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史上最強の反撃アルバム『Kamikaze』から振り返る”ラップゴッド”Eminemの影響力

 

今年8月末に何の前触れもなく突如リリースされたEminemの最新アルバム『Kamikaze』。彼にとって10枚目のアルバムとなる同作では、往年のヒップホップファンはもちろんのこと音楽ファンの間でまず話題になったのが、Beastie Boysの名盤『License To Ill』を彷彿とさせるアルバムカバーアートだ。次に日本人にとっては色々な意味で衝撃的な”神風”という日本語を冠していることも大いに注目を集めたのだが、真の意味で衝撃的だったのが、かつてのEminemの別人格である”Slim Shady”の帰還と評されるほど容赦のない”ディスの嵐吹き荒れる”とでもいうべき内容だった。

 

 

そのディスは、昨年のEminemにとってはシーンへの帰還作となった前作アルバム『Revival』を酷評したメディアや評論家、果ては同業者であるラッパーなど、あらゆる方面のこれまでに彼に対して批判的な発言を行なった人物に向けられていた。そんな中でも1番の話題になったのが、かつてはEminemのことを自身のアイドルだと公言して憚らなかった白人ラッパーのMGKことMachine Gun Kellyへのディスだ。

 

『Kamikaze』中、Eminemは、「The Ringer」と「Not Alike」でMGKをディス。その理由は、かつて自分をリスペクトしていたはずのMGKによる2012年のEminemの愛娘Hailieに対する色目を使ったようなSNSでの発言だといわれており、その後、彼とEminemは因縁の間柄に。それがおよそ約6年の時を経て、突如としてまさに神風が吹き荒れるかのようにディスと化し、MGKに襲いかかったというわけなのだが、彼は早い段階でEminemの口撃に反論。かつては信望し、最も影響を受けたラッパーだったEminemを”ラップデビル”と蔑み、ディスへのアンサーとして「Rap Devil(Eminem Diss)」を公開した。

 

 

同曲は話題のディスへのアンサーだけあって、大いに注目を集め、コアなヒップホップファン以外にもMGKの名前を知らしめるという結果を彼にもたらしたが、Eminemはそこからさらにアンサー曲「Killshot」を発表。自分とMGKとの歴然たるキャリアの差を指摘したり、さらに彼が所属する名門「Badboy」を指して、そのレジェンドであるThe Notorious B.I.G.のような最高峰のラッパーにはなれないとディス。皮肉なことにその直後にリリースされたMGKの最新EP『Binge』は、「Rap Devil」の成功も虚しく初週売上は2万1519ユニットに留まる結果になった。

 

 

このことは『Kamikaze』の初週売上がおよそ43万4000ユニットを記録し、Eminemにとっての9作連続での全米アルバム総合チャート初登場1位をもたらした作品になったことを考えると、「Killshot」での彼の言い分は図らずとも2人の格の違いをまざまざと見せつけることになったため、MGKにとってはまさにEminemに逆らうことは悪魔に逆らうことに等しい所業だったと思わせたに違いない。

 

また『Kamikaze』のディスで話題になった曲といえば若手ラッパーのTyler, The Creatorをディスした「Fall」だ。彼もかつてはEminemをリスペクトし、その影響を公言していたラッパーの1人であり、今年もGQ Styleのインタビューで、ラップを始めたきっかけがEminemだったことや今でも1番好きなラッパーであること、自身の最初の2枚のアルバムではEminemのようにラップしたかったと語っていた。しかし、先述の『Revival』リリース時には、Beyoncéとのコラボ曲「Walk On Water」を酷評しており、それが理由で当初、Eminemの怒りを買ったとの指摘もあった。

 

 

だが「Fall」でのTyler, The Creatorへのディスは差別的だという世間からの批判もあり、Eminem自身も炎上。のちにSwayとの対談で同性愛者に対する差別用語である「Faggot」を使ったディスについて謝罪を行なっているが、その際に彼は、元々はTyler, The Creatorを認めていたと発言するも、2014年にEminemのレーベル「Shady Records」からリリースされたコンピレーション『Shady XV』に対するTyler, The Creatorによる批判に怒りを覚えたと語っている。

 

ちなみにその時、Tyler, The Creatorは、Eminemが好きだと前置きした上で批判を行なっていることから、あくまで推測にすぎないが、最近の発言もあわせて考えるとその批判は長年のファン特有の”かつての作品”と比べてのものなのかもしれない。それだけに彼にとっては皮肉な話だが、容赦のないディスにまみれた『Kamikaze』は、かつて憧れ、愛した”Slim Shady”を感じるアルバムになったのかもしれない。

 

ここまでは特に話題になったディスの対象でかつてEminemからの影響を公言しながらも彼を批判したラッパーについて紹介してきたが、『Kamikaze』のオープニング曲である先述の「The Ringer」も非常に興味深いディス曲だ。同曲ではMGK以外に、マンブルラッパーやSoundCloudラッパーと言われるLil Yachty、Lil Pump、Lil Xanが名指しでディスられている。特にLil Yachtyは、Eminemの代表曲「Stan」をなぞらえながら彼らの大好物でそのカルチャーの象徴でもある「Lean」についても触れられている。こういったLeanのようなドラッグカルチャーとそこに群がる若手ラッパーたちについて、今年リリースしたアルバム『KOD』で批判したのがJ.Coleだ。そんな彼もまた以前からEminemからの影響を公言している。

 

また「Stan」と絡めていえば、現行ヒップホップシーン最高峰のラッパーであるKendrick LamarもEminemからの影響を公言するラッパーの1人。彼は以前からEminemは天才であり、自分のスタイルに影響を与えた人物だと語っており、最近のVanity Fairのインタビューでも、Eminemは最も素晴らしいワードスミスであり、「Stan」が収録されたアルバム『The Marshall Mathers LP』こそが自分の全てを変えたと語っている。

 

90年代後期から現在に至るまでラップゴッドの名にふさわしい活躍を続けるEminem。それだけに彼からの影響を語る後進のラッパーはやはり多い。例えば、昨年末、NY Timesは、G-Eazy、Lil Xan、NFといった3人の白人ラッパーにEminemからの影響が見られると指摘していたりもするが、EminemのShady Recordsがサポートするメディア「Southpawer」は、2015年に彼からの影響を明かしている先述のKendrick Lamar、J.Cole、Tyler, The Creator、Machine Gun Kellyのほかに、DrakeやChance The Rapperなど全10組のラッパーたちを紹介している。

 

Shady Recordsが関わっていることを考え、少しばかり意地の悪い言い方をすれば、自画自賛の”ラップゴッド礼讃”的であるようにも思えるが、やはり今のヒップホップシーンを牽引する人物たちの発言だけにEminemの影響力の大きさを改めて強く感じさせられる。ただ、それからたった3年後に、この中から容赦なくディスを浴びさせられることになった人物が生まれようとは…。そのことも別の見方をすればなかなか香ばしく、興味深い。

 

文 / Jun Fukunaga

 

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