Text: Kaz Skellington
2021年4月9日に亡くなったDMX。彼はベテランラッパーとしてだけではなく、俳優としても知られており、彼の功績は計り知れない。ハードな楽曲だけではなく、自身のメンタルヘルスに関する脆弱性もマイクにのせてきた彼は、多くのリスナーの心と共鳴し、救ってきた。
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そんなDMXの遺作となる「EXODUS」が本日リリースされた。Jay-Z,、Nas、スヌープ・ドッグ、The LOX、Swizz Beatz、Lil Wayne、Moneybagg Yo、Alicia Keys、Bono、Westside Gunn、Benny The Butcher、Mr. Porter、Usherなどが参加しており、フィーチャリングアーティストが少なかったDMXの過去アルバムとは、一線を画すものとなっている。
リリース直前である5月26日に、名プロデューサーでありDMXの盟友でもあるSwizz Beatz(スウィズ・ビーツ)が主催する「EXODUS」のリスニングパーティーに参加し、Swizz Beatz本人のお話を聞く機会があったので、そちらの様子を紹介したいと思う。
DMX「EXODUS」リスニング・パーティー & Swizz Beatzショートインタビュー
オンラインで行われた「EXODUS」のリスニング・パーティーは、日本時間の深夜1時頃に始まった。全世界から招待されたメディア関係者が80人ほど入ったルームは非常に新鮮な光景であった。
以前Swizz Beatzがインスタグラムにて公開していたアルバムトレイラーが流れ、DMXの「Take it Back to the Streets Motherf*cker!(ストリートに戻るぜマザーファッカー!)」という叫びで、これから目の当たりにする作品に対するワクワクと、彼が亡くなったという悲しみの感情が同時に溢れた。
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さらに「今回のアルバムは、今までの俺の作品と違って多くのゲストが参加しているよ。失っていた制作への熱意が復活したんだ」と語る彼の映像が流れる。今回「EXODUS」にて、多くのゲストが参加している理由については、以前Swizz Beatzが語っていたので、こちらも読むことをオススメする。
そして長年DMXを支え続け、Ruff Rydersが世界を席巻していく上で非常に重要な役割を担ったプロデューサー、Swizz Beatz本人が遅れて登場する。「遅れてごめんな。とても長い夜を過ごしていて、さっき準備ができたところだよ。」と言いながら登場した彼は、アルバムをプレイする前にこのように語った。
「長い話はあとにして、とりあえずアルバムを聞いてほしい。彼が生きている間にこのアルバムを作れたことを誇りに思う。彼が亡くなったからリリースされるのではなくて、彼が生きている間に完成したアルバムなんだ。唯一、彼が聞けなかったのは、Moneybagg Yoのヴァースだけだ。本当はポップ・スモークが参加するはずだったんだけど、彼のヴァースが既に他の曲で使用されてしまったから、この作品に使えなくて、そこだけすり替えた。それでは聞いてくれ。」
このように話し、すぐさまアルバムの1曲目「That’s My Dog」が流れた。後ほどSwizz Beatz本人のショートインタビューの内容は紹介するが、リスニング・パーティーでの実際の順序に沿い、まずはアルバムを一聴した印象を紹介したい。
「That’s My Dog」は、「Ruff Ryders!」と叫ぶDMXの声から始まり、当時リアルタイムでDMXを聞いていた身としては、「あぁ彼が生きていたら、本当にキャリア”復活”となるアルバムになったんだろう」と、その一言で時代が巻き戻った感覚になった。「Do it for the havenots, Do it for the lowlife(多くを持っていない人たちのためにやれ)」というリリックで、彼が言っていた「ストリートに戻る」ストーリーが開幕した。The Loxが参加しており、特にJadakissとDMXの声が同じトラックに乗っていると、そのアグレッシブさに思わず頭を振らずにはいられない。
2曲目「Bath Salts」では、いきなりJay-Zのヴァースが入ってくる。世界中のメディア関係者が一気に「Jay-Zだ!HOVだ!!」と反応し、チャットが盛り上がる。元はJay-Zの宿敵であったNasも入ってくるが、90年代後半〜2000年代前半のヒップホップファンにとってはDMX、Jay-Z、Nasが同じトラックに乗っている時点で奇跡とも言えるだろう。
3曲目「Dog’s Out」も、リル・ウェインの声から始まる。さすがのフロー、ライム・スキームであり、彼のトラックの乗りこなしには毎回脱帽する。4曲目「Money Money Money」が、件のポップ・スモークの代わりにMoneybagg Yoが参加した曲である。とにかくトラックとサンプルが素晴らしく、このトラックをリミックスするラッパーも多く出てきそうだ。DMXの声も、最もエネルギーがあった頃のDMXを彷彿とさせるものであった。
5曲目の「Hold Me Down」からアルバムの雰囲気がガラッと変わり、ストリートでハードなDMXの一面から、自身の脆弱性を赤裸々に語る、多くのリスナーを救ってきたDMXの一面が現れる。アリシア・キーズがサビを歌い、DMXの「愛している人たちが自分を必要としてくれないのは、傷つく」というリリックに共感を覚えた。
このアルバムにおいて、最も意外なコラボであり、かつ最もスタンドアウトするのがU2のBonoが参加した6曲目であろう。どことなくB.O.B.の「Airplanes」を彷彿とさせるメロディであり、立ち上がり続ける勇気をもらえる内容のリリックとなっている。「ただ声を聞かれたいだけなんだ。俺の言葉は永遠に生き続ける。知名度なんてFuckだ」と叫ぶ彼の言葉が、私の理念と理想を結びつき、共鳴をした。Swizz Beatzが最も気に入ってる曲でもあり、Bonoがポエムを書いて、DMXにプレゼントをしたというエピソードも披露してくれた。
7曲目のスキット「Stick Up」から「ストリート」に戻り、そこから先行配信されていたGriseldaとのマイクリレー曲「Hood Blues」へとトランジションする。9曲目にはスヌープ・ドッグが参加しており、マーヴィン・ゲイのサンプルを使用したスムーズなトラックとなっている。Swizz Beatzは、「スヌープは普段のストリートな自分じゃなくて、スムーズなスヌープを魅せたかったんだ」と語っていた。
恐らく元々公開されていたトラックリストとは9曲目と10曲目が入れ替わっており、10曲目がNasが参加した「Walking In the Rain」となっていた。とてもソウルフルなトラックであり、彼の「俺はいつも自分が得るべき称賛を世間から得てきたわけではない」「駆け出しの頃からの仲間とまだ一緒に活動してるやつら、その調子だ。でも、もしそうじゃなくてもストレスは感じるな。まだそこに愛はあるはずだ」というリリックが身に沁みるラッパーも多いだろう。
そこからDMXの息子である「Exodus」の録音が流れ、息子へのメッセージとして書いた曲「Letter To My Son」に繋がる。ギターのトラックが非常に美しく、彼が息子に対して書いた内容には思わず涙が流れた。「俺がドラッグを使用していることを知っているだろう、でもお前にはドラッグを使用するなと教えた」と語り、「お前をがっかりさせてしまったが、今からでも遅くないはずだ。父親に電話しよう」と続くリリックには、世界中のメディア関係者も涙をこらえているようだった。
ラスト・トラックは、DMXの神への祈りとなっており、まさに「ストーリー」として非常に綺麗にまとまった作品となっていた。彼が語っていた「ストリートに戻る」というのは、単に「ハード」なだけではなく、ストリートから生まれる悲しみと苦悩も表現し、さらには自分の愛する身近な人たちを大切にするということでもあるのだろう。
Swizz Beatzは最後にショートインタビューの時間を設けてくれたので、そちらの発言の一部を紹介したい。
これが彼の「旅」だ。今週だけでこのアルバムを1000回は聞いたよ。彼のキャリアで最も成功したアルバムになってほしい。その手助けをしてもらうために、みんなに集まってもらったし、みんなはそのプロだ。やることはわかってるよな?(笑)
アルバムを再生しながら、画面上でみんなの顔を見ていたよ。DMXのなかにあった感情と、その変化が、みんなの表情からも読み取れてとても良かった。ただ「聞く」アルバムではなく、自分の人生と結びついた「体験」となってほしい。
実際にはもっとたくさんの曲があったけど、ストーリーを明確にするために、削ったんだ。だから収録されなかった曲も多い。そして私自身も、今までDMXのシングルばかりやっていて、アルバムを全部プロデュースするということはなかったから、今までにない化学反応が生まれたと思う。兄弟として、彼のムードや、調子の悪い日とかも理解していたから、とてもいい感じに制作を進めることができた。
彼が生きている間に完成させることができたし、完成したときは毎晩セレブレーションだったよ。オールドスクールな音楽を流してスタジオで踊ったりしていた。
このアルバムは、本当はDMXのトレーニングが終わってからリリースされるはずだったんだ。フィジカルトレーニングの準備をしていて、DMXの体ができてくるタイミングでリリースされるはずだった。さらに、制作の様子は全て映像に収めたよ。でも「作品」として意味のあるものにしたいから、どう公開するかはちゃんと考えたい。
今日はアメリカ、カナダ、デンマーク、南アフリカ、日本などから集まってくれて本当にありがとう。あとはあなたたち、メディア関係者に任せます。