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【初の全米1位】Juice WRLD最新作『Death Race for Love』日本最速解説!彼が支持される理由を考察

 

 

Text: Kaz Skellington (Playatuner)

 

2018年に「Lucid Dreams」をリリースし、一躍トップアーティストの仲間入りを果たしたJuice WRLD(ジュース・ワールド)。インタースコープ・レコードと3億円以上の金額で契約し、デビュー・アルバム「Goodbye & Good Riddance」もビルボード・チャート6位を記録した若き才能の持ち主だ。2018年の10月にはHIP HOP DNA Live Vol.1で来日を果たし、「Lucid Dreams」を二回も披露するというサービス精神を見せた。Futureとのコラボ・ミックステープ「Future & Juice Wrld Present… Wrld on Drugs」もリリースし、勢いが止まらないJuice WRLDであるが、そんな勢いに拍車をかけるような形でこの度2019年3月8日に、2ndアルバムとなる「Death Race for Love」をリリースした。

 

こちらのアルバムは「Lucid Dreams」をプロデュースしたNick Miraが手がけたリード・シングル「Robbery」や、Purpsがプロデュースした2ndシングル「Hear Me Calling」が収録されており、前作と同じように「愛、失恋、ドラッグ」などのテーマがメインで描かれている。スムーズな声でリスナーを魅了するR&BシンガーBrent Faiyazがインタールードにゲスト参加しており、その他にもCleverとYoung Thugがヴァースを披露している。

 

この作品で初のビルボード1位を獲得したJuice WRLDであるが、他のいわゆる「エモラップ」と呼ばれる同世代のアーティストたちとの圧倒的な違いはどこにあるのだろうか?この「最速ライナー・ノーツ」と第された記事では、アルバムの解説をしながら、Juice WRLDという人物像に迫りたい。

 

私はJuice WRLD初来日のときに、インタビューをさせて頂いたのだが、そこで他の同世代の若いアーティストとの違いとして感じたことがいくつかあった。一つは彼が今まで吸収してきた音楽の幅広さだ。もちろんエモやポップ・パンクから影響を受けているアーティストは近年非常に多いが、彼の場合はFallout Boyなどのポップ・パンクだけではなく、Senses Fail、3 Inches of Blood、オジー・オズボーンという音楽も聴いて育ったのだ。もちろんOutKastなどのヒップホップもこよなく愛し、「流行っているからエモ・ラップをする」というスタンスではなく、自分の血として流れている音楽を表現としてアウトプットしていることがわかる。彼はスケートボードのゲームである「Tony Hawk」シリーズを幼少期からプレイしていたことにより、サウンド・トラックに収録されている様々な音楽に触れることができたとインタビューでも語っていた。今回のアルバム「Death Race For Love」のアルバム・ジャケットもプレイステーションのゲーム「Twisted Metal」から影響受けたものであり、彼の「吸収力」というものを垣間見ることができる。

 

その幅広い音楽を吸収してきたという彼の経験は、サウンドだけではなく、音楽的なスキルとしても身についている。彼は実際に「MC」としてのスキルも身につけており、単にメロディを歌うだけではなく、ウィットに富んだ言葉遊びを披露しながらも「エモ・ラップ」というカテゴリーに落とし込むことができているのだ。フリースタイル・ラッパーとしても、他の「エモ・ラップ」をやっているラッパーたちとはレベルの違うスキルを持っているJuice WRLDであるが、今回のアルバムも全てフリースタイルだと本人は語っている。

 

多くのアーティストから影響を受け、それを自身の世代の音楽に落とし込んでいる彼であるが、今回のアルバムではエミネムの名曲である「Stan」に影響されたとも言える狂気も垣間見ることができる(後ほど解説)。リリックも書かずに、たった4日でレコーディングを終えたこの「Death Race for Love」であるが、彼は上記の影響を踏まえた上で、一体どのようなことを語っているのだろうか?印象に残った曲を簡単に解説をしたいと思う。

 

アルバムのオープナーである「Empty」では、「Goodbye & Good Riddance」で作り上げたブループリントをそのまま使用している。「I problem solve with styrofoam(発泡スチロールのカップで問題を解決する)」という歌詞からわかるように、自分が抱える問題をリーン(ドラッグ)で和らげるテーマである。現在は摂取を辞めたと語るJuice WRLDであるが、ドラッグで痛みを和らげようとした経験を歌い、そのようなことをしても自分の心が「Empty(空っぽ)」であったことを示している。以前の成功パターンであるテーマをアルバムの1曲目に持ってくることにより、従来のファンの心を掴んでいる。

 

2曲目の「Maze」も今までのJuice WRLDと同じく「ドラッグで心の痛みを和らげようとするが、抜け出せない迷路に囚われる」というテーマとなっているが、フリースタイルMCとして培った言葉遊びは活きている。特に「I took my demons into the bank of life and I made the biggest deposit. Without drugs, I’m losing my logic, these pills and my Pro Tools still got logic」というラインが印象的だ。「自分の中に潜む悪魔を人生の銀行に連れて行き、それは最も大きな預金となった。ドラッグがないと自分のロジックは保てない。この錠剤とプロツールがなくてもLOGICは持っている」という意味であるが、ドラッグがないと「ロジック(論理的思考)」が保てないが、錠剤とプロツールがなくても「LOGIC(音楽制作ソフト)」はまだある、という言葉遊びとなっている。プロツールも有名な音楽制作ソフトであり、ドラッグとプロツールがなくてもまだ「ロジック」があるという二重の意味を披露している。

 

「HeMotions」では、先程の「Maze」にも出てきた「自身の心に潜む悪魔」を認識した上で、人生を生きていく決意を読み取ることができる。以前と違う点としては、アグレッシブな内容もあり、「If I can’t make her smile, I’ma be acting wild. She got a new man, I’m gon’ pull up on him and shoot him down(もし彼女を笑顔にできないのであれば、俺はワイルドになる。彼女が新しい男を見つけたとしたら、俺は彼を銃撃する)」というリリックも披露している。自分の女性に対する想い、そして嫉妬からくるアグレッシブ/ネガティブな感情を踏まえた上で、タイトルも「Emotion(感情)」と「He(彼)Motion(モーション)」をかけているのかもしれない。

 

22曲が収録されている当アルバムであるが、そのなかでも特に印象的なのがBrent Faiyazが歌うインタールード「Demonz」だ。Brent FaiyazはGoldLinkのグラミーノミネート曲「Crew」にも参加しているが、当初「Demonz」はBrent自身の楽曲として使用されるはずだったらしい。Brentのマネージャー経由で、Juice WRLDのA&Rの手に渡ったことがきっかけで、採用されることになったと語られており、人間誰しもが抱えるネガティブな感情を「心の悪魔と戦う」という形で表現した楽曲である。このインタールード以前の流れ的にも適切なテーマなため、Juice WRLDはこの楽曲を自身のアルバムに入れる決断に至ったようだ。「Don’t let it in, it likes you(それを中に入れるな、あなたを気に入っている)」という歌詞からも、自分のダークな部分が心に浸透しないように戦う人の心情が描かれていることがわかる。

 

そんなダークな感情として印象に残った楽曲が、最後の「Make Believe」だ。こちらの楽曲はエミネムの「Stan」のオマージュであり、「自分の元を離れようとしている女性を殺め、ゴミ箱に捨てた」という過激なサビとなっている。実際に「Stan」の名前も登場し、「どこにいくんだ?俺はStanを聴いて橋に車を向かわせる」という旨を歌うパートもある。こちらの楽曲はPharcydeの名曲「Runnin’」と同じく、Stan GetzとLuiz Bonfáの「Saudade Vem Correndo」のサンプルを使用しており、そちらの意味でも印象的な曲である。

 

「愛」に対してネガティブな感情を歌うことが多いJuice WRLDであるが、カリビアン風味の「Hear Me Calling」では、現在の恋人について歌っており、彼の若さ溢れる恋愛観を読み取ることができる。また「Desire」でも「丘の上であなたの名前を叫び、全世界にあなたが俺のことを愛していることを知らせる。銀河にあなたの名前を叫び、全宇宙に俺も同じ気持ちだと伝える」という歌詞を歌っており、失恋以外の恋愛経験も赤裸々に語るを彼を聴くことができる。

 

そんなJuice WRLD自身が一番気に入っている楽曲が「She’s the One」だということが語られている。私も個人的に一番好きな楽曲であるが、このビートはKehlaniに提供するために2015年に作ったものだとプロデューサーのHit-Boyは語っている。「彼女が自分にとっての唯一の静穏だ」と当曲で歌っているが、このように「Death Race For Love」は自身のダークな部分を表現した楽曲と、愛を素直に語った楽曲が混在している。このアルバムを通して、「愛」というものが時折生む「歪んだ感情」の不気味さ、そして若きアーティストが愛に執着する姿を見ることができる。

 

多くの楽曲は今までのJuice WRLDと同じようなテーマとなっているが、それはもちろんリリックを書かない瞬発力からくるものでもあろう。プロデューサーとして参加したRvssianはRolling Stone誌にて「Juiceは音楽を再生して、5秒もたたないうちにアドリブでレコーディングを始めるんだ。しかもこれは朝の4時とか5時とかの話だ。一つの楽曲をレコーディング終わったら、次のやつをすぐにやりはじめる。彼が実際に歌詞を書いているのは見たことがない」と語っており、Hit-Boyも「フリースタイルをしているときにレパートリーがなくなって止まるラッパーがほとんどだと思うけど、Juiceはまじで止まらないんだ」と明かしている。リリックを書かないことにより、自分がその都度感じている等身大の「生の気持ち」を赤裸々に語ることができているのだろう。もちろんその手法では、同じような内容が多くなったり、深く入り組んだ構成のアルバムは作れないかも知れないが、彼はその必要すらないと語っている。

 

彼は実際にVulture誌にこのように語る。

 

俺は4日でこのアルバムをレコーディングしたんだ。あまり考えすぎずに作ったら、自分が音楽を出すことに対して不安じゃなくなった。アルバムに対する自意識や不安がなくなったんだ。「自分と競う」であったり、「ベストを更新しないといけない」という感覚があまり好きじゃないんだ。もちろん目標を設定することはいいことだけど、音楽そのものが語る感じにしたい。構成をしっかり決めた、テーマがあるアルバムも良いけど、聞いた各々が構成を決める部分もある。

 

「Death Race for Love」

このアルバムの制作秘話を知り、そしてアルバムの内容を考えると、Juice WRLDという人間が少し見えてくるであろう。彼は若く、その繊細さを惜しみなく「等身大の感情」として口から出している。「自分の繊細さを認めることを恐れていない」という彼自身の言葉に、このアルバムの本質が込められているようにも感じる。もちろん深く構成されたアルバムは素晴らしいが、あまり考えすぎると、感情から「鮮度」が失われていくという考えからも、彼はそのままの感情をフリースタイルでアウトプットしていくのだ。そんな自身の繊細さと、心のダークな部分も擁する彼の姿を見て、多くの若者が共鳴するのだろう。もちろんドラッグに関するリリックがネガティブな反応を受けることもあるが、彼はそのような内容に関しては、「今は自分はハッピーになりつつあるし、ドラッグもやっていない。でも一度その経験をした俺は、その状況に苦しんでいる人々の代弁者になれる。そういう人たちをリードして、最終的には笑顔にしたい」という旨をVulture誌にて語っている。さらには「ドラッグをやって苦しんでいる人に指を差して馬鹿にするんじゃなくて、その人たちがいる状況を理解して、手助けをしたい。そのようにして手を差し伸べるのが正解だと思うんだ」と自身の経験を踏まえ、ドラッグに関しての意見も述べている。

 

多くの音楽を「吸収」し、自身の音楽的スキルとして身につけてきた若き才能Juice WRLD。憂鬱な経験をしてきた彼が、自身の繊細さを擁し、等身大の感情を新鮮なフリースタイルで自由に表現したアルバムが「Death Race for Love」と言えるだろう。

 





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