デビュー当時からメッセージ性の強い楽曲を多くリリースしてきたベテランヒップホップグループのPublic Enemy(パブリック・エネミー)。彼らは現代のアーティストたちにも強い影響を与えており、ヒップホップという音楽ジャンルのメッセージ性をより社会的なものとした代表的なグループの一つとして知られている。2013年にはロックの殿堂入りも果たしているパブリック・エネミーであるが、そんなグループのメンバーChuck Dのスペシャル・インタビュー動画をHIP HOP DNAから公開した。
Interviewer: Shiho Watanabe
➖「Fight The Power: Remix 2020」の制作背景は?
Chuck D:15歳の時、初めてアイズレー・ブラザーズの「Fight The Power」という楽曲に影響を受けた。我々の生活が直面している状況や、アメリカの黒人としてどう見なされて、どんな扱いを受けているか、といった真実を歌った曲で、特に黒人の男性に向けた曲だった。「俺が音楽をかけると、あいつらはうるさすぎると言う。そうした戯言にはもうウンザリだ」という歌詞。その14年後、僕たちは1989年のスパイク・リーの映画、「ドゥ・ザ・ライト・シング」のために曲を作った。当時、俺たちが代弁した内容は、NYだけではなく、アメリカ国内に蔓延っていた不公平さについても当てはまる内容だった。現代でも、ブリオナ・テイラーの事件において、ケンタッキー州の当局は<彼女の殺害に関して該当の警察への刑事責任は問わない>と発表した。人々がウンザリしているのは、警察たちが自分たちの間違いや失敗を認めず、人々と上手くやって行こうとする代わりに、少しばかり高圧的な態度を続けているってこと。ジョージ・フロイドの殺害事件以降、今年に入ってから、若いエネルギーを持った人々が権力に立ち向かおうと真実を語っている。それがまさに、様々な出来事に対する転換点だったと思う。クエストラブと、BETのジェシー・コリンズから「Fight The Power」をBETアウォードのステイトメントとして掲げたいと言われた。でも俺は、今の時代にあった、若いエネルギーを足した新しい曲を使うべきだと思った。けれど、彼らは「いや、”Fight ThePower”が持つ意味は今も変わらない」と言ってくれたんだ。そして、クエストラブにまとめてもらったんだ。ザ・ルーツのクエストラブ、ブラックソート、ナズ、ラプソディ、ジャヒーに俺、そしてフレイヴァー・フレイヴにYGで、不公平な現状に対してどう思うか直接会話した。結果、多くの人々にとって大きな意味を持つステイトメントを提示できたと思う。
➖ラプソディが参加したことはとても意義深いと思います。女性、特に有色人種の女性を代表していますから。
Chuck D:ヒップホップの問題点として、これまでのディスカッションにおいて女性の意見を平等に受け入れてこなかったことが挙げられると思う。平等さや意見、楽曲に参加するメンバーのためにも、デザインや構成などを考えて全てひとまとめにする必要があった。ラプソディは最高のMCの一人。だから、彼女をフィーチャーすることはとても楽しかったし光栄なことだったよ。
➖「Fight The Power: Remix 2020」を公開した時、世界中からのリアクションはいかがでしたか?
Chuck D:時代を反映したとてもパワフルな楽曲だと捉えられた。コロナ・ウイルスのせいで人々が家の中にいたと言うこともあり、みんな、前みたいに自由に自分のことを表現できなくなってしまったことに対して意識が向いていたしね。今はコンサートもないし…。でも、オンライン上で楽曲を発表したから、みんなの反応もオンライン上で寄せられたし、みんなが実際にストリートに繰り出す時は、この曲を体現してくれた。権力に抗議するテーマ・ソングとしてね。
➖2020年は世界全体が混沌とした雰囲気を抱えていると思います。そんな中、PEの新しいアルバムを享受することは我々にとって大きな意味を持つものだと思います。今年、アルバムをリリースしようと思ったのは何故ですか?
Chuck D:俺たちはーー俺とフレイヴァー・フレイヴは いつもレコーディングしてるんだよ−―。このアルバムが出る前には、インディペンデントのプロジェクト、エネミー・ラジオとしてアルバム『Loud Is Not Enough』を発表した。これは、2006、2007年頃からPEのMCとしても活動しているジャヒーとDJロードらとのプロジェクトだけど、PEとしてアルバムを作ることは、俺とフレイヴにとってはもっと大きなミッションなんだ。だから俺たちは、一緒にやるならいつが最適なのかを探っていた。「いつ」だけが問題じゃなくて、常に動いている俺たちにとっては「どこで」というのも大事な問題だった。そして、元々自分たちがアーティストとしてスタートしたDef Jamが最適な場所だという結論に至った。そして、まずあの素晴らしいDJプレミアと一緒に「State of The Union」と言う曲を作ったんだ。「Fight The Power: Remix 2020」ともぴったりで、自分たちが目にしているもの、そして好ましくないと思っていることに対して立ち上がってプロテストする曲に仕上がっている。
➖古巣に戻った感想は?
Chuck D:フレイヴァー・フレイヴをハッピーにできてよかったよ。
➖どういう意味ですか?
Chuck D:フレイヴァー・フレイヴはスターだから、もっとデカい場面が必要なんだ。俺はインディペンデントでいるのが好きなんだけど、今回は(インディーとメジャーを) 組み合わせたやり方。そして、俺たちはDef Jamにとっても最重要アーティストだったから、やりとりするのは簡単だったよ。
➖新アルバムには、ラン・DMCからビースティー・ボーイズ、そしてジョージ・クリントンまでたくさんのレジェンドたちが参加しています。どのようにしてメンバーを集めたのでしょうか?
Chuck D:最近は、「オーケー、曲をまとめて作りたいから、メンバーを集めよう」と思ったらそれが実現してしまうんだ。ここで一緒に一曲作ったら、あそこでもコラボが実現した、みたいな。クエストラヴと一緒に「Fight The Power: Remix 2020」を作って、DJプレミアとも曲を作った。そうしたら、いろんな人と一緒に曲を作ることに繋がったんだ。自分が最初に作った曲のおかげで、Def Jamやラン・D M C、ビースティー・ボーイズらと繋がることができたから感謝しているし、それにDef Jam黎明期を支えたLLクール・Jにもお礼を言いたい。そして、彼らがいかに(PEの音楽に対して)感謝の気持ちを抱いているかを知ったときには仰天したものだよ。俺とBリアルのブラザーフッドを示したプロフェッツ・オブ・レイジにも感謝してる。Bリアルに「”Gird”というタイトルの曲を作らないか?」と聞いたら「すぐにでもやるよ」と返事をくれた。Bリアルとは、来年、プロフェッツ・オブ・レイジに次ぐ新たなグループを結成する予定で、DJロードも一緒にロックとラップ、それにアツい内容を詰め込んだグループにしたいと思ってる。だから、Bリアルは「イエー」って感じだったね。彼がセン・ドッグを繋げてくれて、フレイヴァー・フレイヴも乗っかってきて。後は、「アルバムの幕開けのために、何とかジョージ・クリントンを」と思っていたんだ。俺たちの音楽は、ジョージ・クリントンの「ファンク哲学」に達したと思ったからね。彼のファンク・サウンドだけではなく、ヴィジョンそのものが必要だと思ったんだ。彼はいつだって未来のことを表現してきたから。それに俺たちが言っている内容はすでにファンカデリックが表現してきたわけだから「コラボしない理由は無いだろ?」って感じだった。
➖タイトルにはどんな意味が込められていますか?
Chuck D:政府のトリックに気を付けろ、と人々に忠告しているんだ。あと、たくさんの人々がガジェットを使っているだろ?みんなガジェットに頼ってばかりだ。何でもかんでもね。アメリカの(大統領)選挙に至っても、みんなはガジェットに頼りっぱなし。俺は別の時代からきた人間だし、ガジェットに対して自制することもできる。でも、自分よりあとの世代の人間たちにとっては、ガジェットこそが全て、という感じで、(ガジェットが)彼らの存在そのものに限りなく近いモノになっている。だから、もしも携帯の電源が入らなくなってしまったら?しかも、それが政府の小細工だったら?と問いかけてるんだ。パニックになって、その状況に屈してしまうのではないか?だから、気を付けろ、賢くなれ、そして目を覚ますんだと、みんなに問うているんだ。もしもそんなことが起こった時のために、どんな準備をするんだ?って。
➖「Grid」という曲は非常にパワフルなメッセージを含んでいると思います。みんながガジェットを必要とする時代において、あなたにとってSNSとは一体何ですか?
Chuck D:ソーシャルメディアや携帯電話っていうのは そいつらに支配されないようにちゃん…と管理しておけ、と思うね。いつも人々に「これはオモチャか?それともただの道具か?」と聞いている。もしも、道具の一つ、もしくはコミュニケーションのためのギフトとして使っているなら、オモチャとしての側面は弱くなる。別に携帯電話をオモチャのように扱うなと言ってるわけじゃない。この携帯が、年齢を重ねていくプロセスまでをも決定してしまう。なぜなら、年寄りたちは電話を一つの目的でしか使わない。でも、5歳や10歳の子供は別の理由があって携帯電話を使ってる。「俺には必要ない、でもお前が使うならちゃんと管理しろよ」と言える強さが無いといけないと思ってる。なぜならそうやって管理しないと、自分が支配されてしまうからな。
➖ヒップホップ・コミュニティの若い世代についてどうお思いですか?とてもクリエイティヴだと思いますか?それとも、APPやSNSなどに中毒気味だとお感じですか?
Chuck D:若者は若者だよ。きっと、パフォーマンスしたりオーディエンスと繋がったりするための新しい方法を見つけていくだろうし。ちょっと寂しいのは、俺はいつだって若い世代に対してもっとライブするように勇気付けてきた。でもこのコロナ・ウイルスのせいで、スクリーン越しにライブをせねばならなくなってしまっただろ。そのせいで、将来的にアーティストが実際にオーディエンスの前でライブをすることを恐れてしまうんじゃないかと思っているんだ。すでに、今のアーティストはシャイなんだなと思うこともあって。
➖そう感じますか?
Chuck D:新人アーティストはシャイだし、間違ったことはしたくないと思っている。俺は彼らに「めちゃくちゃになっても大丈夫だ」って言うんだけど、みんなかなりナーバスになってしまうみたいなんだ。だから、余計に自分らしくやってやろう、という気持ちから遠ざかってしまう。それでもOKだから自信を持つことが必要だ。新しいことをやるときはいつだってめちゃくちゃになる。最初から最高のものが出来るなんてことはあり得ないし、乗り越えなきゃいけない局面だと思うよ。アメリカ国内のことで例えるとすると、車の運転みたいなものかな。初日からきちんと運転できるわけじゃ無い。自信をつけて、もっと練習しないといけない。水泳と似たようなものさ。ずっと泳ぎ続けたら、やがて得意になる。ライブのパフォーマンスについても同じことが言えるんだ。でも今の状況だと、「そんな努力はしなくていい、だってスクリーンの前でライブすればいいだけなんだから」って感じだろ。そうすると、ライブを経て身に付けていくスキルが奪われてしまう。でも、アートはアートだし、自分がやりたい方法で表現する権利がある。オーディエンスの前でライブをするときには1000%のスキルが求められる。だから、若いアーティストを勇気づけていきたいなと思うよ。何でも好きにすればいいけど、ライブは上手くをやらないといけないぞ、って。
➖かつて、あなたは ラップはブラック・アメリカンにとっての”CNNだ とおっしゃっ”ていました。今もその通りだとお感じですか?
Chuck D:ノー。その言葉はCNNを褒めすぎているからな。ヒップホップはワールドワイドな宗教的経験だ。文化的で宗教的な経験。だからその言葉よりも大きなものなんだ。CNNはたまたま人々に対して報じる機能を持ったガジェットみたいなモノだから。ヒップホップは、それ自体が独自に物事を明らかにしていく力を持っている。
➖私や日本のファンにとってはとても意味のある言葉だと思います。日本に滞在していた時の経験についても教えてください。1989年に最初のジャパンツアーを行ったと思いますが、その時の思い出は?
Chuck D:たくさんあるよ。でも、MAJOR FORCEのメンバーと知り合えたことや、高木完や故ECDらとともに素晴らしい関係性を構築できたことかな。それに、日本の文化がいかにブラック・ミュージックを受容しているかと言うことも楽しめたし、そこにはジャーナリズムがあった。当時のアメリカ以上に、日本でブラック・ミュージックが評価されていると感じたよ。だから、日本がヒップホップ・カルチャーを受け入れた上で歓迎してくれたこともとても嬉しかった。数えきれないくらい日本を訪れてライブをしているけど、その思い出にはいつだって素晴らしい時間と人々が埋め込まれているね。
➖PE、そしてチャック・Dとしての今後の予定を教えてください。他に同時進行中のプロジェクトなどはありますか?
Chuck D:俺がやっているのは、RapStationという世界で最も徹底的にヒップホップを扱っているラジオ局。rapstation.comでAPPも落とせる。10チャンネルあって、最もリスペクトされているのはPLANET EARTH PLANET RAPというチャンネル。日本の曲もたくさん掛けてるよ。それに、「…ANDYOUDONTSTOP!」って名前の自分の番組も毎週OAしているんだ。SpitSLAM Record Label Groupという俺のレーベルもあって、そこにPEのアルバムにも関わってくれているデイヴィッド・Cドック・スナイダーっていう最高のヤツがいるんだ。彼がエネミー・ラジオのアルバム『Loud is Not Enough』もプロデュースしてくれた。ジャヒーやPE2.0のメンツなんかと一緒にね。俺たちは最高の音楽を作って最高の作品をリリースすることに対してとても楽観的だし、今もインディペンデントでやってるぜ。PEの活動はメジャーのDef Jamでやっているから、俺は独自に自分の時間を使ってコラボなんかをやってるんだ。これは楽しい作業だよ。