ライブの楽しみ方の一つに、「モッシュ」というものがある。クラウド・サーフィング、ステージダイブなど、アグレッシブな楽しみ方の中でも最も過激なものとも言え、観客同士が押し合い、腕を振り回すなど怪我を伴うことや、最悪の場合死亡者が出た例もある。そんなモッシュについて、クラウド・セーフティのエキスパートであり、モッシュを20年間リサーチをしてきたPaul Wertheimer氏がGeniusの2019年のインタビューで語った内容を紹介したい。
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Paul Wertheimer氏ははじめに、以下のように話している。
「基本的に、若い男性は危険を冒すタイプが比較的に多い。たくさんのエネルギーがあって、アグレッシブになることで例えば、自分のフラストレーションなどをぶつける。モッシュとは、誰かがその音楽やアーティストを好きな場合に、その興奮をシェアするということだ。つまり共同体験であり、お互いに合意の上での物理的なスキンシップなんだ。」
近年ではヒップホップでもお馴染みのモッシュであるが、その起源は70年代から80年代のパンクのライブだったと知られている。
「モッシュは、80年代のアンダーグラウンドパンクシーンにおける、スラムピットの概念が元になっている。観客同士が踊り、両腕や両脚を振り回し、ぶつかり合う。」
GeniusはYouth BrigadeのShawn Sternが1984年のドキュメンタリー「Another State of Mind」で語った以下の内容を引用している。
「彼らは互いを傷つけたい訳じゃない。アグレッションをぶつけ合っているんだ。抑圧された怒りや憎しみフラストレーションなど、世界に対してムカつくことがたくさんがあって、これはその解放なんだ。」
その後、Onyxなどのラップグループがモッシュを自身らのライブやミュージック・ビデオに持ち込んだ。Paul Wertheimer氏は以下のように続けている。
「私たちがフィーリングをアーティストに還元することをアーティストは望んでいるから、私たちはモッシュをするんだ。アーティストが音楽を通して伝えようとしているフィーリングや感情を彼らに返すために。」
冒頭でもお伝えしたように、そんなモッシュには影の側面もあり、その危険性についてPaul Wertheimer氏は最後に以下のように語っている。
「モッシュは人を殴っていたり、押し倒していたり、一概には言えない。とても暴力的であったり、血を流すこともあり、時に死者が出ることもある。アーティストがマイクをコントロールし、群衆のほとんどをコントロールしている。そして、あなたの大好きなアーティストが何かをするように促せば、多くの人は、それが賢い判断なのか、そうでないのか、その場では考えないだろう。
モッシュはとても楽しいよ。事実として、モッシュはとても楽しむことが出来る。
群衆の中で居心地良く感じられない?それなら、その場から出れる間に出るんだ。自分が弱虫だと感じる必要はない。ただその場から出て、安全な場所に行くんだ。」
モッシュは強制されるものではなければ、もしモッシュを楽しむのであれば、倒れた人を解放したり、守ったりすることも忘れてはならない。