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HIP HOP DNA主催のVINCE STAPLESライヴイベントレポート。DJ陣の手腕も光った、極上の『THE VINCE STAPLES SHOW』

 

 

Writer: Tomohisa“Tomy”Mochizuki

 

2019年12月7日(土)、渋谷SOUND MUSEUM VISIONの前には長蛇の列が出来ていた。週末のナイトタイムとなれば話は別だが、まだ陽の明るいうちからVISION前に連なる並びに、通りを歩く人たちは「なになに? この並び」という具合で興味を惹かれる人多数。実際そこに並んでいるのは、VINCE STAPLESがライヴをするということを知っている人たちである。先着200名限定でしかも無料。VISIONのキャパを考えれば、超贅沢な空間でライヴが観られる、スペシャルなイベントが開催されたのだ。

 

主催であるHIPHOP DNAのはからいで、当日は急遽会場内に入れる来場者が250名に拡大され、アナウンスされた。が、それでもフジロックのホワイトステージは10,000人規模。この日、VINCE STAPLESを間近で観ることができた人は、めちゃくちゃラッキーな体験だったと思う。VINCE STAPLESのライヴはもちろん、来場者を絶え間なく盛り上げたDJ陣のラインナップ、内容ともに素晴らしいものだった。

 

個性豊かな、世界標準のDJたちがフロアを彩る

 

16時の開場とともにフロアに音を入れたのは、東京を拠点にグローバルに活動するアート・ミュージックコレクティヴTokyo Vitamin代表のVick Okada。未成年も入場可能なイベントのため、ティーンであろう若い世代のキッズたちも多く見受けられたこの日。Vick Okadaは国内を拠点とするアーティストを中心に、最新のヒップホップセットでフロアをガッチリ掴む。

 

Vick Okadaからバトンを受け取ったのは、POIPOI。UK仕込みのダイバーシティ溢れる、ジャンルレスなDJingでさまざまな現場を盛り上げるDJだ。ドープなヒップホップから、ダンサブルな歌モノハウス、そしてしっとりムーディなR&Bをクロスオーバー。後半、Frank Oceanの最新シングル「In My Room」をプレイしていたが、なんだかジーンと来てしまった。

 

次に登場したのは、昨今盛り上がる現行R&BミュージックシーンにフォーカスするDJ、DaBook。R&Bリバイバルを推進し、自らイベントも主催するDaBookであるが、この日は違った切り口でフロアを盛り上げてくれた。四つ打ちのダンスミュージックとハーフビートのヒップホップセットを往き来するアグレッシヴなプレイを披露し、オーディエンスの心拍数を煽る。歓声が上がり、シンガロンが起きるほどにフロアの温度が高まった。

 

その後もDJ YUAが華奢な見た目と裏腹に、地鳴りのようなぶっといベースミュージックを繰り出してフロアを揺らし、先日のイベント「YENJAMIN」も大盛況のもとに成功を収めたコレクティヴであるYENTOWNのDJ JAMがティーンから大人まで、キッチリと場の空気をまとめあげる。ワールドワイドな視点と最新鋭の感性、そしてバリエーションの幅広さを持った敏腕DJ陣たちが、完璧な仕事をしたところでVINCE STAPLESを迎える準備は整った。いよいよ待ちに待った主役の登場である。

 

クオリティとヒストリーが凝縮された『THE VINCE STAPLES SHOW』in TOKYO

 

VINCE STAPLESが挨拶代わりに見舞ったのは「FUN! 」。東京が世界に誇る象徴的存在、グラフィックデザイナーVERDYが、VINCE STAPLESと意気投合し、マーチャンダイズやジャケットのアートワークを手がけた作品『FM! 』から1曲目を持って来たのがニクい。特徴的なイントロが鳴った瞬間から会場は大歓声に包まれた。東京のファンに迎えられ、VINCE STAPLESが顕現。HYSTERIC GLAMOURのカレッジロゴスウェットをクールに着こなしている。ディスプレイには、フジロックでも用いられていた数々のアメリカの有名TV番組をVINCE STAPLES自身でパロディしている映像が流されている。クラップの音とともに2ndアルバムである『Big Fish Theory』から「Bagbak」を畳みかけ、続いてサイレンを思わせる不穏なシンセが耳に残る「Blue Suede」をドロップ。これはVINCE STAPLESの2014年のメジャーデビューEP『HELL CAN WAIT』からの曲。前面に出た強烈なベースラインが特徴的なmフジロックでは巨大なモッシュサークルをステージ前に作りだした曲である。この日も一部では会場内にモッシュピットが出現。フロアの熱量がうかがえる上、メジャーキャリア初期の曲にもかかわらず未だに根強い人気を誇る。VINCE STAPLESにとっても自身の原点といえる重要な楽曲なのだろう。

 

ところで、VINCE STAPLESはステージ上で感情を顔に出さない。ほとんど表情を変えずに粛々とパフォーマンスし続ける。フジロックでもそうだった。人の顔色をうかがうTHE・日本人気質な僕はそれが気になって、前日のインタビューで質問してみたのだ。すると「俺はもともとこういう顔なんだ」と笑った。しかし、常にオーディエンスのために最高のショーを届けたいと願い、なによりもライヴに来てくれる人への感謝の気持ちを体現しているとも語ってくれた。なので安心してほしい。VINCE STAPLESは怒っているわけではないのだ。

 

「東京、楽しんでいってくれ」と合間のMCの言葉は少ないが、代わりにものすごい熱量のパフォーマンスを届けてくれる。「Don’t Get Chipped」、そして映像作品『THE VINCE STAPLES SHOW』から最新シングル「Sheet Music(Episode 02)」でクールダウン。次の「Feels Like Summer」で再びさながら夏のような熱気を帯びる。メロディアスな「Get The F**k Off My Dick」でチル。そしてデビューアルバム『Summertime 06.』から「Señorita 」を披露。Futureのフックでオーディエンスはハンズアップ。息つく間もなく、「Yeah Right」はキャッチーなフックがシンガロンしやすい。会場は揃って声を挙げた。続いては映画『QUEEN&SLIM』のサウンドトラックに収録され、6LACKとMerebaを客演に迎えた「Yo Love」でしっとりとしたムードに。そして「745」から「Big Fish」へ。クライマックスを迎え、Juicy Jが歌うフックをオーディエンスがシャウトしまくる。「So What? (Episode 01)」と、最後を飾った彼の育ったエリアの通称を示す「Norf Norf」のフックで、コール&レスポンスが成立し会場は一体となった。

 

全14曲、時間にして40分弱のライヴはコンパクトながら彼のヒストリーが凝縮され、安定した声量とラップでパフォーマンスするVINCE STAPLESのストイックさが際立った。振り幅の広いサウンドで緩急をつけたセットリストは、まるでサウナと水風呂を繰り返すような高揚と多幸感が味わえる極上のショーだった。普段からVINCE STAPLESを愛聴しているという、この日DJとして参加していたYUAは「VINCEのラップが音源そのまんまのクオリティで素晴らしかった」と余韻に浸りながら語ってくれた(彼女は偶然、ちょうど僕の目の前でライヴを観ていたので、ライヴ中もブチ上がってた様子が印象的だった)。
前日のインタビューで、「ベストを尽くすだけ。みんなが家に帰ってもVINCE STAPLESを聴きたくなるようなショーにしたい」と語っていたVINCE STAPLESは言葉通り、いやそれ以上に素晴らしいライヴを披露してくれた。250人限定のエクスクルーシヴな『THE VINCE STAPLES SHOW』はこの日、多くの人の脳裏に焼き付いたに違いない。

 

HIPHOP DNA :The Live Vol.3 VINCE STAPLES
セットリスト

01.FUN!
02.Bagbak
03.Blue Suede
04.Don’t Get Chipped
05.Sheet Music(Episode 02)
06.Feels Like Summer
07.Get The F**k Off My Dick
08.Señorita
09.Yeah Right
10.Yo Love
11.745
12.Big Fish
13.So What? (Episode 01)
14.Norf Norf

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