Text: Shiho Watanabe
Photo Credits: Yuji Kaneko
ミーゴスやリル・ベイビー、シティ・ガールズらが所属し、まさに飛ぶ鳥をおとす勢いのレーベル、クオリティ・コントロール(QC)。アトランタを拠点とし、間違いなくここ数年のヒップホップ・ブームを牽引する存在である。そのQC から、なんとリル・ヨッティの来日公演が実現した。会場となったのは、渋谷のWWW X。平日深夜の興業とだけあって、老婆心ながら客入りを心配したのだが、0時をすぎて筆者が会場に着いた頃には、入り口にも人だかりができており、フロアはすでに7割ほど埋まっている状態だった。
リル・ヨッティが登場する直前まで、フロアを盛り上げるのは韓国でDJ、そしてビートメイカーとして活躍するジュニアシェフ。キース・エイプらの「It G Ma」のプロデューサー、といえばお分かりだろうか。フロント・アクトとして登場したのは、ここ日本からElle TeresaとYoung Cocoの二組。それぞれ、持ち時間は決して長くないものの、オーディエンスをしっかり盛り上げ、抜群の存在感でパフォーマンスを繰り広げた。そして、ほぼ予定時刻通りに、リル・ヨッティのバックDJであるアントニーが後ろのDJセットに付く。カニエ・ウエスト、ドレイク、A$APファーグと、とめどなくヒップホップ・ヒット曲をプレイ。オーディエンスは早くも床が揺れるほどに盛り上がっており、トラヴィス・スコットとケンドリック・ラマーの「goosebumps」を掛ける頃にはすでにモッシュピットまで出現。細かい話だが、プレイボーイ・カーティ「Magnolia」が掛かると、ご丁寧にイントロ部分のタグ、「Yo Pierre, you wanna come out here?」までもオーディエンス全体が合唱するほどだった。リル・ヨッティへの期待もそうだが、この日、集まったオーディエンス達の“本気具合”に早くも驚かされた瞬間だった。
そうこうしているうちに、“Lil Boat”のボイス・タグが会場に響き、いよいよリル・ヨッティがステージに登場した。いつもMVで見ている赤いブレイズ・ヘアだ!しょっぱなからプレイボーイ・カーティとの「Get Dripped」で盛り上げる。「Wanna be Us」や「Yacht Club」など、彼がブレイクするきっかけになったミックステープ『Lil Boat』からの曲や昨年リリースされたばかりの最新アルバム『Nuthin’ 2 Prove』からの曲をバランスよく織り込みながら、ショウが進んでいく。カイルの「iSpy」はフロアも大合唱で応えた。時折、ステージ脇にいたVerdy氏に通訳を頼んだり、「英語が分かる人はどれくらいいる?」と問い掛けたりと、初めてのアジア公演となる日本の地で、オーディエンスとのインタラクティヴさを非常に気に掛けてくれているようにも見えた。ショウの中盤では「Peek a Boo」や「Who Want The Smoke?」、「Ice Tray」といった、QCメンバーとのコラボ楽曲を立て続けに披露。ハードな楽曲もかなりハマっており、会場はスリリングなヴァイブスに包まれる。さらに、「NBAYOUNGBOAT」や「Boom!」などの扇情的な楽曲が続くと、オーディエンスもさらにヒートアップ。そして、この夜のハイライトとも言える場面は、カーネイジとの楽曲「Mase In ’97」をパフォームしたときだろう。楽曲がスタートする前に再度、ステージ脇から即席の通訳係を呼び込み「これから”水の戦争”をする」と宣言。牧歌的なBGMが流れる中、スタッフが客席へペットボトルの水を何本も投げ入れる。「曲がスタートしたらボトルの水を掛けろ」と合図をし、曲がスタートするやいなや、辺りはスプラッシュ・マウンテンのごとく水しぶきに包まれた。フロア後方のPAブース辺りにも水しぶきが飛んでき、色んな意味でヒヤヒヤしつつ生々しいパフォーマンスを楽しむことができたのだった。ヨッティは他にも、「モッシュピット用のスペースを作って!」と何度か指示したり、一部アカペラでラップを披露したりと、フロアの盛り上げ方に関してはだいぶ百戦錬磨のエンターテイナーであるという印象を受けた。また、しっかりと安定したラップ・スキルを十分に堪能できたという印象もあり、ただのトレンド・セッターであるだけではなく、実際に彼のパフォーマンスを観て改めて、リル・ヨッティというラッパーの力量をありありと感じることができた。キャップに光るアトランタ・ブレーブスのAのロゴも眩しかった…。
ライブ終盤、「ウィードは吸うか?」と客席に呼び掛け、彼の名を広く知らしめたドラムとの楽曲「Broccoli」、そして「Minnesota」や「One Night」と、彼の代表曲を立て続けに披露する頃には、オーディエンスとの一体感もさらに強固なものになっていた。最後は「66」で、ややメロウなヴァイブスに包まれてライブが終了。気を抜く瞬間は1秒たりともなく、非常にタイトで濃いライブだった。爽快感と満足感で満たされた夜であった。