text: Sho Okuda
6作目のアルバム『Certified Lover Boy』のリリースが待たれるDrake(ドレイク)。当初、同作のリリースは今月中になると噂されていたが、健康上の問題からリリースを延期することを先日、本人がInstagramのストーリーで明かした。残念ながら、シャンペン・パピの新作が聴けるまで、我々はもう少し待たなければならなそうだ。しかし、今年アルバムのリリースが期待されるラッパーは彼だけではない。そのうちの一人がKendrick Lamar(ケンドリック・ラマー)だ。
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K. Dotの新作については、彼のレーベルメイトであるAb-Soul(アブ・ソウル)もリリースが近いことを示唆している。彼の前作は、2017年にリリースされ、クラシック、ジャズ以外のジャンルで初めてピューリッツァー賞の音楽部門を受賞した『DAMN.』であった。これに因み、今回は”damn”をはじめとした4文字の単語(”four-letter word”と呼ばれるもの)をいくつか特集する。
スラング解説:Damn(ダム)
まず、”damn”(ダム)から。『DAMN.』国内盤リリース時、この発音は「ダム」よりも「デーム」のほうが近いという声がしばしば聞かれた。たしかに(特に米語では)そのように聞こえるが、同単語におけるaの発音記号は[æ](日本語でいうところのアとエの中間)であり、ア行が誤りとはいえない。その「[æ] = エー」理論を適用するならば、同じ発音を含む”bag”は「ベーグ」になるし、”pack”は「ペーク」になる。せっかくなので「ちょっとベーグ取ってくるね」「帰りに卵を2ペーク買ってきて」など、日頃から使ってみてはどうだろうか?
“damn”の訳語としては「ちくしょう」などが出てくるが、個人的には「マジか」が適訳である場合が多いように感じる。映画『Friday』(1995年)で、ディーボ(演:タイニー・リスター・Jr.)に殴られたレッド(演:DJ Pooh)の目を見たクレイグ(演:Ice Cube)とスモーキー(演:クリス・タッカー)が”Damn”と発するシーンはあまりにも有名だ。(R.I.P. Tommy “Tiny” Lister…)
https://youtu.be/eH4r1k-TPvs
この”damn”は放送禁止用語というほどのものではないにせよ、上品な言葉ではないことも確かだ。少しマイルドなバージョンとして”dang”があるので、こちらも押さえておきたい。生きていれば先日29歳の誕生日を迎えていたMac Miller(マック・ミラー)も、自身の楽曲に「Dang!」というタイトルを付けている。意味は特段変わらない。
Mac Miller – Dang! (feat. Anderson .Paak)
スラング解説:Sh*t(シット)
例えば”damn”がリリックで使われていたところで、それがラジオで流れる際に消されることは考えにくいが、ここから紹介する単語がラジオで流れることはない。まず、おなじみの”s*it”(シット)である。1語で使われた場合、”shi*”レベルになってくると、いよいよ「クソ」という訳語が適切な場合が多い。
しかしながら、これが”the”と一緒に使われる場合には「クソ」ではなく「何者か」「価値のあるもの」といったニュアンスになるので注意が必要だ。”be動詞 + not + sh*t”の場合も「クソではない(=いい)」ではなく「クソにも及ばない(=取るに足らない)」の意味になる。
Bruno Mars – 24K Magic
Spend your money like money ain’t shit
金なんて大したことないとばかりに金を使うんだ
先に紹介した”damn”と”sh*t”は交換可能な場合がある。「…のことなんか気にしない(知ったことか)」と言うとき、”I don’t give a damn about…”と表すこともできるし、”I don’t give a sh*t about …”と表すこともできる。
PARTYNEXTDOOR – Recognize (feat. Drake)
I ain’t give a shit about shit
俺は何も気にしねぇよ
スラング解説:F*ck(ファック)
最後に紹介する単語は、four-letter wordsのラスボスにしてFワードとも呼ばれる”fu*k”(ファック)だ。間違っても使用を推奨できる単語でないことだけは記しておく。適切な訳語は分からない。1単語で用いられる場合、それは「クソ」かもしれないが、”sh*t”よりもずっと強い。
※これは「教養のある人は”fuc*”など使わない」などという意味ではない。米国では日本以上に言葉のゾーニングが厳しく杓子定規なので、このような単語が公共の場で使われることは徹底的に避けられるが、私的空間では、例えばハーバード大学の教授だって”*uck”と発することがあるかもしれない。ただ、使ってよい場面が見極められるようになるまでは、決して推奨できないという意味である。
D’Angelo – Shit, Damn, Motherfucker
先ほど”damn”と”sh*t”は交換可能な場合があると述べたが、そこに”f*ck”が加わる場合もある。例えば「…のことなんか気にしない(知ったことか)」は上述の2例に加えて”I don’t give a f*ck about …”と表してもよい。
Tyler, The Creator – EARFQUAKE
I don’t give a fuck ’bout nothing
俺は何も気にしねぇ
※”not”と一緒には通例”anything”が用いられるが、ラップ等のリリックにおいては”nothing”が用いられることも多い。
一方で、この交換が成り立たない場合もある。例えば、以下のように”the + f*ck”で強調する場合だ。
Beyoncé – Don’t Hurt Yourself (Live at OTR ll)
Who the fuck do you think I is?
アタシが誰だと思ってんのよ?
※通例、この文では最後の”is”の代わりに”am”が用いられるが、ラップ等のリリックにおいては、主語が1人称や2人称でもbe動詞として”is”が用いられることがままある。
言い方をマイルドにしたければ、”f*ck”の代わりに”hell”や”heck”を使う必要がある。”damn”も”sh*t”も、残念ながらここでは使えない。こうした語の組合せ(コロケーション)は、様々な用例に触れていくなかで体得していくよりほかにない。読者各位が快適なスラング・ライフを送るうえで、本記事が一助とならんことを願い、筆をおく。