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Machine Gun Kelly(マシン・ガン・ケリー)が最新アルバム「Hotel Diablo」にて見つけた「真実」。彼は悪魔のホテルにて、いかに表現者として成長したのか?

Text: Kaz Skellington (Playatuner)

 

 

Hotel Diablo

という新アルバムを7月5日にリリースし、SUMMER SONIC 2019にも出演するMachine Gun Kelly(マシン・ガン・ケリー)。MGKというと、2018年のエミネムとのビーフが印象に残っている人も多いだろう。アグレッシブなラップを、マシンガンのようなスピードでスピットしていくというイメージで、ファンベースを獲得してきたMGKであるが、彼の4枚目のアルバム「Hotel Diablo」は今までと全く違う作風となった。「自分を大きく見せる」という作風を捨て、彼はこのアルバムで自身の「弱み」について赤裸々に語っているのだ。そんな、今までのMGKとは全く違う「Hotel Diablo」について考えたいと思う。

 

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元々MGKは、2018年に「4枚目のアルバム」となる作品を制作していた。そのアルバムにはLana Del Reyも参加しており、ファンたちは2019年の頭には聴くことができるだろうと予想していた。しかし彼は2018年の年末に完成させたその「4枚目のアルバム」に収録されていた全楽曲をお蔵入りにし、0からまたアルバムを作り直したのだ。2019年に入り、作り直したアルバムが今回の「Hotel Diablo」となった。彼は一度は完成した「幻のアルバム」を周りの人たちに聞かせたとき、微妙な反応しかもらえなかったと語っている。今までと同じようなものであり、作品として彼の「真実」を表現できていなかったことが、その原因だと明かした。彼が以前リリースしたEP「Binge」も高評価でなかったことを考えると、彼はこのタイミングで自分のアーティスト性/人生を見つめ直したのかもしれない。

 

そんな彼が「Hotel Diablo」で語った「真実」とはなんなのだろうか?アルバム・カバーからも、彼が語るメッセージが見えてくる。このアルバムのタイトルは直訳すると「悪魔のホテル」であるが、アルバムカバーは子供時代のMGKが逆さになっている写真だ。頭がパカっと割れており、背景には手書きの歌詞と見られるノートが写っている。ツイッターなどでは「なんでホテルの写真/絵じゃないんだ?」という疑問を投げかけている人が多かったが、彼は「Hotel Diabloは皆の頭の中に存在しているんだ。このアルバムでは幼少期から自分が抱えている問題を見つめ直し、それを認め、語った」とインタビューで答えている。

 

 

アルバム・カバーで表現されていることからもわかるように、このアルバムは一言で説明すると、非常に「暗い」のだ。デビュー当時から「自信満々でセルフボーストが激しいラッパー」としてのイメージを築き上げてきた彼であるが、実はそれはコンプレックスの裏返しだったのかもしれない。彼は自分の10代と20代を顧みて「人生はずっと暗かったけど、その事実をあまり見せないようにしていた。3枚目のアルバムBloomでは、やっと素直になろうと思ったけど、それでも自分がハッピーな人間のような振る舞いをしていた。ずっと真の自分から逃げていた。」と語る。母親が幼少期に家族を去り、父親が鬱病で失業し、彼は高校卒業と共に家を追い出された。その後、徐々に有名になってきたにも関わらず、家賃を払うためにファストフード店でアルバイトをしていた。18歳のときには娘が生まれ、彼はラップキャリアを追いかけるだけではなく、シングルファーザーとして娘を育てることに全力になっていた過去も明かしている。

 

そのような感情をあまり見せなかった彼がなぜ今回のアルバムでそれを表現することにしたのだろうか?「何もモチベーションもないし、幸せに感じることもなくなってしまった。全部終わらせたいと思ったけど、10秒先にある隣の部屋には最愛の娘が寝ている」とインタビューで語ったMGKだが、その「負」の感情を実行するのではなく、それを認め、吐き出した上で前に進めるように作品として昇華したのだろう。その大きな影響として、リンキン・パークの故チェスター・ベニントンの存在があったと語る。2017年に自ら命を断ったリンキン・パークのシンガーであるが、亡くなったのはリンキン・パークとMGKが行うはずであったツアーの三日前であった。昔からリンキン・パークからの音楽的影響を明かしていたMGKであったため、この出来事は彼の人生にて大きなインパクトを与えたようだ。

 

「Hotel Diablo」の1stシングルとなった楽曲「Hollywood Whore」は、チェスターに向けたトリビュートでもある。MVでは2:50時点に一瞬「Rest in Peace Chester Bennington」と表示され、その後のコード進行がリンキン・パークの名曲「Numb」と同じものとなっている。

 

 

この楽曲について彼はこのように語っている。「近かった人に、ビジネス的に騙され、非常に傷ついた。今まで感じたことがない痛みだった。その痛みについて書いた楽曲だ。」楽曲では、近かった友人たちがMGKのキャリアに満足行かずに離れていったこと、近かった人たちに騙されたこと、忙しく仕事をしているのに負債から抜け出せないこと、そのような拒絶によって自己嫌悪からも抜け出せないこと、などについてラップしている。明らかに今までのMGKとは違う内容であり、彼が赤裸々に吐き出すことによってセラピー的な役割を持たせていることもわかる。

 

さらにアルバム「Hotel Diablo」にて印象的なトラックは、Trippie Reddとのコラボ「Candy」である。キャッチーなメロディであるが、この楽曲も自身が抱えている問題と直面している。彼はドラッグで心の痛みを和らげることについて歌っているが、ドラッグを美化するのではなく、その代償となる、死と直面する「沼」のような状況についても触れている。

 

 

新しい一面と言えば2ndシングルとしてリリースされた「I Think I’m OKAY」である。こちらはYUNGBLUD(ヤングブラッド)とBlink 182のトラヴィス・バーカーを招いたコラボとなっており、2000年代のポップ・パンクを彷彿とさせるような楽曲である。MGKはギター・ボーカルとして歌っており、一切ラップをしていない。この楽曲でも「アルコールに溺れるが、それが自分を助けてくれることはない」というリリックも歌っており、自分が「OKAY(大丈夫)かどうかわからないけど、そのような状況も受け入れた上で”I Think I’m OKAY”」と自分自身を擁しているようにも思える。

 

 

このアルバムを完成させたMGKは、結果的に「この作品を作れたことを誇りに思う」と心境を明かしている。0から作り直したこのアルバムは、周りの人たちにも好評だったらしく、レーベルに提出したときにも文句なしだったらしい。通常は契約アーティストがアルバムを提出すると、レーベル側から何かしら変更すべき点が挙がってくるのだが、このアルバムは珍しく変更点がなかったのだ(そのため、通常は途中経過などをこまめに聞かせることもあるようだ)。彼の「素直にそのままの自分を表現した。それだけでよかったんだ」という言葉に、彼がどのような想いを今まで隠し、どのような想いでこのアルバムを作ったかが伝わってくるだろう。

 

このインターネットの時代に、全ゲストと実際にスタジオに入って制作した「Hotel Diablo」。彼の頭のなかにずっと存在していた「悪魔のホテル」に招待し、自分がずっと避け続けたその「悪魔」とも対面をした。彼がその経験/感情を表現として昇華した作品が「Hotel Diablo」であろう。最後に彼がインタビューで語った言葉であり、このアルバムの本質ともなる言葉を紹介したい。

真の自分は、完璧な自分ではない

自分が持っている「完璧な自分」というイメージもあるかもしれないが、真の自分はそれだけではない。「完璧な自分」としてアグレッシブであり、自信満々な「マシン・ガン・ケリー」として活動していたが、自分が抱えるものを認め、それを擁した上で新たな表現として真の自分を見つけたのだろう。その多面的な「真実」を認識したMGKは、このようにして「アーティスト」として成長したのだろう。

 

Source: MGK Talks ‘Hotel Diablo’, Working With YUNGBLUD, Chester Bennington, Tommy Lee & More

Zane Low “The Machine Gun Kelly Interview”

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