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Music Industry – Behind the Scenes Vol. 3 NAS『NASIR』リスニングパーティーへ潜入

 

Text: Miyuki W. Myrthill

 

90年代のいわゆるヒップホップ黄金期を代表するカリスマラッパーのナズが、言わずと知れたカニエ・ウエスト全面プロデュースによる新作を発表予定、とカニエ本人が発表し大騒ぎとなったのが今年4月。それから2ヶ月弱を経て、オリジナルとしては約6年ぶりとなる待望の新作『NASIR』が遂にその全貌を明らかにした。これに先駆け、メディアやヒップホップ社交界の要人、そしてナズを敬愛するアーティスト達が一堂に会するシークレット・リスニング・パーティーが現地時間の6月14日(木)、NYのクイーンズで行われた。

 

当日になってもその会場は明かされず、招待客はクイーンズのロングアイランド・シティにある何の変哲もない駐車場に召集され、ゲストリストで名前を確認された後はそのまま停車中のバスに乗り込み、さらなるシークレット・ロケーションに移動するという念の入れよう。バスで筆者の隣に座ったのは、ナズが出資していることでも知られるメディア=マス・アピールの撮影クルー。途中バスが同じブロックをぐるぐる回るようなわけのわからなさ、クーラーの不調など、そんなこんなも「超90年代っぽい!」と一同超ポジティブ。バスの運転手の元へはひっきりなしに目的地からの連絡が入るらしく、そのたびに「しばらく待機」とバスが止まる。そして召集から2時間くらい経過した時点でバスが到着したのは、これまでのナズの数々のアートワークでもお馴染みのクイーンズボロブリッジの真下。NYヒップホップ的にはクイーンズの目印である。うぉー、こうきたか!とバスの中のテンションも最高潮。勢い勇んでバスを降りればNYPDのパトカーが何台も並ぶ「いかにも」なものものしい雰囲気。NYPDの青い木柵の向こうには騒ぎを聞きつけてやってきたらしき地元の若者たちが黒山の人だかり。これは期待しないわけがない!6年ぶりのナズの新作を、一足お先にこんなロケーションで聴けるなら我慢しますとも、という面持ちで黙って長蛇の列に並ぶラッキーなファンやジャーナリスト達。そこからさらに待つこと數十分、これが普通のクラブやコンサートの列ならそろそろ乱闘事件が起きててもおかしくないよな、、、というギリギリなタイミングでようやく「レイディーズオンリー!」の声。ああ、連れがいなくてヨカッタ、、っと殿方のジェラスな視線を感じながら小躍りするように列をスキップすると、そこにはお約束の金属探知機が。

 

そして数々の関門をくぐり抜けて到達したその会場は、眼前にイーストリバーとマンハッタンの夜景が広がる砂利の広場に、ジャマイカの屋外ダンスのような巨大スピーカーがそこここに積まれ、さらには軍隊の武器庫を思わせるカモフラ柄のネットで覆いをかけたバーエリアと、ヒップホップ界からの寵愛を受け続けるミリタリー系SUV=ハマーが2台。ステージがあるわけでもなく、BGMが流れるわけでもなく、何の指示も表示もない大カオス状態の中、いかついセキュリティ然としたスタッフが立ちはだかるその後ろが「怪しい!」と狙いを定めて場所を陣取ること数分。振る舞われたドリンクを飲みながらあたりを見回すと、取材陣ともファンとも区別のつかない人混みに揉まれながらファボラスやワカフロッカ、ワレーなどのラッパーがID録りに快く応じている。その時点ではもう、このVIPエリア的雰囲気を察した会場のファン達が背後に何十人と詰め寄せ、もはや身動きが取れない状況になっていたのだが、その瞬間「ウォオオオオ~」という地響きのような男性陣の声と共に金髪のキム・カダーシアンが到着(したらしい)。男性陣の声しか聞こえないのは、キムを中心軸としたその周囲を屈強なセキュリティが厳重に取り囲んでいるので、その真ん中に誰がいるのかが目視できるのは相当に背の高い、そしてガッツのある男性陣しかありえないから。筆者は5回くらいぴょんぴょん飛び跳ねてやっと確認できたほどだ。キムが来た、ということはカニエも会場入りか!?とそこらの人間が「ピン」と来てしまった瞬間、停車してあったハマーがVIPエリアにバックでゆっくりと移動し、さらに奥の方から、見紛うことなきあのニヤリとした表情のカニエ(そう、この夜のカニエはめっぽう上機嫌だった!)が登場し、その後を続くようにいつもの冷静な面持ちのナズが登場、期せずしてその人だかりの最前列に陣取っていた筆者の目の前で二人がハマーの後部座席に乗り込んだ!通常このテのイベントは招待客の「レベル」に応じてアクセスできるエリアに差をつけられているのが常なのだが、先にセキュリティのオヤジ達が「今日はカニエがこういうカオスな感じにしたいって言ってるんだよなー参ったな」とボヤき合っているのを耳にしていたので、この夜は確信犯的に狂乱状態を作り出したかったらしい。いや、すでにスタンピード状態で死にそうだったので、カニエの狙いはドンピシャでしたが。

 

その後二人を乗せたハマーがゆっくりとスピーカーの積み上げられたエリアへ移動し始めると、軽く100人はくだらない取材陣やファンも一緒になって小走りで移動。その光景は金正恩を乗せた車を囲んで走る北朝鮮の護衛のようでもありコミカルではあったが、命の危険を感じたので筆者は全体が見える位置へ移動し、待望のリスニングへとマインドを切り替える。ナズとカニエはハマーから降り、そこに集まったファンと同じ砂利の上に立ったまま(もちろん巨漢の護衛数名に守られてはいるが)。その周りをスマホを高く掲げて二人の一挙一動と新アルバムの音源をライブ配信したがるファンが幾重にも取り囲んでいる状態。筆者はちょっと離れたところにあるスピーカーによじ登ってその全体像の撮影を試みたものの、セキュリティが飛んできてたしなめられてしまった。

 

その時点では一切セットリストも情報も渡されていなかったため、曲目やクレジットなどは不明ではあったが、夜の闇をつんざくような轟音で新曲がお披露目される度、カニエやナズのリアクションに反応しているらしきファンの山からどよめきや歓声が上がる。アルバムの全貌などについてはすでに音源やあまたの論評が公開されているのでここでは割愛するが、「オバマ元大統領とも約束した」と言われている、カニエによるナズのアルバムのトータル・プロデュースがようやく現実のものとなり、ヒップホップ界の「ハレ」の日を祝うファン(そして盟友アーティストたち)の「これを目撃できて良かった!」的満足度の高い、そしてシチュエーション的にも忘れられない素晴らしい夜となったことは確かだ。

 

ちなみに筆者は完全に逃していたのが、会場で『NASIR』のマーチャンダイズのパーカー各種が大盤振る舞いされていたとかで、一人何枚も手に抱えてホクホクしているファンも多数。これはネットで購入可能らしいので興味のある方は探してみては。

 

 

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