FEATURED

『Chasing Summer』を生んだSiRの哲学。ケンドリック・ラマーやJill Scottとのコラボや、TDEとの関係について語る。

Text: Sho Okuda

 

 

8/30に所属レーベルTDE (Top Dawg Entertainment)から2作目となるアルバム『Chasing Summer』をリリースしたイングルウッド出身のシンガーソングライターSiR。そんな彼がLAのラジオ局REAL 92.3の『Big Boy’s Neighborhood』に出演した。

 

『Chasing Summer』は、SiRが大手RCA Recordsと契約して初めてのアルバムである。「夏を追いかけて」と題された同作をプロモートするツイートには、しばしば飛行機の絵文字が用いられているが、この日の彼のペンダントヘッドも飛行機を象ったものであった。おそらくはアルバムのリリース直前に行われたこのインタビューだが、SiRは自身の音楽遍歴をはじめ、ファンにとって興味深いであろう質問に答えている。彼はいかにして音楽の世界に足を踏み入れることになったのか?所属レーベルTDEとの関係は?Stevie WonderやJill Scottといった大御所との仕事経験もある彼が持つ、驚きのエピソードとは? そして、今作『Chasing Summer』はどのような作品になっているのか?そのような内容を紹介させて頂きたい。

 

 

 

教会とバスケットボールとPro Tools

母親が教会で音楽をやっている影響で、5歳の頃から音楽に慣れ親しんだSiR。しかし、思春期には音楽から離れたこともあったという。

 

 

➖16歳くらいの頃、俺はもう音楽をやりたくないって思ったことがあって、スポーツにどっぷりだったんだ。バスケットボールだよ。高校の頃にはバスケに夢中で、でもうまくはいかなかった。思ったほど背が伸びなくてね(笑)。その頃、兄貴が曲を書いてたから、2006年か2007年頃かな、俺もやってみるかって思ったんだ。兄貴はPro Toolsをくれて、「やってみ」って言ってくれた。曲を作って聴かせたら「ゴミだ」って言われた。でも同時に言われたんだ、「続けな」って。もうやめろとかじゃなくて、何が悪いか、どうすればもっとよくなるかを教えてくれて、やらせてくれた。自分の音楽を押し付けるんじゃなく、俺の音を自分で見つけさせようとしてくれたんだ。

 

 

Pro Toolsの一件を機に音楽への情熱を取り戻したSiRは、本格的にキャリアをスタートさせる。

 

 

➖最初はエンジニアとしてスタートした。この話をするのは好きなんだ。というのも、めちゃくちゃ才能のある人たちがいっぱいいるからね…ライターにしてもプロデューサーにしても。でも、彼らは得るべきである注目を集められていない。それか、自分の音楽をどうプッシュしていくべきか知らないのかもしれない。俺もずっとそんな感じだった。他の人が自分のアイデンティティーを創り上げるのを手助けしてた。そこで学んだのが、誰も俺がやったことを拾い上げて俺を押し上げてくれやしないってこと。基本的に俺はずっと自分の才能を他の誰かに貸してたんだ。

 

 

とはいえ、エンジニアとしてキャリアをスタートさせたことを、SiRはポジティブに捉えている。

 

 

➖それ(=エンジニアリング)を理解してるアーティストはみんなアドバンテージを持ってると思うよ。Pro Toolsを知らなきゃ成功できないってわけじゃないけど、自分の創作との距離をぐっと縮められるからね。俺はエンジニアからキャリアを始められてよかった。エンジニアリングをやって、ソングライティングをやって、プロダクションに足を踏み入れて、全部自分のやりたいようにできるようになった。

 

 

音楽への情熱を取り戻すきっかけを作ってくれた兄に加え、母親もMichael JacksonやTina Turnerと仕事した経験の持ち主という、音楽一家で生まれ育ったSiR。今でも音楽が出来上がると母親に聴かせて感想を訊いているという。複雑な関係にある男女の心情をSabrina Claudioと共に歌った”That’s Why I Love You”については「メロディーはいいけど好きじゃない」という率直なフィードバックを受けたそうだ。

 

 

TDEとの数奇な巡り合わせ

TDEから最初にSiRとコンタクトを取ったのは、共同社長の一人であるDave Freeだという。共通の友人であるKenny Freshを通じて話したのだとか。

 

 

➖おかしいんだよ。DaveはKennyと話すためにサンタモニカからポートランドに電話したのに、俺はイングルウッドに居たんだから。車で15分しか離れてないって分かったから、そこに行ったら、Jay Rockのセッションが行われてて、その夜はDot (= Kendrick Lamar)も居たね。

 

 

実は、SiRがTDEの面々と会うのはこれが初めてではなかった。2011年にTDEがWhiskey A Go Goにてライブを行った際、兄弟と共にそのオープニング・アクトを務めていたのだ。当時はTDEと契約することになると予想していなかったというSiRは、「クレイジーな夜だった」と振り返る。そのTDEからは、Kendrick LamarとZacariの2人が最新作『Chasing Summer』に客演としてクレジットされている。SiRは同レーベルの存在を以下のように語っている。

 

 

➖外から見ると、LAから出てくる音楽は全部ギャングスタ・ラップなんだ。でも、LAはもっとたくさんのものを持ってる。TDEはLAを体現してるよ。Kendrick Lamarは誰かと訊かれたら、俺に言わせれば”LAの声”なんだ。LAの何たるかをとてもよく体現している。それにAb-Soulは天才だ。俺がここ何年もの間で最も気に入ってるラッパーだよ。『Section.80』が出て、『Habits & Contradictions』が出て、『Control System』が出た頃のこと、みんな憶えてるだろ? あれでみんなTDEを知った。俺は最初に『Control System』を聴いて、それが他の作品も聴くきっかけになったんだ。みんなリスペクトしてるよ。

 

 

TDEと契約したことには少なからずプレッシャーも伴ったようだが、作品をよくするために率直に意見交換する風土が肌に合っていると話すSiRは、現在の環境に満足しているようだ。

 

 

作品のインスピレーションと韓国での体験

最新作『Chasing Summer』の楽曲のほとんどは、昨年のTDEやMiguelとのツアー中に作られたものだという。それを視覚化するかのように、同作のカバー・アートには、手荷物を預けた際のクレーム・タグが敷き詰められている。

 

 

➖あれは友達がカスタムしたものだよ。そいつのお父さんが70年代くらいからタグを集めてて、実際にはあれ以上にたくさん持ってるんだ。

 

 

アルバムのインスピレーションとなったツアー中の思い出で最も気に入っている思い出として、彼は韓国での体験を挙げている。

 

 

➖韓国(でのライブ)は俺の人生で一番クレイジーだったことだね。ケンドリックのオープニング・アクトをやったんだけど、ソウルのオリンピック・スタジアムでパフォームしたんだ。俺がステージに立った時は15,000人のお客さんが居て、ケンドリックが出てくる頃には20,000人は居たかな。海外でパフォームするとき、人々は俺の言ってることを理解してるんじゃなくて、俺のエナジーや音楽や俺とのやりとりで盛り上がるもんだって知ってたから、俺なりに頑張ろうと思ってたんだけど、(韓国の)観客は本当に注意深く聴いてくれた。俺が手を上げろって言うと、その20,000人がビシッと手を上げるんだ。あれは忘れられないね。

 

 

音楽シーンに思うこと

TDE以外で気に入っているアーティストとして、SiRはJ.I.D、Ari Lennox、Nao、Kehlaniの名前を挙げる。現在の音楽シーンについては以下のように語っている。

 

 

➖人生ずっと音楽をやってきて、音楽の世界では全てが循環してると思うんだ。ゴスペルの世界でも、ある時にはバプティストのゴスペルが求められて、またある時にはFred Hammondが求められる。同じことだよ。ある時にはCardi Bが聴きたくなるかもしれないし、またある時にはRapsodyが聴きたくなるかもしれない。全部がサイクルになっていて、ファンがそこに影響してるんだ。そこでKendrick LamarやJ. Coleみたいな影響力のある人が潮流を変えたりね。そんななかで俺にできる一番のことは何かって考えたら、自分に正直でいることなんだ。だって、他のみんながやってることを追いかけたら、自分のためのものが見つけられなくなるからね。

 

 

レジェンドたちとのエピソード

Stevie Wonderとも仕事をした経験のあるSiRは、彼と2回目に対面した時の経験をこう振り返っている。

 

 

➖友達のAndre Harrisの家に居て、Melanie Fionaの仕事をしてたんだけど、彼女がスティービーを招いたんだ。11時に連絡したんだけど、彼が現れたのは午前3時とかだった。彼はセキュリティと一緒に来て座って、俺らが曲を書き始めると、彼は寝ちゃったんだ。ただ見守るしかなかったよね(笑)。「おいStevie、俺らは曲を書いてるんだ!起きろよ!」なんて言うわけにもいかないし。

 

 

また、今作で”Still Blue”に客演しているJill Scottとのレコーディングにあたり、CEOのAnthony “Top Dawg” Tiffithからは、「あの彼女がマイクを愛でてる動画みたいに、卑猥にするんだ」(筆者注:ヴァイラル・ヒットしたこちらの動画を踏まえたジョーク)と言われたのだとか。SiRはこの冗談に笑いながらも、彼女はそのような注目のされ方を好ましく思わないだろうと十分にリスペクトを払い、「クラシックなJill Scottの曲、クラシックなSiRの曲が出来上がった」と自信を見せている。

 

 

SiRの哲学—自分の価値を忘れないこと

『Chasing Summer』リリースの約2週間前、SiRは「リスペクトを払え」「自分の価値を忘れるな」ツイートしている。

 

 

この意味を問われたSiRは、次のように説明している。

 

 

➖自分と同じ道を歩んできた先人にはリスペクトを払わなきゃいけない。でも同時に、自分の価値が何なのか、自分には何ができるのかも忘れちゃいけないんだ。それが一番大事なことなんだ。自分の価値が何なのか分かっていなかったら、誰にもそれを伝えることができないだろ?

 

 

自分の価値を十分に認識しているからこそ、SiRはこんなエピソードも持っている。

 

 

➖2、3年はエンジニアをやってる人と一緒に居たことがあったんだけど、彼はある日のセッションで「これが俺のプール、裏に俺のレストランもあるぜ。こいつは俺のエンジニアだ」って、俺の名前も出さずに言ったんだ。ずっと長いことやってるのに。それですごくディスリスペクトされたように感じて、その日に辞めたね。

 

 

SiRのこの決断は見事に奏功した。6ヶ月後にドロップしたプロジェクトがTDEの目に止まることとなったのだ。彼のその後は前述のとおりである。

 

まさに本人が言うように「自分の価値を忘れなかった」からこそ、SiRはTDEとの契約を勝ち取り、RCAから最新作をリリースすることとなった。その前にはサウンド・エンジニアとしての下積み期間や、屈辱的な経験があったわけだが、彼はそれを見事にプラスに転化してみせた。エンジニアとしての経験は今作にも活きており、ミキシングも自ら行っている。経験を自分の糧とし、他人にリスペクトを払い、自分の価値を忘れないこと—『Chasing Summer』の裏には、我々も見習うべきSiRの哲学がある。

 

Writer: 奧田翔(おくだ・しょう)

1989年3月2日生まれ。宮城県仙台市出身。会社員・ライター。自慢させてください、SiRにInstagramでフォローされました!!!

https://twitter.com/vegashokuda

http://ameblo.jp/vegashokuda/

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