text: Shiho Watanabe
稀代の<愛されキャラ>ラッパーであるドレイク。今や、彼の一挙手一投足が世界中から注目され、彼の冴えた(そしてユーモラスな)リリックや動作がすぐにミーム化される世の中である。ヒットの作り方を熟知しているとも言え、2015年にリリースした「Hotline Bling」のへなちょこダンス・ミームや、2018年の大ヒット「In My Feelings」をフィーチャーして広く流行したダンス・チャレンジなどは皆さんの記憶にも新しいはず。そんなドレイクが、また世間を大騒ぎさせる新曲をドロップした。
4月3日、MVと共に発表されたドレイクの新曲のタイトルは「Toosie Slide」。ビートを手掛けたのは、これまでにドレイクとフューチャーが今年発表した「Life Is Good」や、トラヴィス・スコットとドレイクによるヒット曲、「Sicko Mode」などをプロデュースしてきたOZ。少し風変わりなのは、そのフックだ。
「It go right foot up, left foot, slide / Left foot up, right foot, slide (右足を上げて、左足をスライド、左足を上げて、右足をスライド)」
「Don’t you wanna dance with me? No? / I could dance like Michael Jackson (Jackson)(俺と踊りたくない?まるでマイケル・ジャクソンみたいなダンスも出来るんだけど)」
と、ドレイク自らダンスのムーヴを指南してくれる内容になっている(しかも、あのレジェンド、マイケルの名前まで引用して!)。ドレイクの超豪奢な自宅で撮影されたMVでも、歌詞通りのダンスを披露するドレイク。しかも顔には大きなマスク、そして手にはグローヴをはめた状態。そう、この曲は「コロナ禍の自主隔離中、みんなで踊ろう!」というドレイクからのメッセージが込められた異例の新曲なのだ。しかも、現代のムーヴメント発祥のプラットフォームといえば、Tik TokやInstagramなどの動画と相性のいいソーシャルメディア。トレンド・メイクの魔術師たるドレイク、もちろんそこも折込済みだ。
今回、ドレイクには強力な助っ人がいる。その名は、新曲のタイトルにもなったダンサーのトゥーシー(Toosie)。トゥーシーは、あのヤング・サグ「Stoner」に合わせたネイネイ・ダンスで有名になったアトランタ出身のダンサーであり、かつて、ドレイクとフューチャーによるコラボ・ツアー、Summer Sixteen Tourにも同行し、フューチャーにイケてるムーヴを教えた経験もある人物だという。ドレイクは曲がまだ完成する前、デモの段階で「Toosie Slide」のフック部分をトゥーシーに送り、「この曲に合うダンスを考えて欲しい」とDMで直接依頼したそう。それを受け取ったトゥーシーとエイヨー&テオ、そしてハイ・キーらダンサー仲間たちは、それぞれのアイデアを組み合わせて、約45分でこの「Toosie Slide」のダンスを完成させたとのことだ。かつ、このダンスを気に入ったドレイクはわざわざトゥーシーの名前を楽曲のタイトルに冠したほど。
そして、トゥーシーは「Toosie Slide」がリリースされる3日前の3月30日、くだんの仲間たちとともに「Toosie Slide」を踊ってみせる動画をInstagram上にポスト。もちろん、ドレイクもそこにタグ付けして、だ。すると、いきなりフックだけお披露目されたドレイクの新曲とそのダンスにソーシャルメディア上は大騒ぎ。この大反響にドレイクも満足し、かくして、無事4月3日に改めて新曲「Toosie Slide」が発表されたというわけだ。
さすがというべきは、リリース後の反響だ。Tik Tok上では、「Toosie Slide」がリリースされてからわずか2日で、「#ToosieSlide」のハッシュタグがついた動画が10億回の再生を記録したとのこと。これは、Tik Tok史上最速の音楽トレンドとなるそうで、同ハッシュタグの関連動画も合算すると合計で30億回以上の再生回数にものぼるそう。フックでわざわざ踊り方をレクチャーするなんてあざとすぎるのでは…と思うほどの戦略だが、見事、ドレイクの思惑通りにコトが進んだというわけだ。そして、記録を破ったのはTik Tok上だけではない。「Toosie Slide」はビルボードのシングル・チャート上でも初登場1位を獲得。これで、ドレイクは「God’s Plan」、「Nice For What」と初登場首位楽曲が3つ並んだことになり、これはマライア・キャリーの記録とタイ。そして、男性ソロ・アーティストとしては史上初の記録となる。
「Toosie Slide」のリリース数日前には、自身の息子であるアドニスくんの写真を初めてインスタグラム上で公開したドレイク。そしてさらにその約一ヶ月前には、突如「Chicago Freestyle」と「When to Say When」と2曲の新曲を同時公開している。さらに今年1月には盟友であるフューチャーと共にシングル「Life Is Good」を発表。8週にわたってビルボードのチャート上で2位をマークし続け、根強い人気を誇示して見せたばかり。思えば、昨年、ドレイクによる新曲のリリースは3曲にとどまり、ヒット請負人の彼にしてはやや寂しい印象だった。今年に入ってからの活発な動きを見るに、いよいよUS国内だけでも500万枚相当の売り上げを誇る大ヒット作になったアルバム『SCORPION』(2018)を上回るプロジェクトが発表されるのかどうか、期待が高まるばかり。ドレイクのネクスト・ムーヴに期待しつつ、このコロナ・パンデミックの状況下においては、まずは自宅で「Toosie Slide」チャレンジに励むのが有意義な時間の使い方なのかもしれない。