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【ポケモンとヒップホップ】ポケモンが使用されているラップを分析し、パンチラインの書き方の初歩を学ぶ

Text: Kaz Skellington

 

 

以前Playatunerというメディアで「ドラゴンボールとヒップホップ」という記事や、「スター・ウォーズとヒップホップ」という記事を書いたが、ラップのパンチラインの「メタファー」として、アニメや映画のキャラが登場することは多い。例えば「いかに自分が強い存在か?」というセルフ・ボースト系のパンチラインでは、自身をドラゴンボールのキャラに例えるラッパーも多い。「私は超サイヤ人だ」と言えば、覚醒し、より強い存在になったということが一発で伝わってくる。このように非常に著名な作品のキャラクターを使うことにより、「私は強くなった」や「覚醒した」ということを直接言わなくても意図が一発で伝わるという、ラップにおける「パンチライン/Bar」を簡易的に作れるのだ。

 

世界中で、非常に著名な作品やキャラと言えば、ポケットモンスター(ポケモン)である。この度「ポケモンとヒップホップ」について書く機会を頂いたが、Geniusがポケモンをレファレンスしたリリックをいくつか紹介している動画があったので、こちらの例も踏まえて、①なぜキャラ名をパンチラインで使うのかと、②3つのポケモンレファレンスの解説をしたい。(この記事のテーマには関係ないが、米国版の「ポケモン言えるかな?」はニュー・ジャック・スウィング調の曲になっている。)

 

世の中にあるリリックを調べていると、「なんでラッパーは自分をキャラで例えるのだろう?」と疑問に思う方も多いだろう。それは「韻と言葉遊び」を作る上での思考プロセスに関連している。私も個人的に英語でラップを書いており、今まで米国のラッパーたちとラップの書き方の議論をした経験からすると、「韻と言葉遊び」において重要になってくるのが「連想ゲーム」的な発想なのだ。例えば「自分がいかに強いか?」というセルフボーストについてラップしているヴァースを書いているときに、「O−U」という母音の言葉がくるとする。その場合「強い」というキーワードから連想をし、「Goku」という韻を真っ先に思い浮かべることができる。そのように自分が今ラップしているコンセプトのキーワードから「連想ゲーム」をし、自分が韻を踏みたい母音について考えてみたとき、そのキーワードに関連したキャラクターが思い浮かぶことが多いのだ。

 

 

キーワード:進化、炎

 

先程の点を踏まえ、ポケモンをレファレンスしたリリックを見てみると、ラッパーたちの思考プロセスが少しわかるようになるので、さらに興味深く聞こえるだろう。こちらのJoey Bada$$(ジョーイ・バッドアス)の楽曲「Alowha」には、ポケモンの「Charmeleon(リザード)」がレファレンスとして出てくる。

 





meetings with ’em
Give ’em a high pitch like curveballs and helium
Young scorcher trying to evolve like Charmeleon

ミーティングをし、カーブボールやヘリウムのように、高いピッチを与える。
若く、焼け付くように熱い俺は、リザードのように進化をしようとしている。

 

こちらは彼が18歳のときに作った作品であるが、ちょうどJay-Zとミーティングをしたり、多くのビジネスに関わり始めた時期であった。「ピッチ」とはプレゼンテーションをすることであり、起業家などが人前で事業をプレゼンする場合に頻繁に使用される言葉である。「高い(レベル/位置の)ピッチ」ということで、野球のピッチングにかけて「カーブボールのように」という言葉遊びと、「音程が高くなる」という意味での「高いピッチ」をかけて「Helium(ヘリウム、英語だとヒーリゥム)」という言葉を使う。そして「ヒーリゥム」と韻を踏め、「進化して次のキャリアのステップに進む」というキーワードと、「今最も熱い存在/炎のようなラップをスピットする人」というキーワードから連想できる「さらに強い存在に進化をする炎属性のキャラ」として、「リザード/Charmeleon」で韻を踏んでいるのだ。リザードは、進化をするとリザードンになる。彼がこのメタファーを書いたときの思考プロセスは、概ねこのような感じであろう。

 

 

キーワード:消化器、水

 

先程の「炎」のように、ラッパーがスピットをするという意味で「炎を吐き出す」という表現は頻繁に使われる。それに対して、Mick Jenkinsは逆の発想でパンチラインを書いている。彼はThe Water[s]というミックステープに収録されている「Lazarus」という曲でこのようなパンチラインを披露している。

 





And all this water got me feeling Misty, I’m making mad noise
Tell them flamethrowers I be Blastoise in your city

溢れる水が、心を霧で霞ませる。俺は声を挙げ、音立てる
この火炎放射器たちに言え、俺はお前の街ではカメックスだ。

 

日本語にすると、違和感があるが、こちらもなかなかハードな内容となっている。まず、彼はこのミックステープの「The Water[s]」にかけて、「水」というキーワードを使用する。なるべく詩的にするために、「溢れる水が、心を霧で霞ませる」と訳させて頂いたのだが、「霧/霞=Misty」であり、Mistyは英語版ポケモンの「カスミ」という、水ポケモンを使用するキャラなのだ。ここでまず「カスミ=Misty=霧」というポケモン・ラインが生まれる。さらに彼は「炎をスピット」する他のラッパーたちを消す「消化器」として、「Blastoise(カメックス)」になると表現している。カメックスは背中の砲台から水を噴き出して攻撃する亀のようなポケモンである。この場合、「Mad Noise」と「Blastoise」で綺麗に韻を踏んでおり、その韻のテンポもイケてるものとなっている。こちらは、恐らく「Flamethrower(火炎放射器)を消化」というキーワードから、「Blastoise」というパンチラインを先に思い浮べ、それと韻を踏む「Mad Noise」という言葉で繋げたものと思われる。ちなみに、ポケモンの「かえんほうしゃ」という攻撃の英語訳もFlamethrowerである。

 

 

キーワード:電気椅子、ネズミ

 

こちらは昨年HIPHOP DNAのライブショーケースにて来日したVince Staplesの人気曲の「Blue Suede」。こちらには一番知名度が高いと言っても過言ではない「ピカチュウ」がパンチラインに登場する。

 





Death row, till they put you in the Pikachu to fry

ピカチュウに乗せられて揚げられる死刑判決

 

ただ青いジョーダンのスニーカーが欲しかっただけなんだ」と語るように、フッドで育った子どもたちが、いかに簡単にギャングに入ってしまうか、というテーマでラップをしている。そのなかで、ギャング「クリップ」として生きるか死ぬか、どちらかを選べ、というラインをラップした後に、このフレーズが入ってくる。ギャング活動の結果、「電気椅子で死刑を待つ」という「電気」というキーワードから出てきた比喩表現であろう。もしさらに深く考察するとなれば、死刑に至るほどの犯罪は、「密告」によって逮捕されることもある。そんな「密告屋/スニッチ」は、スラングで「Rat(ネズミ)」と呼ばれる。このように、「電気での攻撃」と「ネズミ」というキーワードから連想されたキャラが「ピカチュウ」であったのだろう。

 

このように、連想ゲーム的な形でパンチラインが書かれていることを理解すると、その著名なキャラとラップの関係性がわかるだろう。さらに、これから自分でラップを書きたいという方にも、巧みな比喩表現がどのようにして書かれているのか?ということを分析するのは重要である。ラップのパンチラインの多くは連想ゲームから生まれたものであり、属性や攻撃方法が決まっているキャラは比喩表現を作る上で便利な要素となっているのだ。このような著名なキャラは、もちろん誰もが楽しめる親しみのあるパンチラインとして使用されることが多いが、世界的には有名ではないキャラ、事件、レファレンスがラップに登場をすることもある。そういう意味でも逆に、普段から自分のアンテナを広げ、多くの作品やニュースに触れておくと、そのようなラップのレファレンスを最大限で楽しむことができるだろう。

 

 

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