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【レビュー】レブロン・ジェームズ主演『スペース・プレイヤーズ』 サントラで表現された「努力、栄光、尊重」を分析。豪華ヒップホップアーティストが参加

Text: Kaz Skellington

 

NBA史上最強のプレイヤーの一人である、レブロン・ジェームズ製作・主演の映画『スペース・プレイヤーズ』。1996年に公開されたバスケの神様、マイケル・ジョーダン主演の『スペース・ジャム』の続編となる今作であるが、ゲーム開発の夢をもつ息子ドムと父レブロンが、あらゆる映画のキャラクターが存在するバーチャル・ワールドに迷い込み、eスポーツバスケの試合をするという内容となっている。ドン・チードルやゼンデイヤも出演することが話題になっていたが、前作『スペース・ジャム』と同じくサウンドトラックにも豪華アーティストが参加している。映画の内容を踏まえた上で、ネタバレにならない程度にサウンドトラック『Space Jam: A New Legacy』のレビューをしたい。

 

試写会で映画を見る前にも、もちろんサウンドトラックは聞いていたが、映画『スペース・プレイヤーズ』を見る前と後だと、サウンドトラックの印象が違うことに気がついた。このサウンドトラックは、単に「カッコいい曲」を集めたものではなく、映画のストーリーでフィーチャーされている「努力」「勝負」「栄光」「尊重と信頼」というテーマのどれかしらに当てはまる作品となっているのだ。映画を見る以前は、こちらの「栄光」と「勝負」ばかりに耳が行っていたが、レブロンと息子、さらにレブロンとルーニー・テューンズのキャラクターたちの関係性を目の当たりにした結果、「個の尊重」と「努力」いう要素が印象に強く残るようになった。

 

1曲目であり、先行配信されていたリル・ベイビーと、ゴスペルレジェンドのカーク・フランクリンのコラボ「We Win」。こちらはまさにレブロンの「努力」が「栄光」に繋がったシーンを表現している曲である。映画は幼き頃のレブロンから始まる。彼は友人にもらったゲームボーイで遊んでいたところ、バスケのコーチにゲームボーイを取り上げられてしまうのだ。レブロンに天賦の才を感じていたコーチは、「偉大になるためには、努力を注ぎ込まないといけない」とレブロンに伝え、後にその言葉はレブロンの座右の銘となる。「自分にはバスケしかなかった」という生い立ちから、努力を積み重ねて偉大なプレイヤーになったという映画の冒頭で、「We Win」が流れる。偉大なプレイヤーになった自分と、息子を重ね合わせてしまう、自身の「栄光」が故に犠牲も払ってきたレブロンにピッタリな曲である。

 





Lot of time, I was in need of work
Talked to God like “I need this to work”
Jumped the line like I needed it first
But I was bein’ selfish

時間費やし、努力する必要があった
神に「成功しないといけないんだ」と話した
自分が一番を掴むために、列を飛ばした
自分勝手だった。

このように、リル・ベイビーのリリックと映画内のレブロンの心情が非常にマッチしており、「努力」と「栄光」の裏にあった犠牲という二面性が上手く描かれている。しかし「We Win(みんなで勝つ)」というように、自分と周りを鼓舞してくれるパワフルな曲だ。

 

2曲目の24kゴールデンとリル・ウェインのコラボ「Control The World」は、どれだけ上手く行っても、自分のことを疑ってしまう精神が表現されているように思える。サビの「自分のこともコントロールできないのに、世界をコントロールできるはずがない」というリリックから、いくら偉大になったレブロンでも、自分の行いから周りを傷つけてしまうことがあるという映画の設定が思い浮かぶ。身の回りの「世界(家族)」との関係も思い通りにいかず、自分の行いが正しかったのか疑問に持つレブロンの心を表しているとも言えるだろう。彼は息子やルーニー・テューンズのキャラとの関係を通して、自分の思い通りにしようとするのではなく、みんなの「なりたい自分」を尊重することを学ぶのだ。

 





 

前作「スペース・ジャム」のサウンドトラックにも参加していたSalt-N-Pepaが参加した4曲目「Hoops」、そしてリル・ウージー・ヴァート「Pump Up The Jam」は勝負に向けての高揚感、自信を高めるような楽曲となっている。このサウンドトラックに多いのは、もちろん「勝負」の熱さを表した楽曲である。特にLil TeccaとAmineの「Gametime」、そしてブロックハンプトンの「MVP」は、まさに「これから試合をする」というときに聞きたい楽曲だ。「MVP」は、NBAの試合でも頻繁に流れるKris Krossのヒット曲「Jump」をサンプリングしており、まさに「ジャンプ」したくなる楽曲だ。

 









ちなみにKris Krossの「Jump」は、オハイオ・プレイヤーズの「Funky Worm(1972)」のアイコニックなシンセと、Honey Drippersの「Impeach The President(1973)」のドラムをサンプリングしており、3世代に渡るサンプリングが行われている。

 

今作は「バーチャル」というテーマがあるため、前作のR&B/ソウル色が強いサウンドトラックと違い、シンセのフレーズが印象的なビートが多い。昔ながらのルーニー・テューンズに、近未来の「バーチャル」をかけ合わせたように、サウンドトラックも昔ながらのオーセンティックなヒップホップと、未来的なサウンドが融合した作品となっている。映画のラストでは現実に戻り、息子が本当にやりたいゲーム制作を応援するようになったレブロン。その「生」の感情を表すように、Leon Bridgesの「My Guy」が流れる。友情と愛、そしてその愛する人を尊重する重要性をテーマにしたエンディングにピッタリな曲であろう。

 

レブロン・ジェームズという「偉大」な人物が、息子とルーニー・テューンズと深く関わり、成長していくストーリー。サウンドトラックでも、映画で描かれている「努力」「勝負」「栄光」「尊重と信頼」が表現されており、ストーリーを紡ぐ「アルバム」としても聴き応えのあるものになっている。もちろんルーニー・テューンズのキャラクターたちが魅せるルーニーな世界、さらには『マトリックス』、『ハリー・ポッター』、『マッド・マックス』、『ワンダー・ウーマン』などのクロスオーバー欲張りセットも見ていて非常に楽しいので、要チェックである。

 

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