新アルバム「Chixtape 5」をリリースしたばかりのTory Lanez。こちらのアルバムは2000年代初期のヒットソングを多数サンプリングしており、多くの人が「どのようにしてサンプリングの許可を得たのだろうか？」と気になっている人も多いだろう。以前「サンプリングの許可を得るスペシャリスト」について書いたが、今回はこのアルバムにてどのようにして、Toryのチームがサンプリング許可を得たのかをDJ Boothのインタビューに基づいて紹介したい。彼らはToryのマネージメント・チームにインタビューしており、そこで全貌が明かされている。
彼らは多くのサンプルを使用した「Chixtape 5」のサンプル・クリアランスなどはどのように行ったのか、その詳細を知るため、Philip Payne、Troy Dubrowsky、Sascha Stone Guttfreund、Lauren Corcoran、Kwame Kandekoreなどの人物にDJ Boothはインタビューをしている。
Sascha Stone Guttfreundは「17個のサンプルの使用許可を取り、それには19人の弁護士が関わった。皮肉にも、実際にフィーチャリングとして参加したアーティストにはギャラが出ていない。」と語っており、元ネタの作曲者を除いたとしても、アルバムには29人ものソングライターが関わっていることも明かした。
また、これだけの人数が関わっており、多くの楽曲をサンプリングしている作品であるため、製作期間としては10ヶ月であったらしい。そのうちの半年ほどがサンプリングの許可を得るのに使われたらしく、いかにサンプリングの許可取りが時間のかかる作業かが伝わってくる。
以前「サンプリングの許可を得るスペシャリスト」という記事でも、アーティストやレーベルによって許可を降ろす温度感が違うと紹介されていた。「どのサンプルの使用許可を取るのが一番難しかったのか？」という質問については、以下のように答えている。
「特に難しかったものはなかった。権利者とソングライターの間のダイナミックは、それぞれ違う。状況によっては、すぐに済むこともあった。他にも、何度も電話をする必要があった場合もある。興味深かったのは、アーティストやレーベルの多くが、サンプル使用料の代わりに、自身の楽曲にToryに参加してほしいという交換条件を要求してきた。彼らが我々を助けてれくれたり、お互いをリスペクトして作業を進めていく内に、気づいたことがあった。みんな、Toryが楽曲を甦らせることについて、感謝してくれるんだ。」
またSaschaは、「使用許可を取れなかったサンプルはあったのか？」という質問にも答えている。
「Toryは最後に、もっと曲を足したいと考えたんだけどね。それを除けば、オリジナルのトラックリストにおいては、すべてサンプルの使用許可を得ることが出来たよ。」と語っており、トリーがいかに謙虚に、かつ真摯な気持ちを込めて元ネタのアーティストに電話をしたかも語った。そのリスペクトも伝わり、全楽曲の許可を得ることができたようだ。
他にも、「Toryも費用を負担する必要があったのか？それともInterscopeがすべてを支払ったのか？」という質問があった。
「Interscopeはすべての費用をカバーした訳ではないけど、貢献はしてくれたよ。Toryについては、自己投資を惜しまない人だ。2011年から彼と仕事をしている僕自身が言うんだから間違いない。ToryとPhilipと俺はテキサス州のオースティンにて1年半ほど暮らしていたんだ。Philipとは同じ大学に行っていたくらいだし。だからToryを誇りに思うよ。」
こちらのアルバムを制作するにあたり、全楽曲の全サンプル、権利者、アーティスト、作曲者などをチャートにして、並べたと語られている。その8ページに渡る資料をチーム全員で協力しながら、プロジェクトを成功させるためにロジカルに、かつ熱意を持って取り組んだのである。元ネタを含め、全部で97人もの作曲者がいるこのプロジェクト。概要を聞いただけだと「実現は無理でしょ」と思うかもしれないが、彼らは「シュートを打たない場合、そもそもゴールに入ることは絶対ないんだ」と語っており、このプロジェクトからは、その挑戦する精神を学ぶことができる。
