Text: Kaz Skellington
サンプリングはヒップホップにおける重要な要素の一つである。70年代前半にニューヨークのサウス・ブロンクスにて生まれたヒップホップは、既存の楽曲のブレイク部分を2つのターンテーブルで繋げる手法で人々を踊らせたのもあり、ヒップホップ・ビートにおいてサンプリングは欠かせない要素となっている。もちろん文化として定着はしたものの、元ネタの権利者との間で争いが起こるケースも少なくはない。
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そんななか、サンプリングの許可を取ることを専門に活動しているエージェンシーがあることは知っているだろうか?DMG Clearances, incでは、過去にエミネム、ケンドリック・ラマー、Fat Joe、Lupe Fiasco、Nas、The Roots、DJ Premierなどの作品のサンプリングをクリアしており、業界で屈指のサンプリング・クリアランス・エージェンシーとなっている。その代表であるDeborah Mannis-Gardnerに、この度がDJ Boothがインタビューをしていた内容が非常に興味深かったので、印象的だったものを紹介したい。
今のサンプリングの許可取りは昔と違うと語るDeborah。25年以上のキャリアがある彼女であるが、昔は今より使用料金が安かったと語る。
私は25年この仕事をやっているけど、昔はもっと安い料金でサンプルを使用することができた。例えばCommonがデビュー・アルバムを制作したときも、一つの楽曲に4~5個ぐらいのサンプルが使用されていたが、それでも金額的にも許可を取ることができた。
でも今は、みんな欲が出てきているし、出版社も最低でも売上の10%~15%ぐらいを取ろうとする。だからDJ Premierのような、多くのサンプルを少しづつ使用して色づけるスタイルみたいなビートも作りづらくなる。多くのスクラッチや要素を付け足す、彼のような特殊能力を活かすのが難しくなっている。多くの出版や管理会社がメジャーな企業に買収されているから、もちろん値段も上がる。Sony ATV、ワーナー、ユニバーサルなどの会社が多くの権利を買収しているから。
昔は小さな会社がたくさんあって、交渉する余地をくれたんだけど、今はあまりそういう文化もない。
さらに、どのようなフローを踏んでサンプルがクリアされるか?という箇所も興味深かった。
アルバムの予算を組んでいるとき、1000万円〜1500万円相当のサンプル使用費を前金として用意する場合が多い。エミネム、ドレイク、DJ Khaledとかの場合は、作品が世に流出しないように細心の注意を払っているから、電話越しで権利者に楽曲を再生することになる。他のアーティストとかだと、郵送で送った後に出版社、レーベル、アーティスト、マネージャーの元に渡る。そこで許可が出たら、料金の見積もりがでて、交渉に入る。
このようなフローでサンプルをクリアすると語った。世に出ている楽曲がこのようなフローを踏まえた上でリリースされたと考えると、気が遠くなるような作業である。実際に拒否されるときもあるらしく、その場合は拒否された理由を探ることが重要になってくるようだ。それが楽曲の内容なのか、予算なのかを探るが、Deborahは先にクライアントに対して、拒否されるであろう楽曲についてのコンサルを行うため、拒否率は1%以下という記録も持っている。
また、サンプリングの許可を絶対に出さないアーティストもいる。プリンス、アニータ・ベイカー、ロッド・テンパートンからは絶対に許可が降りないらしく、ケンドリック・ラマーは「To Pimp a Butterfly」の製作時に、プリンスに直接会いに行き、お願いをしたが駄目だったと明かしている。スティービー・ワンダーは、以前は許可を出していたが、今はNGだということも明かした。
今はインターネットの登場により、誰がその楽曲の権利を持っているかを知ることが容易となったと語るDeborah。昔は亡くなったアーティストに関しては、そのアーティストの墓地の管理者などから家族の元にたどり着く必要があったり、隣人たちに聞き込みをしたりしていたらしい。彼女のようなエージェントの労力もあり、私たちは多くのヒップホップ作品を聞くことができているのだ。