【スラング解説】エミネムからオックスフォード英語辞典へ—「Stan（スタン）」の語源と用例を解説

世界の大衆音楽史において最も影響力のある人物の一人＝Prince（プリンス）がこの世を去ったのは2016年4月のことだった。突然の訃報を聞き、嘆き悲しむ多くのファンの中にはFrank Ocean（フランク・オーシャン）もいた。彼は、その亡きアイコンに宛てた手紙の最後にこう綴った。

I’M PROUD TO BE A PRINCE FAN(STAN) FOR LIFE.
俺は誇りを持って一生Princeのファン（スタン）であり続けるよ。

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スラング解説：Stan（スタン）

今回は、ここで用いられている”stan”（スタン）という単語について、その意味と語源と用例を紹介する。

起源はストーリーテリングの名曲

先週『Music To Be Murdered By – Side B (Deluxe Edition)』をリリースしたEminem（エミネム）の代表曲の一つに、『The Marshall Mathers LP』（2000年）収録の「Stan」がある。

Eminem – Stan ft. Dido

全4ヴァースからなる同曲は、1〜3ヴァース目がスリム・シェイディの熱狂的なファンであるスタンから彼に宛てた手紙、4ヴァース目がそれに対するエミネムからの返事となっており、ストーリーテリングの名曲として名高い。スタンは最終的に、返事をくれなかったエミネムへの怒りから、身重の恋人を車のトランクに入れて運転し、橋から落ちるという狂気的な行為に及び、悲劇的な最期を迎えることになる。ここから「熱狂的なファン」を指す造語”stan”が生まれた。

オックスフォード英語辞典へ

この”stan”が最も権威ある英語辞典の一つ『オックスフォード英語辞典』（Oxford English Dictionary。以下『OED』）に載ったのは、2018年6月のことである。同辞典において”stan”は”An overzealous or obsessive fan, esp. of a particular celebrity”（特にある特定の有名人の、熱狂的な、あるいはその人のことが頭から離れないファン）と定義されている。フィクションのキャラクターにすぎなかったスタンが、固有名詞でなく普通名詞として、正式に認められたのだ。ちなみに、”stan”が『OED』に入ったという報道はその数前年にもあり、英国の国営メディア＝BBCまでもがこれを伝えていたが、これは正確ではないことを『OED』のサイト自身が伝えている。”stan”が2016年に加えられていたのは『Oxford Dictionaries Online』のほうであり、これらは編集チームを異にする別の辞典だそうだ。両者の具体的な違いについては参考サイトを参照されたい。

楽曲における”stan”の用例

最後に”stan”が用いられているリリックをいくつか紹介しよう。

Machine Gun Kelly – Rap Devil

Tryin’ to be the old you so bad, you Stan yourself (Ha)
昔の自分になろうと必死だな自分のスタンかよ

こちらはエミネムのディス曲「Not Alike」に対するアンサーとしてMachine Gun Kellyがリリースした「Rap Devil」から。ここでは”stan”が動詞として使われている点にも注目したい。「執拗に昔の自分を取り戻したがる」といった、ネガティブな意味合いで使われていることは言うまでもない。