メンタルヘルス的な観点や、鬱症状について、自分の経験を語るアーティストは多い。Kendrick Lamar(ケンドリック・ラマー)もその一人で、彼が2015年にリリースしたアルバム「To Pimp A Butterfly」は、とことん自分と社会と向き合った作品であった。特に楽曲「u」は、リアルな鬱症状や自己嫌悪がテーマになっており、ケンドリック本人も「今まで一番書くのが難しい曲だった」と語っていた。そんな楽曲について、リリース当時のMTVのインタビューを紹介したい。こちらのインタビューでは、彼の知り合いや友人も、ケンドリックが抱えているものに気がつかなかったこと、さらにケンドリックがどのようにして向き合ったか?ということがわかる。
関連記事: Kid Cudiが心理学の教科書の一部となる。「鬱/自殺願望を乗り越えるために」公開した手紙が引用
はじめに、インタビュアーのRob Markmanはケンドリックに対し「俺らは友人で、メッセージでもやり取りをする仲だ。あなたを知っているにも関わらず、あなたがあの曲の中で、鬱症状や希死念慮について語ったことに驚いた。これは本当なのか?と思った。あの内容は何が元になっているの?」と質問しており、今までケンドリックと付き合ってきたなかで、そのような側面が見えなかったため驚いたと説明している。
ケンドリックはこちらの質問に対し、以下のように答えた。
「あの曲は過去の経験だけではなくて、俺の人生そのものが元になっていると思う。good kid, m.A.A.d. cityにて語った状況も含まれているし、人生の全てがこの曲の元になっている。この曲以上に自分の弱さや、ネガティヴな面を見せた楽曲はないよ。コンプトン出身という経験も元になっている。」
ケンドリックは、人生そのものが「u」の元となっていると説明した。「u」は、自己愛や自分の様々な面を擁する内容の「i」のコントラストとして、自己嫌悪や周りの環境に対しての罪悪感を語っている。自分が世界を股にかけて音楽をやっている間に、自身の妹が10代で妊娠したことや、友人が何人も殺害されたことについて「10万人に自分のメッセージを説いているのに、彼女には届かなかった/お前はリーダーなんかじゃない/お前は友達なんかじゃない、友達は利益のためにコンプトンを離れたりしない、親友を置いていったりしない」という旨のラップをしており、自分自身を非難している。
ケンドリックは続けて、ツアー中に感じた想いについても語っている。
「地元や家族が抱えている問題に対して、自分は何もできることがなく、何もコントロールできない状態で、神の手に委ねるしかない。それを受け入れることができなかった。それが続くと、自分が正気でいられるかどうか、わからなくなってくる。それができなければ、アーティストはこのようにダメになってしまう。そういうことが起こっていて…、俺のセラピーと治療は、音楽を作って表現することだった。それでこの曲が生まれた。このアルバムには、この曲が絶対に必要だった。」
正気でいられるかどうかの境目の中で、セラピーとして音楽にて自分の気持を表現する。そのようにして、今まで人にさらけ出せなかった自分自身の吐き出した「u」が生まれたと語るケンドリック。しかし最終的には、それを表現をした上で自分を擁して、自己愛が重要になるとケンドリックは話している。
アルバムの全体的なテーマはリーダーシップなんだ。良くも悪くも、どのようにこの影響力を使うことが出来るのか?金と知名度があって、それをどのように使うことが出来る?ネガティブに表現するのか、ポジティブに表現できるのか?俺にとってのポジティブは、「u」で経験したことを示した上で、「i」に戻ってきて「それでも最後には自分を愛している」と伝えることだった。
このようにケンドリックは、メンタルヘルス的な観点でも、多くのファンと共鳴し、救ってきた存在なのであろう。またインタビュアーのRob Markmanが「u」の内容に驚いたと語ったように、そのような側面を見せていない人でも、本人がどのような問題を抱えているかは、他人からはわからないことが多い。他人が抱えるものを一方的に判断するべきではなく、さらにそのような話題をセラピーとして話すことができる、コミュニケーションを取りやすい環境や空気を作るのが重要ということが伝わってくるインタビューであった。
いのちの相談窓口のリンクなどが地域ごとにまとめられたウェブサイトはこちらからチェックすることができる。