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『AmeriKKKa’s Most Wanted』リリース30周年 〜あのころのアイス・キューブは「最強」だった

 

 

text: Yoshiaki Takahashi

 

N.W.Aの伝記映画『ストレイト・アウタ・コンプトン』(2015年)の名場面として真っ先に思い浮かぶのは、N.W.Aの面々が彼らと袂を分けたアイス・キューブの強烈なディストラック「No Vaseline」(1991年発表のセカンドアルバム『Death Certificate』収録)をマネージャーのジェリー・ヘラーらと共に聴くくだりだ。自分たちが攻撃されているにも関わらず次々と繰り出されるパンチラインに引き込まれていくDJイェラと、その痛快さに立場を忘れて思わず吹き出す取り巻きの女の子たち。そして、そんな周囲のリアクションに苛立ちながらもキューブの怒涛のラップにぐうの音も出ないイージー・E。実際にこんなことがあったのかはかなり怪しいけれど、それでもこの場面に圧倒的な説得力が宿っているのは当時の「アイス・キューブ最強説」がいまもなおヒップホップシーン内のコンセンサスとして確立されているからだろう。

 

 

Ice Cube – No Vaseline

さて、2パックの「Hit ‘Em Up」やNasの「Either」などと共にしばしば史上最高のディスソングに挙げられる「No Vaseline」にはこんな一節がある。「Trying to sound like AmeriKKKa’s Most? / You could yell all day, but you don’t come close / ‘Cause you know I’m the one that flowed」(『Amerikkka’s Most Wanted』みたいなアルバムをつくってみろよ/いくらお前がわめき散らしたところで俺には到底及ばない/俺は最高のフロウをきめたからな)

 

ここからはN.W.A脱退後の1990年5月に発表した自らのソロデビューアルバム『AmeriKKKa’s Most Wanted』に寄せるキューブの絶対的な自信、ある意味このアルバムの存在が「No Vaseline」のテンションのベースになっている節すらうかがえるが、事実『AmeriKKKa’s Most Wanted』の評価はリリース時から非常に高く、ヒップホップ誌『THE SOURCE』名物のアルバムレビューでは満点となる「マイク5本」を獲得(同誌のレビューで満点を与えられた作品は、この時点でア・トライブ・コールド・クエスト『People’s Instinctive Travels and the Paths of Rhythm』とエリック・B&ラキム『Let the Rhythm Hit ‘Em』に続く3作目。ウエストコーストのアーティストとして、また単独アーティストとして初の快挙だった)。そのヒップホップクラシックとしてのステイタスは時間を経てもなんら揺らぐことがなく、1999年刊行の名著『Ego Trip’s Book of Rap Lists』掲載の「Hip Hop’s 25 Greatest Album by Year 1980-1998」では1990年のベストアルバムランキングで堂々第1位に選出されている(ちなみに2位はブランド・ヌビアン『One for All』、3位はパブリック・エネミー『Fear of a Black Planet』)。

 

 

Ice Cube – AmeriKKKa’s Most Wanted

このように1990年代初頭のヒップホップシーンにおける「アイス・キューブ最強説」はインスタントクラシックとなった『AmeriKKKa’s Most Wanted』によって築き上げられたところが大きいわけだが、このアルバムの高評価はN.W.Aの実質的なエースラッパーだったキューブと当時最も先鋭的な存在だったパブリック・エネミーのプロダクションパートナーであるボム・スクワッドとのコラボレーション、つまり西海岸ギャングスタラップのアティテュードと東海岸ハードコアヒップホップサウンドの融合が初めて本格的/有機的に達成された革新性に基づいている。「No Vaseline」でのN.W.Aメンバーに対する「Trying to sound like AmeriKKKa’s Most?」という挑発も、基本的にはその画期的な試みを誇示するものなのだろう。

 

実際、アイス・キューブとボム・スクワッドのケミストリーは想像以上だった。『AmeriKKKa’s Most Wanted』が世に出る一ヶ月前、1990年4月にリリースされたパブリック・エネミーの『Fear of a Black Planet』にはその前哨戦とでもいうべきキューブ(とビッグ・ダディ・ケイン)客演の「Burn Hollywood Burn」が収録されていたが、双方の相乗効果がもたらす迫力はいま改めて聴いてもキューブの歴代ゲストヴァースで楽々上位に食い込む凄みがある。アフリカンアメリカンのイメージを貶めてきたアメリカ映画史の暗部を糾弾する曲のコンセプトも、『AmeriKKKa’s Most Wanted』の予告編として申し分のないものだろう。

 

Public Enemy – Burn Hollywood Burn feat. Ice Cube and Big Daddy Kane

そして1990年5月、アイス・キューブが立ち上げた新レーベル「レンチ・モブ」からの第一弾としていよいよ『AmeriKKKa’s Most Wanted』がリリース。いざ蓋を開けてみると全曲のプロデュースをボム・スクワッドが手掛けているのはもちろん、そのサポートのような格好でかつてアイス・キューブとC.I.A.なるヒップホップグループを組んでいたサー・ジンクスがやはりすべてのトラックの制作に関与している。当時彼はまだ無名に等しかったが、『AmeriKKKa’s Most Wanted』に「パブリック・エネミーのオケでラップするアイス・キューブ」以上の独自性をもたらしていたのはほかでもない、このサー・ジンクスの貢献によるところが大きいと考えている。オープニングを飾る「The N***a Ya Love to Hate」でのジョージ・クリントン「Atomic Dog」以下、ボム・スクワッドのトレードマークである混沌としたコラージュサウンドにP・ファンクを中心とする西海岸マナーの豪快なファンクビートを導入した絶妙なバランス感覚は、まさにウエストとイーストの完璧なマリアージュといえるものだった。

 

Ice Cube – The N***a Ya Love to Hate

アイス・キューブがラップで扱うサブジェクトも、N.W.A時代と比較して飛躍的に多様化している。ヒップホップとフッドにおける女性の在り方についてレンチ・モブ所属の女性ラッパーYo-Yoと激しい議論を交わす「It’s a Man’s World」、ギャングスタラップ/ハードコアヒップホップを冷遇してきたラジオステーションを痛烈に批判する「Turn Off the Radio」、ジャスト・アイスやスクーリー・Dにインスパイアされたというプロジェクトを舞台にした本格的なストーリーテリング「Once Upon a Time in the Projects」などのほか、とりわけ強力なのがパブリック・エネミーのチャック・Dをフィーチャーした「Endangered Species (Tales from the Darkside)」。ポリスブルータリティ(白人警官による暴行/蛮行)によって若いアフリカンアメリカンの男性が命を落とす事件が多発するなか、彼らを「絶滅危惧種」と位置づけて状況の異常さを訴える迫真の内容はまちがいなくアルバムのハイライト。なんとも皮肉ではあるがブラックライブスマター運動が盛り上がる現在でも十分に有効なメッセージだろう。

 

Ice Cube – Endangered Species (Tales from the Darkside)

発売から約1年半で全米セールス100万枚を突破した『AmeriKKKa’s Most Wanted』がシーンに及ぼした影響は、たとえば1992年にリリースされたクール・G・ラップ&DJポロのアルバム『Live and Let Die』に見てとれる。なんとここでは『AmeriKKKa’s Most Wanted』成功のキーパーソンだったサー・ジンクスをメインプロデューサーに起用。マフィオソラップのパイオニアであるクール・G・ラップがウエストコースト流儀のファンクサウンドに乗せてスピットするという「逆『AmeriKKKa’s Most Wanted』」とでもいうべきアプローチをとって素晴らしい成果を上げている(なお、収録曲の「Two to the Head」ではゲトー・ボーイズのスカーフェイスやブッシュウィック・ビルと共にキューブが客演している)。

 

Kool G Rap & DJ Polo – Live and Let Die

以降の『AmeriKKKa’s Most Wanted』をめぐる目立ったトピックとしては、レッドマンが1998年作『Doc’s Da Name 2000』収録の「Jersey Yo!」で先述した「Once Upon a Time in the Projects」を忠実にリメイクしていたのが印象的だった。また、2003年にダンジョン・ファミリーからデビューして現在はラン・ザ・ジュエルズとして活動するキラー・マイクなどは明らかにアイス・キューブの初期作品から多大な影響を受けた正統派フォロワーのひとりといえるだろう(彼の2008年作『I Pledge Allegiance to the Grind II』収録の「Pressure」ではキューブとの共演が実現)。そしてまだ記憶に新しい2017年、いまは亡き盟友キャピタル・スティーズによる2012年リリースのミックステープ『AmeriKKKan Korruption』の流れを汲む格好でつくられたジョーイ・バッドアスのコンシャスラップ名作『All-AmeriKKKan Badass』。アイス・キューブとジョーイの年齢差は実に25歳にも及ぶが、ここには『AmeriKKKa’s Most Wanted』のスピリットがまっすぐに継承されている。

 

 

Redman – Jersey Yo!

 

Killer Mike – Pressure feat. Ice Cube

 

Joey Badass – Good Morning AmeriKKKa

 

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