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『Beastie Boys Story』公開に寄せて 〜彼らから学ぶべきことはまだまだたくさんある

 

 

text: Yoshiaki Takahashi

 

3月14日、スパイク・ジョーンズが監督を務めるビースティ・ボーイズのドキュメンタリー映画『Beastie Boys Story』の予告編が公開になった。まさにこの機会にぴったりな「Paul Revere」冒頭のアド・ロックのラップ「Now here’s a little story I’ve got to tell / About there bad brothers you know so well」(ここでちょっとした話をしよう/みんなよく知ってる悪ガキたちの物語さ)で始まる3分弱の映像は、故アダム・ヤウクが歌う『Hello Nasty』収録のセンチメンタルなボサノヴァソング「I Don’t Know」という不意をつく選曲も手伝って思いのほか胸に迫るものがあった。

 

 

MCAことアダム・ヤウクが癌で亡くなってから8年が経過しようとしているなか、ビースティ・ボーイズ、特にアダムについて考えることが多くなっている。昨今の「#MeToo」ムーブメントの盛り上がりに伴って、ようやくヒップホップ界でも長年の悪弊であるミソジニー(女性蔑視)から脱却を図る動きが出てきているが、ビースティ・ボーイズはいまからさかのぼること26年前、1994年リリースのアルバム『Ill Communication』のオープニングを飾る「Sure Shot」ですでに過去の女性差別的な言動について謝罪をしている。曲の後半、3回目のフックのあとにくるアダムのヴァースにいま一度耳を傾けてほしい。

 

 

I want to say a little something that’s long overdue / The disrespect to women has got to be through / To all the mothers and the sisters and the wives and friends / I want to offer my love and respect to the end(長くなってしまったけどちょっとだけ言いたいことがある/女性たちに悪態をつくような真似はもうやめにしよう/すべての母親、姉妹、妻、そして友人たちへ/彼女たちにいつまでも愛とリスペクトを捧げたい)

 

同じ『Ill Communication』収録の実質的なアダムのソロ曲である「The Update」の歌詞中、彼は「Over the years I’ve grown and changed so much / Things I know now, years ago I couldn’t touch / There are things I’ve done that I wouldn’t do again / But I’m glad that I did cause I learned from them」(年月を経て、俺は成長して大きく変わった/昔は未知だったことも、いまとなっては理解できる/もう二度としないようなことも過去にはやらかしてきたけれど/そこから学んだこともあるから、それはそれでよかったと思ってる)とラップしているが、まさに無軌道なキッズから責任感のある大人へと意識を「更新」したアダムは同曲の最初のヴァースをこんな警告と共に始めている。

 

 

Well, I can hear the trumpets blowing, screaming out the end of time / Look around and listen, and you’ll see every sign / The waters are polluted as the forests are cut down / Bombing and drilling deep below the ground(この世の終わりを告げるようなトランペットの悲鳴が聞こえてくる/周囲を見渡して耳をすませば、ありとあらゆる兆候を察知できるはず/森の木々が伐採され、水は汚染されていく/地面には爆弾が打ち込まれて深い穴が開けられる)

 

この「The Update」でアダムはさらに「Cause in these times, these changing times / A transition is occurring, and I am not blind / As the pendulum swings, a new age we enter / And with every swing, it draws closer to the center」(変わりゆく時の流れのなか/時代の変革をこの目でしっかり見届けてきた/時計の振り子が新時代の訪れを告げている/振り子が揺れるたび、問題の核心に迫っていく)と述べ、「I’m not preaching bullshit, just speaking my mind / Cause I’m here now and it’s about time」(俺は説教をたれてるわけじゃない、本心を語っているだけ/いまこそ行動に移すときなんだ)と聴衆をアジテートして曲を締めくくっている。こうしたアダムのミソジニーや環境問題に関する提言を振り返ってみると、デュア・リパが「Boys Will Be Boys」でトキシックマスキュリニティ(有害な男らしさ)を糾弾し、ビリー・アイリッシュが「All the Good Girls Go to Hell」で地球温暖化に警鐘を鳴らす現在、もしアダムが存命していてビースティ・ボーイズが活動を続けていたら現代社会の趨勢を踏まえてどんなメッセージを発信していただろうかと、そんなことを考えてしまう。

 

そういえばドナルド・トランプがアメリカ大統領選に勝利した直後の2016年11月18日、アダムを偲んで「Adam Yauch Playground」と命名された彼の地元ブルックリンの公園にナチスのシンボルである鉤十字やトランプを支持するメッセージなどが落書きされるヘイトクライムが発生したが、事件を受けて開かれた抗議集会でアド・ロックはこんなスピーチをしている。

 

「子供たちが遊ぶ公園に鉤十字の落書きをするなんて、あまりにも卑劣な行為だ。私たちの多くにとって、ここは特別な意味を持つ。なぜなら、この公園には私の30年来の友人で音楽活動を共にしてきたアダム・ヤウクの名が付けられているからだ。彼は音楽とその人生を通じて私たちに非暴力の尊さを説いてきた、そんな人物だった。だが、現在のアメリカでは2001年の同時多発テロ以降イスラム教徒に対して行われたヘイトクライムと同じような事態が続発している。私たちは、子供たちに人種差別を容認するメッセージを送るような大統領を選んでしまった。これは真実だ。だから、我々はヘイトと闘うために団結して戦わなければならない。抗議する必要があるならば抗議を、寄付ができるのなら寄付を、ボランティアが可能ならボランティアをしてほしい。そしてミュージシャンであれば、人々を奮い立たせるアンセムをつくってほしい。自分の能力を、自分が最も重要だと考えていることに注いでいく。それが私たちのできることだ。目を開いて、共に立ち上がろう」

 

 

もしビースティ・ボーイズが活動を続けていたらどんなメッセージを発信していただろうかーーそれは「The Update」のアダムにならって「周囲を見渡して耳をすませば」、そして2020年4月現在のここ日本でも十分に有効なアド・ロックのスピーチを反芻すれば、おのずと浮かび上がってくるはずだ。たとえばマイク・Dとアド・ロックは4月9日、ビースティ・ボーイズの公式Twitterを通じて新型コロナウイルス禍のアメリカで深刻化するアジア人へのヘイトクライムを非難すると共にフォロワーに冷静な対応を呼び掛けている。「人種差別はやめよう。アジア系の人々に憎しみを向けたところでコロナウイルスから身を守ることはできない。私たちはみんな共にいるのだから」

 

 

現在に至るストリートカルチャーの基盤を築いたビースティ・ボーイズから我々は多くのことを教わってきたが、彼らのアティテュードから学ぶべきことはまだまだたくさんある。ドキュメンタリー『Beastie Boys Story』の公開を機に、改めて3人の軌跡に向き合ってみたい。

 

 

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