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新進気鋭のラッパーJuice WRLDが追悼したXXXTentacionとLil PeepというSoundCloud Rapのカリスマたち

 

text: Jun Fukunaga

 

6月18日に銃撃によって非業の最期を遂げた若手人気ラッパーのXXXTentacion。インターネット上で火がつき、最近では全米チャート上位を席巻するSoundCloud RapやEmo Rapと呼ばれるヒップホップの新興ジャンルのカリスマ的存在の死は、多くの若いヒップホップファンはもちろんのこと、Kanye Westや、そういったシーンには懐疑的だと思われていたJ.Coleなど大物ラッパーたちも追悼コメントをSNS上で発表するなど、その早すぎる死が与えた音楽業界への影響は大きい。

 

早すぎる死といえば、昨年起きた、同じくSoundCloud Rap、Emo RapシーンのカリスマラッパーだったLil Peepのドラッグの過剰摂取による死が思い出される。Lil Peepは、そのEmoやオルタナティヴロックをサンプリングした音楽性に加え、Nirvanaの故Kurt Cobainを彷彿とさせるイメージを打ち出していたため、ここ日本でも生前から耳の早い音楽ファンの間では次世代のラップスターと目されていたものの、本格的ブレイクを前にした21歳で死去。その死はシーンに大きな衝撃を与えた。

 

今回のXXXTentacionの死も含めると現在、SoundCloud Rap界隈では2人の絶大な人気を持つカリスマを失った状態だ。そのため今後のシーンはどのように発展していくのか、老婆心ながら気になるのだが、ネット上で日々、大量に出現してくるニューカマーやそれらのラッパーが抱えるSNSベースの膨大なファンの数を考えると意外とそういった心配は無用なのかもしれない。その証拠にネットの大海から現実世界に飛び出したSoundCloud 発の次のカリスマラッパー候補で、現在19歳のラッパー、Juice WRLDの今年に入ってからの活躍は目覚ましい。

 

シカゴ出身のJuice WRLDは、今年3月にシングル「Lucid Dreams」をリリース。同曲は全米シングルチャートBillboard Hot 100ではチャートデビュー時は74位にとどまっていたものの、その後人気が高まるに連れ、最近のチャートでは6位まで上昇するなど、今、ヒップホップファンの間で注目されているラッパーだ。

 

また同曲は、Stingの代表曲「Shape of My Heart」をサンプリングした哀愁感漂うトラックにSoundCloud Rap特有の歌唱とラップの間のような”ラップ”が印象的な曲になっている。

 

*Lucid Dreams

 





 

しかも公開されているMVは、この界隈では絶大な人気を誇るYouTubeチャンネル「Lyrical Lemonade」ビデオグラファーのCole Bennettが手がけている。彼がMVを手がけたラッパーの多くはそれ以降にブレイクすることが多く、そういう意味では業界のトレンドセッターに見初められたことになり、今後のキャリアアップはほぼ確実だと思われる。ただ、今となっては、先述のチャートアクションのようにそういった予想はもはや野暮かもしれないが。

 

そんな次のカリスマSoundCloudラッパーとも言えるJuice WRLDなのだが、XXXTentacionの非業の死を受けて、その筋の先輩格である彼と先述のLil Peepを追悼する『Too Soon..』を発表。その中の2曲のうち、「Legends」では、Jimi Hendrix、Kurt Cobainらこれまでに27歳で夭折したアーティストたちを指す”the 27 Clu-u-u-ub”と20歳で夭折したXXXTentacion、21歳で夭折したLil Peepのことを指す”We ain’t making it past 21”という2つのリリックで、伝説的なスターミュージシャンたちが早すぎる死を迎えていることを指摘し、そんな運命が待っているならスターになんかなりたくないとラップしている点は非常に印象的だ。

 

しかし、そののち、時にスキャンダラスであったり、鬱やドラッグに苛まれていることを赤裸々にラップするSoundCloudラッパーたちが、ブレイク後の影響力を行使して世の中を変えたいと願っていたことに同調するかのように彼もまたスターになってそれを目指すと口にする点も、感慨深く、もしも夭折した2人が生きていたら世界はどのように変化したのだろうかと故人を偲ばせる。

 

*Legends

 





 

次に「Rich and Blind」では、ファンを含めSoundCloud Rap世代のトレンドドラッグ”パーコセット”に触れるなど、自らもそういったドラッグを嗜む様を、Lil Peepのように不幸な事故につながらないか心配してくるとラップ。

 

また、この曲で印象的なのはXXXTentacion、Lil Peep以外に第3のラッパーの夭折を嘆いている点だろう。これはどのラッパーのことを指すかはファンの間で議論があるものの、Cheef Keefの従兄弟で今年1月に亡くなったFredo Santana、もしくはXXXTentacionと同日に射殺されたことが報じられたJimmy Wopoではないかということがまことしやかに囁かれている。

 

さらにそういった同世代のラッパーたちの死を受けて、「なぜ、自分たちは死ぬために生きるのか?」と非常に内省的な問いかけを行ったり、ともすれば精神不安定ともいえる状態の彼の思考を察して心配してくる人間に対し、それを読み取ったところで、結局はJuice WRLDというラッパーが持つ不安定な思考回路に気づくだけだと口にする。そのため、同世代のラッパーたちに起きた悲劇を追悼する内容でありつつも、「人は結局は孤独で生と死は常に隣り合わせ」というような哲学的で諸行無常な死生観を聴くものに想起させる。

 

*Rich and Blind

 





 

余談だが、Juice WRLDが追悼したXXXTentacionとLil Peepの死去が明らかになった直後、あるSoundCloudラッパーたちが、故人を死に至らしめた犯人としてそのファンから大バッシングを受けるという事態も起こっている。

 

XXXTentacionの場合は、すでに多くのメディアが報道しているためご存知の方も多いと思うが、最初、ネット上で犯人とされたのはSoldier KiddとSoldier JoJoという2人のフロリダの若手ラッパーたちだ。彼らはアンチXの姿勢を以前からとっていたとされ、容疑者の目撃証言と2人がSNSで公開した写真がそれを想起させるないようだったこと、Soldier Kiddに至っては以前リリースしたアルバムタイトルが「XXX」というタイトルだったこと、死の直後にWSHHに曲のMVがタイミングよく公開されたこともあり、ファンがネットで広い集めた情報を武器に容疑者として容赦ない攻撃を行った。

 

*Better Be

 





 

次にLil Peepの場合も、その経緯はやはりネットからの情報だ。犯人とされたのは、イギリスのロンドンを拠点に今、ネット上に存在する10代のSoundCloudラップファンから絶大な支持を受けるBexeyという若手ラッパー。

 

Lil Peepの死が報じられる前に、彼はInstagramでLil Peepが眠る姿の動画を公開していたのだが、それがあたかも、オーバードーズで亡くなったように見えたことから、「Bexeyがすぐに対応すればLil Peepが亡くなることはなかった」とファンからの大バッシングを受けた。この件に関してBexey自身は、その問題の動画はLil Peepが亡くなった日に取られたものではないと釈明。無実を主張していたがその際の炎上ぶりは凄まじいものだった。

 

ちなみにBexeyは、Lil Peepとは「兄弟」と呼びあうほどの気のおけない友人といった間柄だった。またLil Peepロンドン公演などで共演、コラボEP『Romeo’s Regrets』もリリースしているだけでなく、Lil Peepの死後には追悼曲「LETTER TO PEEP」をSoundCloud上で発表。そこでは彼の死に対する言いようのない感情をラップに乗せて吐露している。

 

*LETTER TO PEEP

 

 

SoundCloudラッパーたちは、少なからず”過激”かつ”刺激”的なイメージをネットを介してファンに供給することで、その人気を維持したり拡大させている面がある。そのため、一旦、ファンにとってのカリスマが不幸な最期を遂げてしまうとこのようにネット世代の狂信的なラッパーのファンは、ネットの大海のどこかに存在する情報を探りあて、確たる証拠もなしに犯人特定や過剰なバッシングを行なってしまう。そのため、こういったことはこの界隈特有の負の部分のように感じる。

 

Juice WRLDもまた追悼した2人のようにネット上に膨大な数のファンを抱えており、ここからキャリアアップしていくに連れ、その数はうなぎ登りになっていくはずだ。今後のブレイクは必至なだけに、ややつむじ曲がりな意見だがこういったファンの暴走を生み出さないためにも、彼には是非長生きして順調にキャリアアップしていってほしい。最近の若手ラッパーたちの悲劇を見ているとそう思えてならない。

 

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