Text: Kaz Skellington(Playatuner)
2018年ももう終わりに近づいている。毎年この時期になると様々なメディアが一年の総括記事をアップしはじめるが、今年運営をスタートしたHIP HOP DNAにとって、はじめての年末となる。そんな第一回目の年末に、2018年の総括となる記事を依頼されたことを光栄に思う。いつもはPlayatunerというメディアを運営したり、J-Waveにて「Booze House」という番組をやらせて頂いているなかで、普段は旬な「ニュース」というものはあまり取り上げないので恐縮であるが、そんな私が印象が残っている2018年の出来事を総括させて頂きたい。毎日ニュースが絶えないなか、印象に残った重大ニュースをいくつか紹介したい。
「ヒップホップ/ラップはただの流行りでしかない」
今では全世界で大人気のヒップホップであるが、昔はヒップホップ/ラップについて、上記のように言う人もいたようだ。多くの人々の人生に影響を及ぼし、前に進む「居場所」を提供してきたヒップホップは流行りでは終わらず、常に最先端の音楽/カルチャーとして社会にインパクトを残してきた。2018年はそんなヒップホップがまた新たなレベルで世界に認められた年であったように思える。
昨年、Jay-Z(ジェイ・Z)がラッパーとして初となるソングライターの殿堂入りを果たし、「これは私たちにとっての勝利だ。ラップは”流行りものとして終わる”と言われていた。しかし今では歴史上の最も優れていると言われているソングライターたちと肩を並べている」とツイートしたことは記憶に新しい。そのこともあり、昨年もヒップホップ・コミュニティにとっては大きな一年であったが、今年はまた一歩先に前進したように感じる。ケンドリック・ラマーの「DAMN.」がピュリッツァー賞を受賞し、歴史に新たな一ページを刻んだのだ。さらに単に受賞しただけではなく、ジャズとクラシカル以外の音楽ジャンルでは初の受賞であり、その意味の大きさを実感させられた年であった。もちろん「DAMN.」以前にも受賞にあたいするヒップホップ作品は多くあったと感じるが、このタイミングで、世界中の幅広い層と共鳴するケンドリック・ラマーというアーティストが受賞したことを嬉しく思う。
2018年のケンドリック・ラマーと言えばピュリッツァー賞以外にも、「ブラックパンサー」のサントラ、フジロックでの来日、来日直前の交通広告、そしてNHK出演も大きな話題となった。個人的には特に暴風雨が炸裂するフジロックで見た彼のステージは一生忘れないだろう。イントロ映像の直後に、突風と共に登場した彼は、そんな突風をも演出として味方につけたかのような「凄み」を持っていた。
もちろんヒップホップを前進させたのはケンドリック・ラマーだけではない。Cardi Bが米シングル・チャートにて複数の記録を打ち立て、一躍2018年を代表するアーティストとなった。初チャート入りから3曲連続でトップ10入りした初の女性ラッパー、初チャート入りした曲からの流れで3曲が同時にトップ10入りした初のラッパー、R&B/ヒップホップチャートにて5曲同時にトップ10入りした初の女性アーティスト、Apple Musicにて女性アーティストの初週のストリーミング記録を更新…このように多くの記録を達成した。女性ラッパーと言えば、ミッシー・エリオットが2019年のソングライターの殿堂にノミネートされたことも記憶に新しく、殿堂入りすることを願う。
2018年はCardi B以外にも、複数のヒップホップアーティストが伝説的なアーティストの記録を塗り替えた年となった。Post Maloneの「Stoney」が77週チャートインし、マイケル・ジャクソンの「Thriller」が持っていた記録を塗り替えた。大ヒットと言えば、Drakeの「Scorpion」も大ヒットし、12曲がトップ10入りを果たした。これはビートルズが持っていた記録を塗り替えた形となり、今年の夏の話題は「Scorpion」でもちきりであった。
大ヒットや流行という意味でも「Drakeの年」であったが、Drakeに関してはさらに話題になったことがある。それはPusha-Tとのビーフであろう。Pusha-Tの「Daytona」はグラミー賞のベスト・ラップ・アルバムにもノミネートされており、彼が代表を務めるカニエ・ウェストのレーベル、G.O.O.D. Musicの連続リリースも今年のハイライトだ。その連続リリースのなかでも頭一つ抜けていたのがPusha-Tの「Daytona」であったように思える。そんなPusha Tは、Drakeがゴーストライターを雇ってヒットを生み出していることについて、Drakeをディスった。そこからさらに発展したビーフがきっかけで、Drakeに隠し子の存在についても、世間が知ることになった。お互いが公開するディストラックのスピード感、そしてその情報の密度を目の当たりにし、技術が発展したインターネット時代のヒップホップ・ビーフというものを改めて肌で感じた。
ビーフについて考えると、今年は様々なアーティストの確執が目立った。先程も書いたCardi BがNicki Minajに靴を投げSNSに怒りの投稿をしたり、Machine Gun Kellyとエミネムがお互いにディストラックを公開したり、カニエ・ウェストがDrakeに向けた怒りのツイートを連発したり、その多くにてSNSが重要な役割を担っていた。単にSNSがビーフの戦場となっただけではなく、お互いの顔を見てコミュニケーションすることができないソーシャル・メディアが、相手に対してのネガティブな感情をさらに引き出したかのような場面も多く見られた。このような事例も、インターネット時代のヒップホップ・ビーフを感じる要因となった。
ヒップホップが前進した年でもあるが、若き才能を失った年でもある。マック・ミラーとXXXTentacionは二人とも素晴らしい作品を世に出したアーティストであったが、惜しくも亡くなってしまった。マック・ミラーの音楽への理念は素晴らしいものであり、多くのアーティストが彼を讃えている。マック・ミラーが人生ではじめて受けたインタビューが公開されたのも記憶に新しく、彼がいかにアーティストとして成長したのかが伝わってくる。
昔は「ただの流行りで終わる」と言われていたが、今まで以上に世界的に前進したヒップホップ。今では最も売れているジャンルになり、RIAAのプラチナ/ゴールド認定もヒップホップ作品が多く占めている。1970年代にサウス・ブロンクスに住む社会的マイノリティ層が作り、多くを持たざる者たちが自分の存在を世界に示すための礎となったこの文化。そんな文化と表現方法が世界中の人々と共鳴し、様々なフェーズを経て、今や最も人気なジャンルとなった。ソーシャル・メディアに翻弄されつつも、2018年はヒップホップにとって重要な年であったと言えるだろう。来る年もヒップホップの成長に貢献し、多くの人にインパクトを与えるお手伝いができるように、当事者意識を忘れずにヒップホップの想いを伝えていきたい。