「今のラップは昔と比べてレベルが下がった」という発言を聞いたことがある人もいるだろう。特に90年代に活躍したアーティストなどが、若手ラッパーたちのスキルを疑問視している場面は頻繁に見る。単純にスタイルやサウンドの変化によって起こる「ラップ」に対する認識の違いという理由もあるが、誰もがラップをするようになったということもあり、人々のラップのスキルに対する考え方が変わったとJay-Z(ジェイ・Z)は分析しているようだ。
2013年に、ラジオ番組The Breakfast Clubのインタビューに応じたJay-Z。彼は「今のラッパーは、昔と響きが違うし、曲の感情も違うし、非常に簡単でシンプルなラップが多いと思う。Jayはどう思う?」という質問に対し、以下のように答えた。
「今のヒップホップも良い音楽だよ。どの時代でも、誰かが成功をすると皆それを真似をするんだ。昔は、ラップをすることが好きでやってる人が、”ラッパー”として活動をしていた。でも今は市場規模が大きくなり、今までラップをしようと思ってなかった人たちも、ハッスルのためにラップをしている。例えばCEOのような”ラッパー”じゃない人たちもビジネスのためにラップをするようになった。」
元々は、ラップをすることを愛しており、ラップというアートを追求する熱意を持った者たちが「ラッパー」として活動していたが、市場が大きくなり、ビジネスとしてラップをする人たちが増えたと語ったJay-Z。誰かに対するディスリスペクトとかじゃないし、それが悪いということでもない、と前置きした上で、彼はDiddyを例として挙げた。Diddyは自身が立ち上げたレーベルBad Boy Entertainmentにて、The Notorious B.I.G(ノトーリアス・B.I.G.)を輩出したビジネスマンである。ラッパーではない彼は、そんなビギーから勧められてラップをするようになったのだ。
「彼は元々ラッパーではなかったが、ビギーに『ラップしなよ』って言われて、自身でデビューして700万枚の売り上げを記録したんだ。今はもっと多いかもしれない。彼はそれまでラップをしたこともなかったけど、Diddyというキャラクター/アーティストとして成功したんだ。だから彼の成功例を真似し、ラッパーではないけど、金を稼ぐ手段としてラップをする人たちが増えたというのもある。今でも良い音楽はあるよ、今はそれを自分でディグって、探し当てる必要があるんだ。」
ラップを追求する「ラッパー」ではなく、ラップをビジネスの手段としてやるラッパーの数が増えたと彼は言っているのだろう。今でも良い音楽はあるが、自分から探さなくてはいけなくなったと語ったJay-Z。「リソースがない状態から、誰でもスタートできる」というのは、ヒップホップの成り立ちを考えると、ある意味非常にヒップホップ的であり、そのような要素もあり、ヒップホップは今でも世界中で最先端の音楽として広まっているのだろう。今の自粛要請は、そんな新しいことをスタートしてみたり、良い音楽を探したりする良い機会と取ることもできるのではないだろうか。