text: SHINTARO KUROKAWA
1996年、ジョージア州アトランタに生まれたPlayboi Carti(プレイボーイ・カルティ)。幼少期からヒップホップの街であるアトランタで過ごし、地元のヒーローたちを間近にみながら音楽で大成することを夢見ていたカルティは、ドラッグ・ハッスルや悪事に手を染めていく周囲からは距離を置き、地元の企業やH&Mのショップ・スタッフをしながら音楽活動へとのめり込む。徐々に地元のシーンで頭角を現していったカルティは地元アトランタで名の知れたアンダーグラウンド・レーベル、Awful recordsを主宰するEtherealやKey!らと共に楽曲制作を開始し、ローカルでの地位を築いていく。当時のアトランタにおけるローカル・アーティストのスタイルや楽曲は、独創性かつ実験的な物が多く、商業的ではないがオリジナリティを追求する作品群はエッジが効いたものばかりで多方面から注目されていた頃。多感な時期、そんな場所で切磋琢磨したからこそ、カルティの柔軟性が養われたといえそうだ。
そして2015年、カルティはアトランタからニューヨークへと拠点を移す。そのとき、既にカルティの名前はSoundCloud上で知られるところでもあり、A$APロッキー率いるA$AP MOBの面々とも早々に合流する。この交流は、当時、カルティのタレント性や自身が作ろうとするアートの形成に大きく作用した。これまで主にセルフメイドで作品を作ってきたカルティだが、アーティストとして歩んでいくには、そのピースをさらに大きなものへと昇華させる必要があったのだ。結果、2016年にA$APモブが発表したアルバム『Cozy Tapes Vol. 1: Friends』にフィーチャーされただけではなく、同じ年にInterscope Recordsとディールを結ぶことになる。その後の活躍は周知の通りだ。
そして、同時に起こった大きな変化といえば、ファッション・シーンへより深く切り込んでいったこと。恵まれたルックスを生かしたファッション・シーンへの参加は自然なことで、A$APチームの橋渡しの元、カルティは様々なプロジェクトへ参加している。最も大きなインパクトを与えたのは、カニエ・ウエストが手がけるYeezy Seasonのランウェイにモデルとして参加したことだろう。カルティはSeason 4と5にわたってモデルを務め、その存在感をアピールした。他、FADER MAGAZINEの表紙や、今をときめくヴァージル・アブローが手がけるブランド、Off-Whiteのランウェイ、さらにそのヴァージルが新たに責任者として起用された新生Louis Vuittonのコレクション・ランウェイにおいてもモデル起用されるなど、様々な場所でカルティの顔を見ることになる。
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華々しい業界での活動歴を支えているのは走攻守(音楽、ファッション、創造性)揃ったカルティのバランス感覚にある。例えばファッション面において、誤解を恐れずにいえば彼にずば抜けた個性があるようには思えない。むしろ、一般的なファッション・フリークの青年といった程度のイメージだ。しかし、一度衣服を纏ってしまえばそのイメージが一変する。何を着ても似合ってしまう、そして、どんな服も着こなせるカルティのスキルは群を抜いており、周りのどのアーティストも、このセンスには敵わないだけではなく、逆にプロのモデルを前にしたとしても、これまでに培ったカルティの個性はそうそう埋もれるものではないと思う。ルックスの良さはもちろんのこと、アーティストとしてその“良さ”をどう使うかが大事、ということを強く感じさせられる。だからこそ、ハイ・ファッションからストリート・ブランドのモデル、雑誌のカバーなど、誰でもできるものではない企画に飄々と参加してやってのけるのは、ものすごい能力だ。
普段の彼のスタイルを見ていても、その抜きんでたセンスを感じられる瞬間は非常に多い。カルティといえば、周りの個性的な仲間たちが作るファッション・アイテムを着ることが多く見受けられるのだが、アイテムが格段にフィットしているだけではなく、着こなしの幅も大きい。パンク、バイカー、テックウェア、ゴシックetc…。パンチの効いたアイテムも、彼にかかれば普段から着ているデイリーウェアへとその雰囲気が変化する。
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そんな彼のポテンシャルは、最新シングルの「@MEH」でもしっかりと具現化されている。シンプルでダークなスタジオでひたすらムーブし、荒々しいモノクローム・フォトを各所に散りばめられたミュージック・ビデオはソリッドで余計なものを排除しながらもしっかりと世界観が作られていてとてもクールだ。着こなしているのはRick Owensのジャンプ・スーツやジャケット、Ann Demeulemeesterのレースアップブーツで、インダストリアルでパンキッシュな姿を披露している。
2010年代を象徴するティーンエイジ・ヴァイブス溢れる姿勢は、同じ時代を走るリル・ウーズィー・ヴァートや先輩格のA$APロッキーたちと共にシーンに大きな渦を作っている。
悲観な空気や既存のルール、小難しいことは気にしないスタイル。ヒップホップには先人の偉業を無視できない風潮がある中、今生きているこの時間をどう形にしていくか、そしてどんな風に自身のクールネスを保つか、それを歌に詰め込んでいるのがカルティのスタイルだ。そんなカルティの次の一手が楽しみで仕方がない。