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ケンドリック・ラマーの交通広告が展開!「現代における最も重要な声」となった彼になぜ人々は共鳴するのだろうか?

 

「現代における最も重要な声」

フジロックで来日も決定している「現代における最も重要な声」ケンドリック・ラマー。現代の「グレイテスト・ラッパー」となった彼の存在を知らない人は今やいないであろう。この記事では彼の来日を記念して、展開されている交通広告と有識者のコメントを紹介しつつ、彼がいかに社会を変えているかを考察したい。

 

そんなケンドリック・ラマーの交通広告であるが、本日7月13日より、霞が関駅と国会議事堂前駅に展開されているので要チェックだ。8種類の広告デザインの内、2種類の広告を以下からチェックすることができる。

 

 

この広告の意図だが、ケンドリック・ラマーはアーティスト活動において、自身の経験をもとに、貧困や差別、社会的マイノリティをめぐる世界の無理解への、強い抵抗を音楽に結実させてきた。この広告においても、黒塗り文書に『DAMN.』(”クソがっ” “まじか”という意味で使用されるスラング)というメッセージを上書きすることで、批判を恐れず現代社会に対して問題提起をする姿勢を伝えている。

 

また広告にも記載されている「#ケンドリック来日」というハッシュタグを付けてツイートすると、15パターンのDAMN全曲解説ツイートがオートリプライで返ってくる仕組みになっているので、彼の来日を祝してツイッターを盛り上げるのも楽しむことができる企画となっている。(※非公開のアカウントにはオートリプライの機能は動作しないとのこと。)

 

また、ケンドリックの来日と交通広告の提示にあたって有識者からのコメントが届いているので紹介をしたい。

 

大和田俊之氏(慶應義塾大学教授)

ケンドリック・ラマーは、現代アメリカにおけるもっとも重要な<声>である。
その畳み掛けるようなフローから繰り出される「ことば」は、奴隷制からハーレム・ルネサンスを経てブラック・ライヴズ・マターにいたるアフリカ系アメリカ人の歴史を体現し、変幻自在にペルソナを変えて語られるポリフォニックな(多声的な)ストーリーにはフィリス・ホイートリーからラルフ・エリスン、トニ・モリスンへと連なる黒人文学のレトリックを聴き取ることができる

ヒップホップという技芸の可能性を最大限に引き出すケンドリック・ラマーのラップは排外主義が強まる世界においてますます求められるようになるだろう。なぜなら、真の詩人が常にそうであるように、そのリリックはアメリカのマイノリティーの言葉を引き継ぐと同時に、未来の世界をふちどる「予言」でもあるからだ。

 

渡辺志保氏(音楽ライター)

個人の環境やストラグル(葛藤)をラップに乗せて表現してきたアーティスト、ケンドリック・ラマーは、それと同じくらい、現代社会における問題提議や人種問題に基づく思想についても、ビートに乗せ伝えてきた。今や彼は現代のブラックパワーの象徴であり、世界中の若者を惹きつけ鼓舞するカリスマでもある。

ケンドリックが2017年に発表したアルバム『DAMN.』でジャーナリズムにおける最も権威ある賞、ピューリッツァー賞を獲得したということは、社会的にもそのパワーを見過ごせなくなったということであろう。自分の言葉で、自分の内面を表現すること。

社会と個人を切り離さず、より良い環境を作り上げていくには何が必要なのかということ。冷静に現代社会を見つめ、批判を恐れないこと。今回を機会に、一人のラッパーが紡ぐ思いや主張を感じ取ってもらうとともに、こんなアーティストがいるのだ、ということも知ってもらいたい。

 

 

Text: Kaz Skellington (Playatuner代表)

多数のグラミー賞に、なんと2018年にピューリッツァー賞も受賞したケンドリック・ラマー。大和田俊之さんと渡辺志保さんが語るように、彼が社会に与える影響の大きさ、そして現代の若者の心にタッチする力は唯一無二であろう。ブラック・ライヴズ・マターにいたるアフリカ系アメリカ人の歴史を体現しつつ、世界中の若者を惹きつけ鼓舞するカリスマである彼の存在は、なぜ人々の心を動かすのか?

 

彼の音楽は、片方から見ると政治的であり、もう片方から見るとブラックであることの経験であり、違う方向から見ると全員の経験が含まれている。彼がラップしていることは全員が経験したことではないかも知れないが、「自分」を感じると同時に「彼」と共鳴できるような「人々の音楽」「全員の音楽」なんだ。(引用元:Playatuner)

 

これはカナダのcbcという番組にてThundercatがケンドリックについて語ったことだ。彼が言うように、ケンドリックの音楽はもちろん人種差別問題や政治についてラップしたものも多いが、それ以上に誰もが「共鳴」できるものとなっている。しかしそれは「誰もが共感できるような普遍的なテーマに楽曲を寄せている」ということではないだろう。彼は誰かに寄せるわけではなく、最大限に自分を「表現」している。どのようなことかと言うと、彼は「自分の声」を使うことを恐れ、他人の成功を追いかけるのではなく、自分の心の奥底に潜む「光」も「闇」とも真正面から向き合い、それを惜しみなく表現しているのだ。ポジティブなことだけではなく、数々の悲劇を土台に生きている自分の葛藤、自分のポジティブな影響力と裏腹に陥る自己嫌悪、神に対する恐れ、多くのものを得た自分が全てを失う恐れなど…このように自分が抱える多面的な感情を表現することにより、その感情に「共鳴」したリスナーの心から少しでも孤独を取り除いている。

 

彼のディスコグラフィーの中には、もちろんラジオヒット曲もある。しかし「ラジオフレンドリーで親しみやすいが、潜ってみると深く考えさせられる」という作品をリリースし続けているため、少しづつ人々の「音楽を聞く意識」というものを変えることができたのではないだろうか?親しみやすい楽曲を、「非常に深く、暗い、闇が後ろからついてくるクレバス」のようなアルバムとして落とし込む。音楽における「マス」とも言える層に自分も入り込み、そこで捕まえた耳と心を「共感力」という特殊能力によって、永久に自分の世界に引き込むことに成功している。誰もが心のなかで暗い意識と共存する現代社会で、彼はその多面的な感情/サウンドを「作品」として落とし込み、人々の命を救うヒップホップを作っている。そして誰もが自身の暗い意識と戦う世の中で、彼のような存在と共鳴しているという意識が、人々に「前に進む勇気」を与えている。

その自分の心の真実を表現し、同じような感情を抱く人たちを救ってきたから、彼は現代の「グレイテスト」なのだ。

 

「なにかを変えたいのであれば、内部から変える」ということを自然に実践してきた彼の活動が実を結び、誰も成し得なかったレベルの影響力を自分のものとした。そして常に「恐れ」を原動力として前に進んできた彼がForbesのインタビューにて語ったことを最後に紹介したい。

 

「Failure(失敗)」どれだけの人がこの言葉を恐れているかわかるか?多分80%がこの言葉を恐れているだろう。自分もそうだった。でも自分の仕事やワークに対する理念で、この言葉を逆にビビらせないといけないんだ。失敗を恐れるのは、他人からどう思われるかが怖かったり、お金を失うことを恐れていたり、そういうことだ。自分の人生のコントロールを持ちたいのであれば、「失敗」という疑念を完全にブロックしないといけない。例え失敗したとしても、それは人生の経験になるし、次に活かせる。自分の子供たちだったり、外の子供たちだったり、次の世代に託すこともできるし、彼らが自分の夢をもっと大きく実現してくれるかもしれない。(引用元:Playatuner)

 

このように、常に心に恐れやネガティブな感情を抱えつつも、それを乗り越え「表現」として落とし込む彼の音楽は、「全員の音楽」なのだ。最大限に自己表現をしているが、決して利己的ではない。むしろ共感した人たちの命を救うものとして、現代の若者を鼓舞している。自分の奥底に潜む「弱み」さえも、素直にさらけ出すケンドリック・ラマーの表現は、人々が弱みを受け止め、乗り越え、「自分を愛す」糧になっている。それが人々がケンドリックと共鳴する理由だと私は感じている。(詳しくは7月18日に発売のケンドリック・ラマー「DAMN. コレクターズ・エディション」のライナーノーツにて)

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