text: Sho Okuda
筆者が小学生時代に流行っていた言葉の一つに「チョベリバ」がある。現在、その言葉をいわゆる死語という前提でおどけて使う人こそいるかもしれないが、それを最先端流行語として使う人など、まずいないだろう。悲しいかな、流行語とはそういうものであり、時代の変遷とともに廃れていくものもあれば、残るものもある。
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「チョベリバ」は廃れたが、「イケメン」は(おそらく)残った。「草」も「定期」も「…しか勝たん」も、どのような運命を辿るかは神のみぞ知るところだ。英語のスラングでも”phat”(イカしてる)が使われなくなった一方で、先日解説した”dope”のように定着した感のあるものもある。そうしたなか、廃れるか残るかの瀬戸際に立たされていると思われるスラングの一つが”lit”(リット)だ。本日はこの単語について解説する。
スラング解説:Lit(リット)
スラングの前に、この”lit”という単語の基本的な意味を押さえておこう。これは「火を点ける」「点灯する」といった意味の動詞”light”の過去分詞形である。言うなれば”lit”は「火が点いた」「明かりを灯された」という意味の形容詞とも捉えることができ、これがスラングとしての意味「ヤバい」「楽しい」「イケてる」につながっている。
Travis Scott – SICKO MODE ft. Drake
“lit”という単語を聞いて多くの人が真っ先に思い浮かべるラッパーがTravis Scott(トラヴィス・スコット)であろう。彼はしばしば曲中で”It’s lit!”というアドリブを発する。意味を深く考える必要はない。とにかくリットなのである。
“Lit”の最上級と進化形?
他の多くの形容詞と同様に、”lit”も比較級なら-erが付いて”litter”、最上級なら-estが付いて”littest”となる(短母音+tで終わる単語なので、tを重ねて綴ることに注意!)。これをリリックに取り入れたのが、なんとあのJAY-Z(ジェイ・Z)だ。
Fat Joe, Remy Ma, JAY Z – All The Way Up (Remix) ft. French Montana, Infared
この曲において、Hovは”Survival of the littest”というフレーズを発している。これは言うまでもなく”survival of the fittest”(適者生存)をもじったものだ。ラップ・ゲームにおいては、リットでなければ生き残れないのだ。
また、”lit”そのものを変化させた形も存在する。
Meek Mill – Litty (feat. Tory Lanez)
Yeah, hopped in the Wraith and I bought it, it’s litty again
イェー (ロールス・ロイスの)レイスに飛び乗って買った またリッティだぜ
“lit”の後ろに-tyを加えて”litty”(リッティ)。特に意味は変わらない。
20世紀初頭から使われていた?
“lit”について、興味深い話がある。同単語はもともと動詞”light”の過去分詞なので、この意味では古くから使われているのだが、なんと20世紀初頭の段階で、”lit up”で「酔っ払った」「(ドラッグで)ハイになった」という意味になる用例が確認されているのだという。第一次世界大戦時には、オーストラリアでは「性病に冒された」という意味で”lit up”が使われていたそうだ。ラップ・ミュージックにおいては1997年時点で現在と同じ意味の”lit”の用例が確認できるが、大きく広まったのはやはりTravis Scott以降と考えてよいだろう。
Camp Lo – Luchini AKA This Is It
Now pop the cork and steam the Vega and get lit
さぁ コルクを開けてお野菜を焚いて楽しくやろうぜ
“lit”はどこに向かうのか? 実は長く使われてきた”lit”のことだから、この先もきっと残り続けてくれるだろうと、”lit”現役世代の一人として願ってやまない。
参考
– Genius | Song Lyrics & Knowledge
– Urban Dictionary: lit
– Where the slang term ‘lit’ came from and how big brands ruined it – ABC News