FEATURED

Music Industry – Behind the Scenes Vol. 1
James Smith – Kendrick Lamar招聘の実現

text: Shiho Watanabe

 

いまや日本を代表するフェスであると同時に、日本における音楽フェスのシーンを牽引してきたFUJI ROCK FESTIVAL。これまでに数々のレジェンダリー・アーティストが会場である苗場の地を踏んできたことはよく知られているが、今年開催されるFUJI ROCK FESTIVAL ’18のヘッドライナーとして、ヒップホップ界のキングことKendrick Lamarの出演がアナウンスされたことも記憶に新しい。Kendrickは以前、2013年にも同じFUJI ROCK FESTIVALのステージに立っており、5年前の彼のステージが強烈な記憶として残っているヒップホップ・リスナーも少なくないのでは。今回、HIPHOP DNAは、Kendrick Lamar招聘の実現のために尽力したスタッフ、James Smith氏に取材を慣行。いかにしてKendrickの二度目の来日を実現するに至ったのか、日本と海外のシーンのギャップについてなど、話を聞いた。

 

 

ーJamesさんがFUJI ROCK FESTIVALに関わるようになったきっかけを教えていただけますか?
James(以下J):僕は20代前半から音楽業界で働いてきたんです。もともと、自分の地元だったロンドンでDJをやりながらイベント・プロモーターをやっていて、その後、音楽フェスやライブへのアーティスト・ブッキングの仕事などに移行していきました。同時に、日本語の勉強も始めて、プライベートでは何度も日本に旅行に行くようになって。2008年から2014年の間、ロンドンと東京を行ったり来たりするような生活を続けていて、2015年には東京への移住を決意したんです。もともと、ツアーのプロデュースや、イベントをやったりしていたこともあって、2008年からFUJI ROCK FESTIVALのブッキング・チームに加入し、おもにUKとUSのアーティストのブッキングに関わっていました。

 

ーちなみに、個人的に好きな音楽のジャンルは?これまでに仕事をした中で、印象深かったアーティストはいらっしゃいますか?
J:個人的な音楽の嗜好はかなり広いですね。ありがたいことに色んなジャンルの素晴らしいアーティストたちを、日本に呼ぶことが出来ました。例えばJames Blake、Major Lazor、The XXとかAnderson Paak.などですね。

 

ー実際にKendrick Lamarについて伺いたいのですが、Kendrickは5年前のFUJI ROCK FESTIVAL ’13にて初来日を果たしております。最初に彼を招聘するきっかけになった出来事はあるのでしょうか?
J:『Good Kid, M.A.A.D City』(※Kendrick Lamarが2012年に発売した2ndアルバム。以下、『GKMC』)を聴いて、すぐに夢中になったんです。当時はあのアルバムをエンドレスに聴いていました。聴けば聴くほど、よりディープに惹かれていくアルバムだなと思って。聴いていくうちに、Kendrick Lamarがアルバムで言いたいことや、アルバムを通して伝えたいメッセージに気が付くようになって、それからは特にそう思いましたね。10代のころからヒップホップは好きで、大きな影響を受けたアルバムもたくさんあります。『GKMC』も、間違いなくそのアルバムのリストに入るものでした。

 

ー来日前に、実際に彼のライブを観ることもありましたか?
J:実際にKendrickがパフォーマンスする姿はFUJI ROCK FESTIVALまで観たことがなかったんですけど、それまでの彼のキャリアやUSでのライブ動画のフッテージなどをしっかり追っていました。

 

ーそして、2013年に無事に最初の来日が実現した、と。
J:色んなことが重なった結果かなと思っています。『GKMC』も大好きでしたし、世界中のリアクションなども鑑みると、Kendrickはこれからますますデカいアーティストになっていくんだろうな、と思って。当時から、彼は本当に特別でユニークな才能を持ったアーティストなんだと感じていました。

 

ーFUJI ROCK FESTIVAL ’13での彼のステージを実際に観た感想はいかがでしたか?
J:相対的にみると、当時、日本でのKendrickの人気はまだまだ盛り上がり始めたばかりのタイミングたったのかなと思います。確か、同じタイミングでBjorkが他のステージに立っていたんですよね。でも、(Kendrickがパフォーマンスした)ホワイト・ステージにいたオーディエンスたちには、忘れられないステージになったのではと思います。あの年は、FUJI ROCK FESTIVALに来たヒップホップ・ファンの人数も多かったですし、Kendrickを観に、初めてFUJI ROCK FESTIVALに来たという方も多かったんじゃないかと思います。そんなオーディエンスの姿を見て「そうだ…日本にはこのマーケットが必要なんじゃないか」と思ったんです。
あと、あの時のKendrickのパフォーマンスは日本の次世代ヒップホップ・アーティストにとっても扉を開いてくれるようなものだったのではと思っています。Kendrickのライブのとき、会場に日本のミュージシャンやラッパーたちも多くいたんじゃないかな。なので、あのステージには、国内のヒップホップ・シーンとも共鳴するパワーがあったのではと。ライブのタイミングでは雨が強く降っていて、Kendrickは透明なレインコートを着てステージに上がりましたよね。PUNPEEもFUJI ROCK FESTIVAL ’18で同じものを着ていて…Kendrickにインスパイアされたのかなと思いました(笑)。
FUJI ROCK EXPESS 2013 -KENDRICK LAMER-

FUJI ROCK EXPESS 2017-PUNPEE-

 

ーそして、今年、2018年に二度目の来日が確定しました。実際、いつ頃から交渉を始めていたのでしょうか?
J:正直に言うと、僕はFUJI ROCK FESTIVAL ’13から毎年、Kendrickのチームと交渉を続けていたんですよ!前回の来日のあと、Kendrickはすっかりグローバルなスーパースターになってしまったので、スケジュールを確保するのが本当に難しくて。あと、ここ数年のKendrickのチームは、US、UKそしてヨーロッパのマーケットに力を入れていていたんじゃないかと思います。その結果は一目瞭然ですしね。今回は、とにかくタイミングがうまくハマったということに尽きます。
Kendrickは去年、2017年のCoachellaでヘッドライナーを務めましたが、あの経験によって、Kendrickこそ我々の世代における最重要アーティストだ、という立場を確固たるものにしたと思っています。なので、いよいよ今年、FUJI ROCK FESTIVALへの再来日を実現することが出来て本当に嬉しいですね。

 

ー今やケンドリック・ラマーは世界を代表する、キングのような存在です。彼の功績に関しては映画『ブラックパンサー』への楽曲起用や、グラミー賞での複数受賞、アルバム『DAMN.』の成功などに顕著だと思いますが、今回のライブはどんな内容になりそうでしょうか?彼がワールドツアーとして廻っている『DAMN.』ツアーや、これからTDE(※Kendrick LamarやSZAらが所属するレーベル)として廻る予定の「CHAMPIONSHIPツアー」などとは別の内容になる?
J:全ては7月に苗場で明らかになるので、まだ秘密ということにしておいて下さい(笑)。
今、ちょうどKendrickのチームと舞台のプロダクション設計などを進めているところなんです。ただ一つ言えるとしたら、「本当にエキサイティングなライブになる!」ということですかね。Kendrick Lamarは度肝を抜くようなパフォーマンスをプロデュースすることに注力してきたアーティスト。なので、その成果がFUJI ROCK FESTIVALでどんな風に体現されるのかが楽しみですね。

 

ー大変失礼ながら、ここ数年のFUJI ROCK FESTIVALは、海外のヒップホップ・アクトは出演する機会がそこまで多くなかったのでは、というのが率直な感想です。アーティストをブッキングする際に、心がけていることなどありますか?
J:ストリーミング全盛期の今、ヒップホップ・アーティストの人気が爆発するスピードはとても速いです。半年も経てば、「来日してくれ」と彼らを説得するのにすごく難しいような状況にもなる。フェスのブッキング担当としては、自分の仕事は<今>、ホットなアーティストをプレゼンするということではなく、自分の本能やアンテナを駆使して、次に流行るサウンドやトレンドを明確に提示しているアーティストをピックアップすることだと思っています。

 

ーまた、現在の日本における、US(もしくは海外)ヒップホップのマーケットは未成熟な部分もあるのではないかというのが個人的な見解です。Jamesさんとしては、ヒップホップ・アーティスト招聘における難しさを感じる瞬間はありますか?
J:すでにお話しした通りですが、ヒップホップ・シーンで人気のあるアーティストをちょうどいいタイミングで招聘することは、非常に扱いにくい問題でもあるんです。世界的に、今、ヒップホップはストリーミング・サービスにおいてとても大きな影響力を持っています。実際にSpotifyやApple Musicなどのグローバル・チャートは、ヒップホップの楽曲が独占しています。しかも、ヒット曲が一曲あれば、アーティストはすぐにUSやUK、ヨーロッパ、オーストラリアでは大きな会場でライブをすることが可能になる。同時に、ギャラの額も跳ね上がるわけです。今の世代のマネージャーたちは、現代の音楽ビジネスに順応したネイティヴ世代。だからすごくスマートで大人なんですよね。どうすればSoundCloudでブレイクするのか、楽曲がどのプレイリストに入ればヒットするのか等々、全て理解している。

 

ー日本はその流れに追いついていないような気もしますね。
J:そうですね。日本はやや難しいマーケットでして、(グローバルとは)異なる戦略が求められるんです。他の国ではCDからデジタルへ消費モデルがうまく移行していますが、日本のメインストリームで人気のあるポップ・アーティストたちがCDを売るのを止めるまでは、日本ではその移行はなかなか難しいのではと思います。日本のマーケットはいい方向に向かっていると思いますし、とくに30歳以下のリスナーにおいてはそれが顕著だと思います。でも、世界とのギャップを埋めるにはあと数年掛かりそうですね。例えば、SpotifyやYouTubeで何百万回も再生されていたり、<Rap Caviar>(※Spotify内で人気のヒップホップ・プレイリスト。新アーティストがブレイクする登竜門とも言われている)に楽曲がフィーチャーされていても、日本のマーケットでは何も響きません。日本は全くもって違うスピードで動いていますし、正直に言うと、このあたりの感覚に関しては、たまにアーティスト側も理解力が欠如していることがあるのではとも思いますね。

 

ージェームスさんが大事にしている、アーティストとライブのマーケット戦略というか指針のようなものはありますか?
J:僕のアプローチの仕方は、できるだけ早くアーティストのキャリア初期から関係性を構築していって、ロング・タームなヴィジョンと計画を持ちながら、パフォーマンスするのに適切な会場と価格設定を設けることが大切だと思っています。チャレンジングなことも多いですけどね。

 

ーちなみに、海外アーティストにまつわる業務で、一番大変なことは何でしょうか?
J:業務に携わる全ての局面に対して愛がないとやっていけないと思います。難しい部分も含めて、全部ですね。予期せぬトラブルがないと、楽しくないとも言えますが、例えば、海外アーティストの時間の感覚はどうしても日本のそれとは別物だったりしますしね…(笑)。

 

ーでは最後に、2018年のFUJI ROCK FESTIVALはどんなフェスになるでしょうか?
J:今年は、FUJI ROCK FESTIVALにとって進化を続けるという側面、また、未来を見据え続けるという側面においても、新たな一歩となる年になると思います。同時に、FUJI ROCK FESTIVALの変わらぬルーツや気風は守り抜く。来場者には、ミュージシャンのバリエーションも楽しんでほしいですね。だって2018年ですから。(音楽)ジャンルがどうとか<ロックとは何か>といったカテゴライズがどうとかと言う凝り固まった考えは必要ないと思います。

 

ー個人的に期待していることはありますか?
J:私自身、ヘッドライナーやその他の出演者のラインアップを見るだけでも興奮してしまいますが、個人的には特に、Kendrick LamarとBob Dylanの両者のコントラストを体感できるのが楽しみですね。しかも、この二組はそれぞれの世代を代表するミュージシャンでありながら、それぞれが全く同じテーマを異なるアート・フォームで体現している。二人とも、ラディカルな詩人であり、音楽を通じて現代社会を主題とし、人類がどう言った状況にあるか、ということを歌っていますよね。とても楽しみです。

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