嫌な消費者にとっては、非常に効率的だと思いますね。

 

ー創業から10年以上を経たGR8ですが、今後、チャレンジしてみたいことがあれば教えてください。
K:更なる拡大です。将来は1店舗のみで世界一の大きさを誇る平場を作りたいです。

 

ーGR8のオープン時から13年近くが経過した今、オープン当時と最も変化した点はどういったところでしょうか。
K:一人当たりの購買平均単価ですね。
ラフォーレという立地や周りの状況は全く変わっていません。ただ、スタッフの販売に対する意識は格段に変わりました。例えば、数年前は50万円を買ってくれるお客様は稀でしたが、現在ではそれが普通になったんですよ。やはり、販売員の価値観次第で、売れるものや売り上げは大きく変わります。平均単価が向上すればするほど、強気なバイイングもできるようになりますし、実は、お店の成長はスタッフの成長に比例していると言えますね。

 

ー確かに、すごく不躾な質問ですが、GR8は高いモノでもすごいスピードで売れていく…というイメージです。そこに戦略はありますか?
K:高いものには訳がある。理由があるから高い。それを受け入れることで印象も変わります。
「高いから売れない。買わない」
もちろんその考えは一般的だと思いますが、それを超越するのがファッションであり、言わば一番面白い、ビジネスに変わる瞬間だと思います。販売員も、服好きが販売していて、要するに洋服の真の価値を理解している販売員がいることが、唯一の戦略なのかもしれません。

 

ー久保さんといえば、海外にも足繁く通い、デザイナーや生産者と常に直接向き合いながらバイイングを行うお姿が非常に印象的です。頻度高く海外へ足を運ぶ理由、そしてその利点を教えて下さい。
K:そうですね。見て、感じてみないと何も真実は分からないということです。今はすっかりお店に出ることもなくなりましたが、僕にとっての現場はそういった場所。実際に見て、デザイナーや生産者と会話をして、それから考えることで理解が深まります。便利な世の中になり、全てPCで済まされるこのご時世に、ラインシートだけではわからないこともたくさんある。表面的にはわからないことを伝えるのが僕の仕事であり、セレクト・ストアの役割でもあると思っています。

 

ーPYREXの人気に火を着けたり、YEEZY SEASONも日本のどのストアより多く仕入れていたりといったところもとても印象的です。久保さんが思う<ヒットする商品の法則>や<目利きのポイント>があれば教えて頂きたく思います。
K:先ほどの回答ともすごく似た答えになるんですが、やはり実際に目にして、感じること。あと、海外に行って「自分がどれだけ小さく物事を考えてしまっているか?」「日本という国に生まれて外部をシャットアウトして生きてきたか?」と感じてしまうことが、逆にモチベーションであり、買付の目安になっているかもしれません。そこに感銘を受けるかどうかは、PCなどの画面からは絶対にわからない。<自分が感動を受けたものは必ず消費者にも同じように届く>。それが僕の美学であり、コンセプトです。

 

ーこれは個人的な思い出なんですが、数年前にVirgil ABlohたちがDJを行っていた都内のパーティーで久保さんにお会いした時、「今、みんなコレやってるから!」と言いながらTavis Scott「Antidote」に合わせて、ダブのダンスをしていたのがとても印象的で…(笑)。私が日本で見た初めてのダブは、久保さんでした。音楽にしろファッションにしろ、長年の間、常に最先端のトレンドを発見し吸収していくことにおいて気を付けていることなどありますか?
K:そう言われると…なんだか照れますが(笑)。ありがとうございます、懐かしいですね。海外の方は、一般のキッズでさえクリエーター的なんです。生まれてきた環境がそうしているからなのか、または、そういう環境づくりの中で育っているのか分からないですが、とにかく<常に進化すること>を考えて楽しんでいる。デザイナーだけではなく、そういった一般のキッズからもインスピレーションを受けています。流行っているダンスにしろ、そういったキッズが作って、それを真似したラッパーが広めていることも海外では普通のことなのかもしれないと思いますね。常に頭をリラックスして、吸収できるようにしておくことが非常に大事なことだと思います。歳を重ねても、柔軟に受け入れる頭の環境づくりはやはり気を使わないといけないですね。

 

ー最近では、久保さんやGR8とも親交が深いVirgil Ablohが次期Louis Vuittonのデザイナーに就任するなど、ここ数年ではストリート・ウエアとメゾン・ブランドの距離感も異なってきていると感じます。この点に関して、久保さんのお考えをお聞かせ願えますでしょうか。
K:非常に良いことだと思います。これは自分の勝手な解釈ですが、僕たちが過ごした時間、空間、環境にLouis Vuittonというビック・メゾンが入居して来たイメージです。ファッションは無限であり、人間が生きていく過程で絶対に重要不可欠なものであると同時に、人の感性を豊かにするもの。Louis Vuittonはまた一歩、前進したのだと思いました。

 

ーGR8では、インストアのDJイベントを開催したり、10周年の際にはパリのクラブでパーティーを催したり、そして久保さんご自身も世界中にたくさんのラッパーやDJのお知り合いもいたり…と、音楽とも非常に密接な関係にあるかと思います。ずばり、久保さんやGR8にとって、音楽とはどんなものでしょうか?ファッションとは切っても切り離せないもの?
K:もちろん僕は音楽を語るほど知識はありませんが、音楽が好きな方とそんなに音楽を聴かないという方では、やっぱり創造性や感性の次元が全く別なのではないかと思います。ファッションは感受性の自己表現だと思うので、おしゃれな方ほど音楽が好きで詳しい。結果、(音楽は)スタイリングや自己表現において大事な、絶対に摂取しないといけない栄養素的な存在だと思います。

 

ーなるほど。例えば、若いミュージシャン達からインスピレーションを受けることはありますか?
K:もちろん、毎日のように受けています。

 

ー今度は、5月4日からRae Sremmurdとのポップ・アップ展開をスタートすると伺いました。今回の展開における意気込みなどありましたら教えて下さい。
K:彼らも若くして成功を収めたヤング・ラッパーです。彼らを一躍有名にした「No Flex Zone」は毎日口ずさむほど耳に残る曲でした。空手の<突き>を思わせるような、みんなで踊るにもってこいの曲調とダンスでしたよね。成功を経て、お金、名誉、地位を手にした彼らの今作ももちろん楽しみです。足を引っ張らないように頑張るだけです。よろしくお願いします。

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