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ドリルの社会的な影響と警察による取り締まり UKドリルのパイオニア Digga Dがドリルのポジティブな影響について語る

 

 

以前、Jay-Zを始めとするラッパーたちが、裁判でラップのリリックを証拠として使用することを制限する法案を支持したというニュースが話題になっていた。2020年の11月に発表されたこの法案は、被告人の音楽などの「クリエイティブ表現」を、犯罪の証拠として陪審に対して提示することを制限するためのものだ。この法案が可決された場合、被告人の楽曲が「比喩的、または架空の表現ではなく、誇張されていない」という「明確で説得力のある証拠」を提出することが検察官に求められる。

 

【関連記事】UKドリルシーンのパイオニアDigga D 全英1位を獲得した『Noughty By Nature』で表現した多面性

 

リリックの制限と言えば、イギリスのドリルミュージックのパイオニアであり、最新ミックステープ『Naughty By Nature』が全英チャート1位を獲得したDigga Dを思い浮かべる人も多いだろう。Digga Dは2017年に、MVの撮影中にライバルギャングへの襲撃を企てていたとして逮捕され、2018年にCBO(Criminal Behaviour Order)と呼ばれる監視プログラムに置かれた。楽曲のリリックを警察に提出し、了承を得ないとリリースできず、さらには具体的な人名、ギャング、事件などをリリックに入れてはいけないという制限も設けられている。警察はドリルミュージックが暴力や殺人を扇動しているとし、厳しく監視している。ドリルミュージックが若者の暴力につながると批判する人たちもいるなか、本当にドリルミュージックは悪影響のみを及ぼしているのか?という疑問も浮かぶ。

 

今ではロンドン、ニューヨーク、パリ、シドニー、アジアなどにも広まっている音楽であるが、元はシカゴのPac Manやチーフ・キーフなどのアーティストによって広まったヒップホップのサブジャンルである。「敵のギャングを襲撃する」という意味の言葉が名前の由来であり、ストリートにおける犯罪を語る内容が多い。Pitchfork誌は2019年にドリルを「この10年間で最も重要なヒップホップのサブジャンル」と評価しており、「ドリルで描かれている残酷な描写を批判している人もいるが、これがラッパーたちが実際に生きている、人種差別によって作られた環境だ」と説明している。

 





 

特にロンドンではドリルミュージックが独自の進化と発展と遂げており、2018年には、ロンドン警視庁による署名の結果、30ほどのドリルミュージックの動画がYouTubeから取り下げられた。Digga Dが属するロンドンのドリル・クルー「1011」も、警察の許可なく音楽をつくることが禁止された。2019年にはドリルデュオであるAMとSkengdoがライブでドリルを演奏したとして、9ヶ月の有罪判決が下されている。イギリス史上、楽曲を演奏して実際に懲役刑となったのは初だという。イギリスの警察は80年代後半や90年代前半の西海岸ギャングスタ・ラップ以上に、ドリルを取り締まっている。

 

しかし、ロンドン大学シティ校のJonathan Ilan氏は、2020年のイギリス犯罪学会雑誌にて、リリックの正しい解釈がされていないと反論している。「UKのドリルが、実際に言葉通り受け取られてしまっている」といい、多くのドリルラッパーたちがリスナーに注目されるために、リリックを誇張したり、架空の犯罪についてラップしていると記載している。またJonathan氏は「もちろん加害者、そして被害者としてドリルアーティストが事件に関わっているということを完全に否定することではない。ただドリルミュージックが暴力の直接的な原因となっているという考えを改めるべきだ」と語り、ドリルミュージックをセンサーすることは、コミュニティをさらに疎外させ、そのような暴力が起きる環境をさらに悪化させるという見解も述べている。

 

2020年にはBBCが「Defending Digga D」というドキュメンタリーを公開しており、彼が音楽をリリースする上で課された制限にフィーチャーを当てている。ドキュメンタリー内では、音楽をリリースする前に弁護士と内容に問題がないか確認するDigga Dや、一日に何度も警察に止められ車内を捜査される彼のクルーなどの様子を描いている。Digga Dは、このように語っている。

 





 

 

自身が生まれ育った環境についてラップすることによって、フッドから出れたし、自分の人生を変えている。ドリルミュージックは、そのような環境から抜け出すためのものなんだ。

 

もちろんメディアや世間がドリルをネガティブなものとして見ている理由は理解できる。でも映画にだって、そういうネガティブで残酷な描写がある。アメリカのラップにだってあるし、ロックにもある。

 

もちろん残酷な内容だけど、そういう環境で生きてきた現実なんだ。

 

 

そのような環境のリアルをラップし、自分の人生を変えるツールとしてドリルが有効であると語ったDigga D。映画や、他のジャンルにもバイオレンスがあるものの、ドリルが目の敵にされているということも述べている。ガーナのドリルラッパー、ChicoGodも「ドリルはライフスタイルであり、私たちが社会で直面する問題を表現している。社会が作った私たちだ。良いことについてラップするときもあれば、悪いことについてラップすることもある」とドリルについいて語っている。

 

Digga Dの最新ミックステープ『Noughty By Nature』では、以前のDigga D作品のように、残酷なストリートな現実をラップしたドリルの楽曲が多く、実際に彼が見てきたギャング関連の事件についてのリリックが多いが、そのような人生を生きることによって起きる悲惨な結果についてもラップをしている。今後、ドリルはどのような発展を遂げ、社会的にどのような評価を受けるのだろうか。一つ言えることは、残酷な内容であっても、ドリルを使用して自分の人生をポジティブに変えようとしているラッパーも多く、ドリルをきっかけにより良い人生を送ることができたアーティストも多いだろう。

 





 

また、Digga Dの『Noughty By Nature』では、今までのようなハードなドリル曲以外にも、G-Unitの「Stunt 101」をサンプリングした「Pump 101」や50 Centの「21 Questions」をサンプリングした「Hold It Down」のようなメインストリームに対するアピールも含まれており、リリックが制限されているなか、アーティストとしても成長も見ることができる。

 

 

(Source)
https://youtu.be/2_Qfdafho0k
https://www.bbc.com/culture/article/20210607-the-controversial-music-that-is-the-sound-of-global-youth
https://www.theguardian.com/music/2019/jan/31/skengdo-and-am-the-drill-rappers-sentenced-for-playing-their-song
https://openaccess.city.ac.uk/id/eprint/23519/
https://www.independent.co.uk/arts-entertainment/music/features/digga-d-drill-rap-potter-payper-knife-crime-stormzy-youtube-b1802778.html
https://www.childrenssociety.org.uk/what-we-do/blogs/culture-of-drill-music

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