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イギリス最注目ラッパーSlowthai(スロータイ)インタビュー。イギリスの労働者階級、アニメと声優、政治とアートについて語る。

 

Interview & Text: Kaz Skellington

 

 

1973年にニューヨーク州サウスブロンクスにて生まれたヒップホップ。ヒップホップは誕生以来、常に周りの社会と人々の関係を表現してきた音楽と言っても過言ではない。パブリック・エネミーのように、政治についてのメッセージを表現するアーティストも多く、その「伝える」精神は世界中に広まり、国境を超えて多くの人に共感と心の居場所をもたらしている。

 

そのなかで、アメリカ国外で最も注目されているラッパー/グライム・アーティストの一人がSlowthai(スロータイ)である。イギリスのノースハンプトン出身の彼は、労働者階級として育った自身のメッセージをアグレッシヴに表現しており、常に大きな話題を呼んでいる。自身の1stアルバム「Nothing Great About Britain」では「グレート・ブリテン」と呼ばれるイギリスの「グレート」さを風刺し、エリザベス女王を放送禁止用語で呼んだり、ライブではボリス・ジョンソン首相の人形の頭を持ちながら「F*ck Boris Johnson!」と叫んだりしており、イギリスの70年代パンクムーブメントの精神を現代で引き継いでいる存在であることが伝わってくる。

 

 

アルバム「Nothing Great About Britain」はメディアからも非常に高い評価を得ており、9位にチャートインしただけではなく、マーキュリー賞にもノミネートされている。Mura MasaやSkeptaとのコラボ以外にも、先日A$AP Rockyとのコラボ曲「Mazza」もリリースし、飛ぶ鳥を落とす勢いのSlowthaiであるが、2月5日に2ndアルバム「TYRON」をリリースすることを発表している。リリース前に、彼の人生やアーティストとしての理念を振り返ってみようと思う。

 

 

 

Slowthai Interview

 

➖日本ではSlowthaiのことを知らない人も多いかもしれないので、読者のためにどのような存在かを簡単に自己紹介して頂けると幸いです。

 

Slowthai:僕はスロータイだよ。多くの人は僕が議論を巻き起こす存在だと思ってる。僕は怒ってると同時に、とても愛に溢れてるんだ。色んなものをめちゃくちゃにして、破壊して、また生み出すのが好きな人だ。

 

 

➖ Slowthaiのライブなどを見てると、パンツ一丁で暴れていたりしますが、喋ったときとの印象は穏やかで全然違いますね。

 

Slowthai:まぁ今日は40分前ぐらいに起きたから、特に眠そうに話しているかも(笑)

 

 

➖Slowthaiはイギリスのノースハンプトンというところ出身ですが、どのような街だったのでしょうか?

 

Slowthai:結構ラフな環境だったよ。小さな町だったし、白人が大多数を占めている場所だった。だからあまりカルチャーというカルチャーがないけど、コミュニティーのスピリットはあった。行き止まりのような場所なんだ。ここに住んでいる多くの人は、この町で生涯を終える。あまり仕事の機会もなく、建設関係や労働者が多い。外に出る人は、大学に行く人か、稼いだ金を貯金して外に出る人たちだけだな。

 

 

➖町の名産品や、町を象徴するものってどんなものがありますか?

 

Slowthai:革の靴を作ることで知られてるな。Dr. Martensのヘッドクオーターがある。ノースハンプトンといったら革靴だね。革靴以外のものは、Slowthaiしかいないかも。

 

 

➖町の名産品は革靴か、Slowthaiか、って感じなのですね。

 

Slowthai:そうかもね(笑)でも徐々に進化していってるよ。アーティストも少しずつ出てきてるし、いろんなことを実験的にトライしている人たちも出てきている。

 

 

➖自身がノースハンプトンから出てきたアーティストのパイオニアというか、自身のおかげで町からさらにアーティストが出てくるようになったと思いますか?

 

Slowthai:「もっと自信を持てた」って言ってくれる人は多いね。でも僕も、上の世代の人たちが音楽をノースハンプトンでやってるのを見て、インスパイアされた側だから。彼らは音楽の道を諦めてしまったんだけど、彼らがやっていた音楽は外の世界に比べても同じぐらい良かったから、「小さい町出身だから音楽でやっていくのは無理だ」って思うのは嫌だったんだ。だから彼らがインスパイアしてくれたし、自分がやることによって、他の人たちが「可能だ」と思えたのはあると思う。まぁ本当のところはどうなのかわからないけど、そう言ってくれる人は多い。

 

 

 

 

➖どのようにして音楽の世界に入ったのでしょうか?

 

Slowthai:小さい頃、ブートレグのCDとかを売ってるレコード・ストアがノースハンプトンにあったんだ。その店をやってたのが、叔母の当時のボーイフレンドだったんだ。そこで面倒を見てもらっていて、店のなかでミックスを作ったり、DJセットをやったりしている人たちがいた。小さいときは、ガレージとかダンス・ミュージックをそこで聞いていた。僕の母親は割と若いから、モータウンとかソウルとかじゃなくて、割と新しめの音楽が流れてたと思う。

これ、多分誰にも言ったことないんだけど、実は昔バックストリート・ボーイズ好きだったんだよね(笑)。あれはテンション上がるよ。

 

 

➖わかります(笑)私もNSYNCとかいまだに聞いてます。あの時代のポップスは、良いメロディーが多いと思います。

 

Slowthai:そうだよね!もう一回聞いてみようかな(笑)しかもハーモナイズの仕方とかも良いよね。自分のライブで、ああいう歌とか踊りを急に出せたらいいな。

でもそれ以外では、色んな界隈の人たちから、色んな音楽を教えてもらっていたよ。例えばエモ・キッズとか、インディー・キッズとかもいるし、ヒップホップのヘッズとか、そうやって色んなグループ間を行き来して音楽を教わってた。

 

 

➖実際に当時聞いていたラッパーとかは誰だったのでしょうか?

 

Slowthai:僕の叔父がThe Diplomatsとかを流してたから好きだったな。米国のヒップホップだとG-Unit、エミネム、ノトーリアス・BIG、2Pacとかを聞いてたよ。あと自分のなかで大きかったのが、Ludacrisだね。

 

 

➖Ludacrisは当時まじで最高でしたよね!多分世代として、同じようなヒップホップを聞いて育ったように思えます。私も2000年代前半のヒップホップをリアルタイムで聞いて育ったので。

 

Slowthai:そうそう。当時のDMXとかRuff Rydersも全般的に好きだった。Ludacrisのビデオでめっちゃ好きなのがあって、曲名を思い出せないんだけど、Ludaの腕が大きくなってて、トイレを破壊しまくるやつ。

 

 

「Get Back」ですね!当時のイギリスの音楽だと、どのようなのを聞いていたのでしょうか?

Slowthai:Jehstとか、Klashnekof、Chester P、Terra Firmaとか聞いてたかな。あとはWiley、More Fire Crew、So Solid Crewとかのグライムももちろん聞いていたよ。

 

 

 

➖私は米国で育ち、普段米国のアーティストをインタビューすることが多いので、Slowthaiのようなイギリスのアーティストがどのような経験を経て「アーティスト」になったのかを知りたいです。Slowthaiはラッパーというより「アーティスト」を感じるので。

 

Slowthai:それを言ってもらえるのは嬉しいね。ありがとう。色んな人に「彼はラッパーだから」と言われるけど、自分はラッパーだけじゃないんだ。あのSupa Hot Fireの「I’m Not a Rapper」ってやつの気持ちになってくる(笑)

子供の頃の経験でいうと、小さい頃に弟が筋ジストロフィーで亡くなったんだ。当時、自分は感情のコントロールができなくて、アンガーマネジメント療法のためにピアノを習わせられていた。習得する忍耐がなかったし、フォーカスしてなかったから弾けるようにはならなかったけど。
でも当時、ちょうどグライムのムーブメントが生まれていたんだ。みんなで部屋とか校庭に集まって、披露をしていたけど、僕が当時自分のリリックを披露することはなかった。自分が書いていたのは、バトルのように友達をディスって盛り上がるようなリリックじゃなかったからね。

その時点で、なんとなく脳で「これがやりたいことかもな」と思っていたけど、小さい頃から「音楽で食っていくぞ!」ってわけでもなかったんだ。なんか小さい頃って、100個ぐらい色んなものに興味を持つフェーズがあると思うんだ。

段々育つにつれ、「変なもの」を見たり、聞いたりするのが好きなことに気がついた。小さい頃はドラゴンボールとかテレビゲームしか興味ないけど、段々そういった「変」だとされているアートに興味を持った。でも最初に恋に落ちたのはドラゴンボールのようなアニメとかだったな。

 

 

➖今でもアニメとかは見るのですか?

 

Slowthai: アニメとか漫画は大好きだね。昔は漫画が売ってる店がなかったから買えなかったんだけど、大人になってからハマったんだ。しかも僕は吹き替えで見れないんだ。オリジナルの声優とキャラの感情をそのまま感じたいから、絶対に字幕で見る。感情が大切なんだ。

 

 

➖日本には来たことありますか?

 

Slowthai:一番行ってみたいところなんだけど、まだ行ったことないんだよね。前回のロックダウンが終わるときに航空券を見てたんだけど、多分逆に帰国できなくなりそうだなって思って、諦めた。ラーメンとか和牛も食べたい。東京に行って、あの雰囲気を取り入れたい。「Enter the Void」って見たことある?

 

 

➖ないです。アニメですか?

 

Slowthai:いや、東京を舞台として変な映画なんだけど、とてもアーティスティックで、面白い観点で描かれてるんだ。

 

 

 

➖面白そうですね!絶対チェックします!アニメとかが最初の恋だったSlowthaiが、「音楽でやっていこう」と思ったのはいつだったのですか?

 

Slowthai:多分16歳ぐらいのときかな。ちょうどタイラー・ザ・クリエイターが「Bastard」をリリースしたときぐらいだったと思う。僕は学生時代も、どこに行っても浮いているというか、馴染めないやつだった。でもタイラーが出てきたとき、「誰かに認められるために合わせるのではなく、自分自身でいていいんだ」と気がつくことができたんだ。「Bastard」が出たとき、ネットに詳しい従兄弟が聞かせてくれたんだ。いつも色々インターネットに見つけた変なものを見せてくれて、「これはヤバいな…!」と盛り上がっていた。そんな彼が今のマネージャーなんだけどね。

でも最初は馬鹿みたいなことをやって金を稼ごうとしていたから、全然音楽にフォーカスできてなくて、21歳ぐらいのときに、本気で音楽をやろうと思ったんだ。他の全てのことの優先度が下がって、音楽をやることが一番重要なことになった。「やりたくないことやって、周りと同じことをやるだけじゃなくて、人生にはもっとあるはずだ」と思ったんだ。

 

 

➖わかります。「ミュージシャン」だけではなくて、「アーティスト」な人たちは、そのような経験をしている人が多いのではないかなと思います。Slowthaiに関しては、音楽を聞くと政治であったり、怒りであったり、「表現」をしていることが伝わってくるのですが、実際にこうやって話してみると、とても穏やかで楽しげな人という印象があります。そのギャップがあるなかで、作品を作る上での理念などはありますか?

 

Slowthai:とにかく自分にとっての「リアル」をそのまま出すことだけなんじゃないかな。小さい頃、自分がどう思っているかを、適切な形で人に伝えることができなかったんだ。だから、こうやって「表現」として落とし込むしか言いたいことを言えなかったり、自分で自分が考えていることを理解できなかったりする。自分にとってのセラピーなんだ。自分の感情を人に伝えるのが苦手だけど、音楽だと自分がどう思っているか言える。音楽が唯一、自分が思っていることを言っていいセーフな場所なんだと思う。

 

 

➖音楽というかアート作品を作る美しさはそういうところだと思います。だからこそ、作品を見たり聞いたりした、今まで全く違う経験してきた人たちが、作者と共鳴することができる。私もSlowthaiと違う国や環境で育った人ですが、Slowthaiの作品を聞くと共感できることが多いです。

 

Slowthai:どんな経験をしてきても、共鳴できると思うんだ。全く違う人生を歩んでいても、近いことを感じていたり、似たような経験をしていたりすると思うんだ。例えその経験が一瞬だったとしても。だから、素晴らしいアーティストの表現は、あまり多くを語らなくても、伝わってくる。昨日ちょうど、こんな会話をタイラー・ザ・クリエイターとしていて、言葉で伝わるってよりは、メロディや込められた感情で伝えるって感じだと思うんだ。

誰かが「これがクソだ!」って評価したアルバムがあったとしても、その作品が他の子どもにとって世界の全てである可能性もある。

 

 

➖それを聞くと、Slowthaiがなぜアニメを吹き替えで見たくないか、よりわかった気がします。言い方やデリバリーに込められた感情が伝わるという意味では、音楽と同じだと思います。

 

Slowthai:日本語はわからないけど、聞いていて日本語は、舌からとても強く飛び出す感じがするんだ。バチッとくる感じがある。それは吹き替えでは再現できないと思う。

 

 

➖Slowthaiの音楽は、政治的なメッセージとかも多くて、なんというかRage Against the Machineのような気持ちも伝わってくるのですが、元々ずっとそのような表現をしていたのですか?

 

Slowthai:多分ある意味では、最初からこういう政治的な内容をラップしていた気がする。労働者階級として生きてきて、あまり多くのものを持っていなくて、誰からもリスペクトされていないと感じて育ったから。その環境のなかで、小さい頃から新聞とかニュースを見て、社会の成り立ちや政治を知ると、メンタルに悪影響がある。そういうことに対してずっと怒ったりしていたし、昔からそういう感情があったと思う。でも大人になって、政治や社会について理解をするにつれ、もっと明快にそういうトピックについて話せるようになった。

でも政治的な内容がないといけないってわけでもないし、政治的な内容だけをラップする人にはなりたくない。ただ自分と周りの人たちの気持ちを表現したいだけなんだ。

 

 

 

 

➖例えば前作「Nothing Great About Britain」でも、政治的なメッセージが強いなか、私が一番グッと来た曲が「Northhampton’s Child」でした。この楽曲でSlowthaiは、自分を育ててくれた母親に対しての想いをラップしています。前作と次作「TYRON」では、どのように内容が変わりましたでしょうか?

 

Slowthai:最初のアルバム「Nothing Great About Britain」は、自分がどのような人生を生きてきたかを紹介した作品だ。どんな環境で生きてきて、自分がどのようにして「自分」になったかを紹介した。 このアルバムのメッセージは、修辞的な質問で「あなたが住む場所の素晴らしさはなんですか?」とリスナーに問いかけたものなんだ。タイトルは「イギリスに素晴らしいものはない」という意味になっているけど、イギリスだけじゃなくて、自分が住んでいる場所で考えてみてほしい。

世界のどこに行っても、その土地を素晴らしい場所にするのは、「人」と「コミュニティー」の存在だ。そういう意味で政治であったり、社会保険であったり、国としての歴史について語った。

 

その一方で次作「TYRON」は、人々のメンタルヘルスであったり、自分の多面性であったりをラップしている。みんな複数の側面を持っている。その一つが、人前にいるときや、知らない人たちに見せる側面だ。そしてその側面しか見たことがない人たちは、自分たちが信じたいことやインターネットに出ていることしか信じない。人に対して、そのような理想像を勝手に抱いているんだ。それだけじゃなくて、家族や親しい人たちと一緒にいるとき、または一人でいるときの「自分」が人には存在する。だからこのアルバムは、自分の本名である「TYRON」というタイトルなんだ。自分が実際にどのような人物なのかを表現した作品であり、他人が押し付ける理想像ではない。表に出ている情報だけで、人がいかに他人を判断しているか、というのが出ている作品だと思う。

 

 

 

➖Slowthaiは「人に判断される」というテーマの曲も多くて、他人が見た像じゃなくて「自分」という存在を表現する内容が多いので、そのようなところに共感するリスナーも多いと思います。ありがとうございました!

 

Slowthai:ありがとう!日本に遊びに行けるようになったら遊ぼう!

 

 

インタビューを通して常に笑顔であったSlowthaiであるが、この会話を通して彼のトリッピーな映像や、Sex Pistolsを彷彿とさせるアグレッシヴさがどのようなバックグラウンドから来ているのかをより理解することができた。ケンドリック・ラマーが「Good Kid, m.A.A.d City」で身の回りの社会を表現し、「To Pimp A Butterfly」で社会と自身の中身を表現したように、Slowthaiも政治的であった1stに続き、社会のなかの「自分」をどのように2ndアルバム「TYRON」で表現するのかが楽しみである。2月5日にリリースされるまでは、1stアルバム「Nothing Great About Britain」を下記で視聴することができる。

 

 

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