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Live Report – Top Dawg Entertainment

 

 

text: Shiho Watanabe

Photo: Shintaro Kurokawa

 

屈指のラップ巧者を揃え、右に並ぶものはいぬまでに成長したヒップホップ・レーベル、Top Dawg Entertainment(以下:TDE)。彼らはつい最近まで、全米30か所を回るレーベル・ツアーを敢行していました。ケンドリック・ラマー、スクールボーイ・Q、SZA、ジェイ・ロックにアブ・ソウルといったスターたちが集結した豪華ステージ。私は今回、マディソン・スクエア・ガーデンで行われたNY公演に行ってきました!

 

 時刻は20時。DJのアナウンスとともに、まずはトップ・バッターのサー(SiR)が登場。早速、チルな雰囲気で会場の温度を徐々に上げていきます。ランス・スキーウォーカー、アブ・ソウル、アイザイア・ラシャード、ザカーリと、次々と入れ替わりにメンバーが登場し、オーディエンスの熱気も徐々に上がっていく様子が手に取るようにわかりました。ちなみに、今回のツアーでは、各アーティストにそれぞれにスポーツのイメージが割り当てられていて、例えば、サーは野球(バットを持って登場していた)、アブ・ソウルはアーチェリー、アイザイアはフェンシング…といった感じ。しかも、アーティストそれぞれの設定も細かく、舞台上に映し出されたカードには、それぞれ<おもしろネタ>と<試合前の儀式>まで書かれていて、例えばアイザイアのカードには<おもしろネタ:実はプロのシェフ>、<試合前の儀式:みんなにご飯を作る>と書かれていました。こうした細かい設定の数々からも、TDEのチームワークの良さを感じた次第です。

 

 さて、場内の雰囲気がガラっと変わり始めたのは、ジェイ・ロックが登場したあたりから。ジェイらしく、赤いバスケットボール・ジャージを着て登場し、会場は真っ赤なライトに染まりました。映画『ブラックパンサー』のインスパイア盤からのヒット曲、「King’s Dead」で客席は大盛り上がり!切れ味のいいジェイのラップはライブの現場でこそより映えるといった感じで、終始興奮状態。ステージ上には火花も散り、最後はまだ未発表だった「WIN」のMVを特別に先行公開し、ステージから去って行きました。そして、間髪入れず続いてはスクールボーイ・Qがステージ上に。Qに割り当てられたスポーツはゴルフ、ということで、立派なキャディー・カーに乗ったQが登場。初っ端は「THat Part」でスタート。客演のカニエのヴァースもカットすることなく全部Qがキックしており、カニエ・ファンとしては涙が出るほど嬉しかったです。ゴルファーらしくポロシャツを着こみ、大きめな身体をリズミカルに揺らしながらスピットするQは迫力満点。「Dope Dealer」はバンド・アレンジも際立つ仕上がりで、すっかり彼のヴァイブスに飲み込まれてしまいました。

 

 本ツアーにおいて、話題の一つになっていたのが、SZAの件です。喉を痛めてしまったSZAは、途中でツアーの参加を棄権し、復帰は未定の状態。このNY公演でも、登場するかしないか分からない状況でした。すると、会場を盛り上げていた幕間のDJが一言「今日はSZAが来てるぞ!」とシャウト。その瞬間、SZAの登場を待っていた女性客のものすごい歓声が沸き起こりました。そして、DJがSZAの登場を予感させながらカーディ・B「Bodak Yellow」をスピンすると、SZAに届けと言わんばかりに場内の女性客みんなが大合唱しており、その様子がとても印象的でした。さらにDJが映画「ロッキー」のテーマを掛けると、より大きな歓声が。なぜなら、SZAの担当スポーツ種目はボクシングなんですね。そうしている間に、ステージには立派なボクシング・リングが登場し、リングの中にはボクサーパンツを履いたSZAの姿が!「ホームだから戻ってきたよー!(SZAはニュージャージー育ち)」と叫び、ヒット・アルバム『CTRL』からの曲を矢継ぎ早に聴かせてくれます。「Supermodel」のフックなど、喉が苦しそうなところはアドリブやファルセットを使い分けながら対応しており、やはり喉に気を使っている様子が伺えました。最後は、「The Weekend」で締め。途中、カルヴィン・ハリスが手がけるリミックス・ヴァージョンにつなぎ、最後まで伸びやかなヴォーカルを聴かせてくれました。ひらひらと飛び回るようにステージを移動するSZAがとても可愛かったです。

 

そしていよいよ、キング・ケンドリックの登場です。ポピュラー音楽のミュージシャン、そしてもちろんラップ・アーティストとして史上初めてピューリッツァー賞を受賞したケンドリック。登壇して間もなく「DNA.」をパフォームし、その背景には大きく<PULITZER KENNY>の文字が!「こんな偉大なラッパー、世界にケンドリックだけだなあ」と思うと、感情がこみ上げてきました。すでに何度もNYでライブを経験しているはずのケンドリックですが、「初めてSOB’s(NYの老舗ライブハウス)でライブしたときのことを覚えてるぜ」、「初めてマディソン・スクエア・ガーデンに立った時のことを思い出させるな(と言って、「Swimming Pool」をパフォーム。おそらく、2013年のカニエ・ウエスト<Yeezus Tour>に帯同した時のことだと思います)」など、NYのファン泣かせのセリフも飛び出すあたりが堪りませんでした。自身の過去のヒット曲はもちろん、トラヴィス・スコットとの「goosebumps」、リッチ・ザ・キッドとの「New Freezer」も披露してくれ、まさにケンドリックのベスト・プレイリストを堪能した、という感じです。それにしても、去年はずっとアルバム『DAMN.』のツアーを回っていたはずなのに、すごいバイタリティ!恐れ入ります。映画『ブラックパンサー』のインスパイア盤からも、「Big Shot」、「X」、そしてジェイ・ロックが再び出てきて「King’s Dead」をパフォームしてくれ、2018年のケンドリック!という感じがしました。そして、場を十分に焦らしてから「Alright」のパフォーマンスが始まったのですが、オーディエンス全員の大合唱&ジャンプで、本当に会場の床が抜けるかと思うほどの勢い!個人的に、オーディエンスに歌わせるパートが多かったのは「HUMBLE.」(”My left stroke just went viral”から2ヴァース目が終わるまでずっと)、そして「Backseat Freestyle」(フック部分)の2曲でしたので、フジロックや韓国での単独公演に行かれる際は参考にしてみてください。

 

 最後、「HUMBLE.」の時にはTDEのメンバーも全員ステージに上がって来、大迫力の大団円!といった雰囲気で幕を閉じたショウ。最後まで大満足、お腹いっぱいのライブでした。もちろん、それぞれが個性的で魅力あるステージを見せてくれたのですが、やはりケンドリックのステージは格の違いのようなものを見せつけられた感じです。マイク一本に注ぎ込むパワー、そして、彼が発する言葉の一つ一つ、フロウの一つ一つから放たれるパワーは圧巻でした。彼と同じ時代に生きていること、そして、ヒップホップが好きだということに感謝したくなるほど。

今年の夏に行われるFUJI ROCK FESTIVAL ’18でのケンドリックの貴重な来日公演、ぜひ皆さんにも体感して欲しいです!

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